電撃キッス 〜 暗躍のうねり xxxvij
周囲を取り巻くヘリ腹部の音響装置無効化のための準備は整った。
そうして、今度は棒末端の足場をオーラの触手のようなものでガッシリ掴み、棒に対して反時計回りとなるよう回転しながら、ゆっくりと角度と半径を拡げていく。注意すべきは棒の回転面に対して力を加えないことだった。ここで無用な力が加わると、ジャイロプリセッションが起こり、棒の回転体に不用な力が生じてしまうからだ。今のマコトでは、そのプリセッションが起こった先の挙動や、大きすぎる回転体の変化がもたらす影響が読みきれないため、それだけは絶対回避なのだ。
今、大きい方の棒の回転系は、周囲のヘリの僅か手前まで伸長し、回転も安定した状態で、ヘリの大体1000ft下方を時計回りに巡っている状態だ。その一つの棒の先端からオーラの触手で同じく円錐状に反時計回りに回転しながら、マコトは最後の準備を再確認しているところだ。
『よし! 回転も異常なし。ヘリも少し遠いけど、コレくらいならなんとかなるかな? うん。じゃあイル? 電撃蜂を1個頂戴?』
『うん。はい。でも何をどうやるの? いつにも増して説明ないからさっぱりだよ?』
『あー、うん。説明ね。うん。なかなか難しいなぁ。電撃であの装置を壊すんだけど……まぁ、見たらわかるよ! じゃあ行くよ!』
『もー、なんとなくの推測はあるけど、詳細はさっぱりだよぉ。でもまぁ急ぐしわかった。指示だけはしっかりね?』
『うん。じゃあ次の電撃蜂、準備よろしく!』
『わかった。次のはもう準備OK! 次々に交換装填してくってことだね?』
『そうそう。さっすが! じゃあゴー!』
その掛け声を合図に、マコトは棒がヘリに差し掛かる少し手前で、触手の反時計回りの下側から上向きとなった瞬間に、棒からオーラの触手を放す。このタイミングはなかなか微妙だが、この最初の一発はマコトの思い描く絶妙のタイミングで、ヘリの手前段階から、棒の回転の前方方向へと進む力と相まって、狙ったヘリの腹部の機械に向けて飛んでいった。
イルを抱えたままのハンドル付きスケボーは勢いよくヘリ腹部に近付き、途中微調整をしつつ、マコトはヘリ腹部の機械の向こう側に相対的に静止するよう下半身をしならせ、スケボー下面の逆噴射を調整する。
同時にマコトは自身の能力を解放しながら、右手に持つ電撃蜂を構える。能力解放と同時にマコトの髪は金髪から漆黒の髪色に、瞳は碧眼から黒眼に変わり、かなり厚めのオーラを纏い、周囲に散らばるような煌めく輝きを放つと同時に吸い込む、得も言われぬ美しさを魅せる。ただし、ステルスポンチョで遮られるため、フードの内側から見え隠れする程度ではあったが。
ここで漆黒の力を発揮するわけは、複雑な軌道制御を円滑に確実にする意味もあるが、マコトの漆黒の力は電気的なものに対し、透過的な見方や力の与え方を可能にする力を有している。今見据えるヘリ腹部の音響装置を無理なく無効化するためには、どこを狙えばそれが可能かを見定める必要があったからだ。
マコトは音響装置の向こう側に相対的に静止させた上で、接触させる位置を見定め、直前まで回転を加速していた電撃蜂の、あるスイッチをオンにしながらソっと当てる。
ぎゅぅん、バチィィン!
ビシビシビシッ……ひゅぅぅぅん。
その接触部分では一瞬激しい火花を散らす。と同時に装置が纏っていた微振動がピタリと止まる。どうやらうまくいったようだ。当てる直前まで、音響装置の放出口の前で揺らされていた空気は、当てた直後は揺れもなくなり、装置内部に疾走っていた電気的な波動は収まり、内部に籠る熱もすぅーっと冷めていくことをマコトは感じ取る。
しかし、その放電現象とは別に、電撃蜂の内部では若干の回転の不均衡からプリセッションが作動して、マコトの手に余り、マコトの後方に飛び出していく。マコトもこの影響で後ろに押し出されながらも、電撃蜂の外部に取り付けた紐により飛んでいくことはなかったが、電磁ブレーキのように回転自体は急制動が掛かったためか、ヨーヨーのようには巻き戻らなかった。マコトは落下しながら手繰り寄せることになる。
紐を巻きとった電撃蜂はやや焦げ臭さを感じたが、回転系はまだ大丈夫なようで、イルに渡して、装填済みの電撃蜂と交換する。
『うまくいったみたい……はい、イル? 交換ね。また装填お願いね?』
『わ、わかった。今何が起こったの? びっくりだよ! でも、あーそうか、そういうことかぁ。確かにこれの説明は難しかったかも?』
マコトとは唇を結んだままのイルだったが、目まぐるしく変化する姿勢と光と音と音響機器の醸す振動による震えとその消失に、唇を離すこと無く、横目に飛び込む視界からかなり驚いたようだ。それでも唇を離さないイルは、うつつを抜かしたまま、脳裏では論理展開しつつ、状況整理が進んでいたようで、納得の意を返す。
『でしょ? で、直ぐに次行くけど、しっかりマコに掴まっててね?』
『あ、うん。って……あれー? わわわ、落ちていってるよぉ? ……キャー』
そして、そのまま今度は落下のフェーズだ。さすがに落下していく体感は怖かったようでイルは悲鳴を念話に漏らす。
『大丈夫、大丈夫。装填忘れずにね?』
マコトは、そんなイルの怖がる様子に、いつものように大丈夫コールを掛けるが、ふと違和感に気付く。
『怖がっている割には、イル、唇を離さないんだね?』
そう。怖がるほどの体感をして、なお唇は固く交わしたままだったのだ。少々呆れながら皮肉を返すマコトだった。
『そ、そぉお? 怖いけど、ううん、怖いからこそマコちゃんに抱きついてたいし、このキスは心まで安らぎをくれるんだもん』
マコトの言葉に対するイルの返事は、怖いからこそ離れたくないのだとか。なるほど、一理あるか、などと、マコトは思いながら、そんなイルの姿にちなんで、今の技に命名するならと皮肉たっぷりに返すのだった。
『そ、そーなんだ。イルもだけど、マコも電撃蜂でチュってキスしてるみたいだから、この技名は電撃キッスでいいかもね?』
同時に、今までの聡明なイルはどこへやら〜、と心の中で自身に問いかけるマコトだった。
ところで、今、何が起こったのかだが、まず、マコトのこの電撃蜂とは、ダイナビーもどきの高速回転体とその軸部分にコイルと磁石を仕込んでいた。それだけなら、通常のダイナビーもどきとして、回転し、回転速度を加速させることができるものだ。
しかしマコトの操作したスイッチにより回路がクローズさせられると、超高速回転は、電磁誘導により、超高周波とともに高出力の電気エネルギーに変換される。マコトの漆黒の力に頼るまでもなく、この超高周波を伴う電気エネルギーは、電子機器の保護回路を飛び越えて、回路を物理的に焼き切るものだった。一瞬の静寂とともに冷めない予熱の前には、いかな装置でも継続可動は困難なようだ。
落下していくマコトたちだが、マコトは次の棒の先端が巡ってくるのを捉えて、オーラの触手で掴む。自身を引き寄せながら、先ほど飛び立つ前の円錐状の軌道に乗れるように調整しながら接近する。
重要なことは、大元の棒の回転体へのプリセッションを起こさせないことで、その回転面に対して一切の押し引きが生じない、スムーズな回転軌道に乗ることだった。
これは、その接近軌道だけでなく、速度が速すぎても軌道に乗った直後にいずれかの方向に力が発生するため、今落下の加速度に対する調整、体感による速度の把握など、難易度は高いのだが、マコトの空間把握能力と、次の棒を選択したことで生じる時間的な余裕から、なんとか調整してみせるマコトだった。
そうして、棒先端からの円錐状の軌道復帰に成功したマコトは、次のヘリ腹部の装置を見定める。が、次の棒を選択した関係上、その選択はワンテンポ早かったようで、棒先端部での円錐はもう一巡りしてからの飛翔となる。以降は同じ要領で次々と装置無効化を図る。これまで無効化した装置のヘリは継続的に飛行できていることからも、装置のみの無効化に成功していることがわかり、ひとまず安心するマコトだった。
4機目が完了する頃には、要領が掴めて余裕のでてきたマコトは、棒を先送りしない、立て続けの電撃キッスに挑戦してみる。それは思いの外、うまくいき、時間短縮にも繋がるのだが、あくまでタイミングがうまく合わないと失敗するようで、2機ほど失敗して取り漏らした状況で10機めまで到達し8機が完了している状況だ。数機を漏らしていても、少数なら威力も下がることから、漏らした2機はそのままで継続することにしたようだ。
『あと6機。イル? もうひと踏ん張りだよ?』
『わかった。でも相手も何か反撃してくるのかなと思ったけど、今のところ静かだね?』
『そうだね。イルも余裕出てきたと思うから、周りのヘリの動向、変化を見てくれる?』
『任せて! イル、了解!』
そんな会話をしていた矢先のことだった。
ドシュン…………チッ…………ガシュッ……
飛行による対流となる暴風騒音ベースの静寂を打ち破る一撃が放たれる。
『ななな、何? 何が起こった?』
慌てたマコトは、念話に漏らしながら周囲を振り返る。イルはちょうどその瞬間を目撃し、発射元と着弾点を見返す。
『マ、マ、マコちゃん? 進行方向の正面のヘリから何か撃ってきたよ! たぶんソフィーのところに当たったような? ……』
『え? ママ? ママーっ!』




