電撃蜂 〜 暗躍のうねり xxxvj
今、マコトたちの眼の前にある課題は、周囲を取り囲むヘリが腹部に抱える音響装置らしき機械に苦しめられている現状の打開、そのためにこの機械を無効化することだ。その手段として、マコトはイルになぜかダイナビーもどきを回転させる演練を指示し、マコト自身はソレに到達するためのオーラDIYに取り掛かっている。
ソフィアのいるところを中心に大体0.6〜0.8NMくらいだろうか、全周に均等な距離と等間隔な方向にある敵ヘリコプターを巡る必要があること、また、当然コチラの動きを可能な限り察知されたくはないこと。さらに後の影響を考慮すれば派手に破壊しては元も子もない。そのような理由から、今は気付かれないように電撃などで、ソォーッと壊すのが最適解と見ているようだ。
それらの命題に基づいて、マコトは次々と方策を選び取っていく。
まずは、ソフィアがオーラで作った足掛かり構造の真下、支柱下端部分を軸に、回転する堅固な土台を形作る。基本的に作るものはすべてオーラで生み出すようだ。
次に同じくオーラで仕立て上げた、大体100mほどの太くて長い透明な棒をマコトは4本作成し、ぶら下げる。それぞれの棒は軸から均等に90度ずつの4方向に開き、自由な角度変化を可能とする可動軸を持つものだ。本当は棒の数は少なく済ませたいが、回転体はバランスが命で、かつ作業で離れる場合に、次の棒のタイミングが360度や180度の回転後とするよりは90度回転後のタイミングのほうが何かと都合がよさそうで、4本としたようだ。
そして、回転軸の反対側となるそれぞれの棒の先端には、マコトたちが掴んだり、その位置に立てるような足場構造を作っておく。それをゆっくりと回転させながら、少しずつその遠心力で角度を拡げ、棒の長さも少しずつ細く伸ばしながら徐々に半径を拡げていく。
丼勘定だが、1NMは6000ft、約1.8kmだから、ヘリ位置となる概ね0.7NMなら、大体4000ft、1.2km程度。けっこうな遠さだ。
そしてヘリの飛行高度は低高度。大体3000ftで真下に伸ばすと地上にぶつかってしまうから、当然、角度増加が優先だ。この棒は重さは軽めな中空パイプとなるよう、かつ伸ばしながら堅さは強固に細く長く、魔力を注ぎながら、急ぐが焦らずゆっくりと伸長形成していく。
もちろん空気抵抗と揚力獲得傾向を考慮した流線形で、ヘリのローターのようなものだ。ゆっくりと時計回りに回転させるのだが、これだけ半径が大きいと、末端側の速度はかなり大きくなり、それぞれ回転方向の後ろ側へ若干しなるような曲線となるようだ。
軸から下方に向けた広い円錐状の回転構造となるため、棒の先端部分からヘリへの高度差もけっこうな高さとなるはずだ。そしてそれを近づけようと遠心力を増してしまったなら、軽く4G以上となってしまう。
バランスの採れた円錐状の回転状態で生まれるGは図形描画するか三角関数のCOSで求めることが可能だ。例えば棒の傾きが60度なら、COS60度で2Gとなるわけだ。空間を移動する、すなわち飛翔のために力を行使する以上、空力は無視できない。
その力の合成を考えるには、作図理解はもちろんだが、三角関数の考え方は必須でありS国にてジンから手解きを受けた2人だ。
特に当時のマコトは未就学児のため高校で習う三角関数などは習ったこともない。いや、未就学児なのだから、当然、一切の教育は受けたことがないわけだ。しかし、日本出国前の引き籠もり時にあらゆるコンテンツを驚速で観まくったことから、中学程度のさまざまなことを概念的にイメージ理解し、今のマコトは、大人との会話も遜色ないほどの思考力を培ってきた天才少女なのだ。
そのような経緯から、ジンからの三角関数の手解きにより、基本的な考え方と、30度、45度のざっくり構図だけは本質理解している。実際、今の丼勘定のような場合なら、この2つの角度の各種関係性だけ知っていれば、大抵ことは足りるものだ。さらに空に対する憧れを持つことも後押しするのだが、空間における、実際の慣性の世界に既に身を投じてきたマコトだからなおさらだ。
そんな力の合成を思い描く作図イメージでは、静的な力関係はもちろんのことだが、そこに旋回が加わり、回転によるGが加わり、自他や空と大地への考慮が加わり、と、考え始めれば、どこまでも尽きることがないくらいの思考に発展するが、今のマコトは興奮気味にその過程もなかなかに愉しんでいるように見える。
ただ、今回のダイナビーも含め、高速な回転体から生まれるジャイロ効果、特にそのプリセッションという事象だけは、力の連鎖が生むその先を考えることが、少々苦手なようだ。
今ソフィアの居場所を軸とする水平な回転で、下方にぶら下がる棒が形成する円錐状の構造体を考えるとき、その末端位置において、過度なGは避けたいマコトだ。
自然な遠心力で少なくとも2G以下とするには約4000ftの距離に対して、大体その半分の2000ftの高低差より大きくする必要があると考えている。飛行機の水平旋回飛行なら60度バンク程度が必要な旋回となるからだが、作図からもその高度差には棒の長さの半分が必要となるわけだ。
本当にざっくりな計算だが、思考を進めるために今はそれで充分だった。
ところが、ヘリのローターのような形状のため、上向きにたわむような形で、ヘリとの高低差は1000ft以下に安定するようだ。それでも約300mという高低差はかなり大きなものだが、敵に認識されないためには程よい高低差とも言えるだろう。
そうしているうちに、イルのダイナビー初期回転の装填スキルは練度をかなり上げ、紐を使わずとも、内部回転体の取っ掛かり位置を魔力で捉えて回せるほどに、数秒もあれば高速回転状態にスムーズに持っていけるほどにスキルアップしていた。
『マコちゃん? お待たせ! もう回すだけならチョチョイのチョイだよ? 物理的な裏取りは全くだけど、なんとなくな概念、回転の不思議な法則的な何か? はわかったかもだよ。ところで今のこの場の棒の回転体? いつの間にかグルグルと……けっこうな速さで回ってるからGもなかなかだね』
『お! できたんだね。さすがイル! そう、たぶん2Gくらいなんだけど、コンティニューでかかるからちょっとエグいかもだね。コッチも大体準備できたから、早速とりかかろうか!』
『うん! って、何をやるかの説明がまだだよ? そそ、それに魔力もちょっと心細いかも?』
『うん、ぃひひひ。だろうね。わかってるって。はむ』
―― えぇぇ……前置きなし? ……
―― き! 来たぁ! コレコレ!
―― 嫌じゃないから……
―― ウウンいつでも良いんだよね……
―― フゥヮァ……とろけそぅ……
『あ! そうか。口で喋るわけじゃないから……念話だから喋れたぁ。気付いてなかったぁ……』
キスをしながら喋るという発想に欠けていたマコトには重大な発見だった。普通なら、キスをしながらの会話は必要ないものだと思えるが、キスされながら、それにうつつを抜かしながらも別のことができてしまうイルが相手なら話は別だ。このアクチュアルな場面で、時短とより濃密な共有ができることに、マコトはかなりの衝撃を受けたようだ。
『そ……そうだけど……しゃ、喋りに気が……』
しかし、イルは同時に他のことは為せても、会話には気が回らない旨を零す。
『そっかぁ……どんだけ? ……羨ましいけど、まぁ次のタイミングまで少しだけど浸ってなよ。次は忙しくなるから覚悟しててね!』
『う……うん』
あ! っと思いながら、マコトは今から使うダイナビーもどきの交換と回転装填が必要なことを思い出すが、イルなら魔力補充しながらでも大丈夫か、との考えで、キスしながら、新しい本番用のダイナビーもどきを取り出し、念話で指示を伝える。
『あと、浸ったままでいいから、本番用の新しいダイナ……うーん、名称がまどろっこしいね……これからは……そうだ! 電撃蜂! ……これでいいか、それを2つ渡すから、さっきまでの練習用と交換ね? 要領は同じでいいから、直ぐに回転を装填してくれるかな?』
指示しながら、マコトはイルに電撃蜂を手渡しし、練習用を受け取る。その間もイルは半分夢心地のままだが、受け渡しだけはキチンとこなす。その見事なマルチタスク振りに惚れ惚れしながら感心するマコトだった。
『……うん……わかった……ふゎゎゎ……電撃蜂ね、なるほど〜、なんとなくわかったかも? 回転装填しておくね……んふっ』
『うん。お願いね。ここから忙しくなるから、そうそう浸っていられないかもだけどね……ふふっ』




