羽音を鳴らす 〜 暗躍のうねり xxxv
敵ヘリコプターが腹に抱える音響機械を無力化するために、マコトは寝起きのイルにダイナビーもどきを渡し、回せるように、との指示を出す。
そうして、イルのダイナビー演練が始まる。
マコトはマコトで、今自分のやるべきことにかかりきりだった。マコトは、ダイナビー演練に没頭するイルを抱えるかたちで、回転の軸の下側部分に移動して、なにやら作り始める。
イルは、紐を掛けて引っ張り、回転数を増やそうと……。
シュッ……ガガコッガコ……シュゥゥン。
回転面に回したり、振ったりしてみるが、回転数の加速に繋がる気配は全く感じられなかった。
『アーン……また失敗? そう! 一切できる気がしない。いったいどうやればできるの? マコちゃ~~ん』
『はいはーい。ふふっ、そうだよね? 理屈はいったん置いて、やっぱりやって見せた方が早そうだね? 回転の初動を活かして回転面に直角な面に沿って円錐状、ほらこんな風にコネコネ回す感じだよ?』
シュン……カシャカシャッ……クゥゥー……グゥゥー……ビィィィン……。
『ほらね? ココまでならカンタンでしょ?』
『あれま? そんなカンタンに? ホント、なーるほどぉ……』
『そう、ほんの少し……ほんのちょっとだけ、要領掴めば直ぐ、あっという間だよ。だけどね、ココから先はちょっと力が要るんだ』
そう言いながら、マコトは内回転面を捻りこむように回転を追いかけるように力を加えていく。
ギュン、ギュン……ギュゥゥン……ギュゥゥゥゥン……ビィィィィィィィン……。
すると、蜂の羽音が小気味よい回転音を放ち始める。どうやら目的の回転程度に達したようだ。マコトの持つソレを、イルは感心しながら覗き込む。
『ホォホォ……それでも簡単そうには見えるんだけどな?』
『そう? ならイルは直ぐにできそうかも? あ! 回すのこのくらいまででいいからね。そうだ! コレ、どんな感じか、ちょっと持ってみる?』
マコトにその高速回転状態のダイナビーもどきを持つかと問われたイルは、少し驚き、躊躇いながら視点をゆっくりマコトの瞳に合わせる。
『大丈夫大丈夫!』
すると、マコトはいつもの大丈夫エールで微笑み返す。イルもそれなら、と頷きながら手を伸ばす。
『うん!』
『落とさないでね? はい、ココ持ってみて?』
マコトは反対の手でダイナビーもどきの下部を支え持ち変える。イルは恐る恐る伸ばした手で、マコトに誘導された位置に触れる。すると触れた表面から微振動が伝わってくる。
確かに高速回転に見合った唸る音と振動だ。でもこのくらいなら……と思い、相応の力加減でイルは摘まむように持ち上げ……ようとする……。
『ぇ? ぅっゎぁぁぁ!?◇☆△!……』
が、その指を押し分けるように突如、意識を帯びたように途端に暴れ始めるダイナビーもどき。驚くイルだが、その手を離すわけにはいかない、と指の力で力強く押し込もうとする。そんなイルの意識の向きとは異なる、明後日の方向へ蠢く様子にイルは堪らず声を張り上げる。
『ななな、なにこれぇ……まるで生きてるみたいに暴れるよぉ? ……』
そう言いながらも不意に暴れてイルの手から弾き溢れる。
『あゎゎゎ……はっ!』
慌てて掴もうとするがそれも弾かれ宙に舞う……。
『……ほっ!』
放物線を描く先のダイナビーもどきに手を伸ばすが、触れると別方向への力が生まれるのか、またも弾かれる。
『あ、ダメー!』
イルの奮闘も空しく、手の届かない下方へと落ちていくダイナビーもどき。流石に観念したイルは、今にも泣き出しそうな顔付きで力なく見送る。しかしあるところでそれ以上落ちることなく、次の瞬間にはせり上がり、伸ばしたマコトの手に吸い込まれるように収まる。
しゅるる……ぱちっ!
どうやら、マコトはヨーヨーの糸を巻く仕組みも作り、別途仕込んでいた細い糸を引っ張っていたようだ。ダイナビーもどきの外側が回転しながら落下した先で巻き戻り、マコトは鮮やかにキャッチできたようだ。
『やっぱり、落っことしたかぁ。紐を張っといて良かったよ。ほっ』
『ゴメン。また落っことすところだったぁ……』
イルは、まだスイーツを落としてしまったことから立ち直れてないのか、やや沈んだ表情で目線を落とす。
『あははは。大丈夫大丈夫! それも織り込み済みだから……』
なんでもないのだとマコトは笑いながら諭すが、そう簡単に気持ちは入れ替えられないと思ったマコトは、話をすり替える。
『でもこれでわかったでしょ? 体力増強器具だけど、説明ムズいって言ってたことの本質的な意味まで』
少し気を取り直せたようで、イルは素直な心持ちを返してきた。
『そそ、そうね。もうコレは異世界ね。ココまで違う常識だったなんて……』
感じ方は少し特殊そうだが、大丈夫そうだと、少し安堵したマコトはさらにもう一押しする。
『そう思っちゃうよねー。でもコレ、ちゃんと物理法則通りなんだよね?』
『え? そうなの? イルはてんでわからないけど……』
すると、その不思議さは何らかの解き明かされた自然の理に従ったものであることに驚くとともに、今のイルはまったく理解が及ばないことを漏らす。
『だよねー。マコも仕組みを考えるとわけわかんなくなるもん』
そんなイルの反応にマコトも同意を示す。満面の笑みを浮かべながら、マコト自身も不理解であることを返すと、イルは少しだけ目を見開く。
『え、マコちゃんでもそうなのか。ならイルもちょっと頑張ってみるよ』
今、完全理解していなくても良いことにイルは少し安心したようだ。目尻の緊張が緩み、イルの表情は少しだけ和らぐと、少し瞳にやる気が籠もったようだ。
『そーそーその息だよ。頑張ってみて!』
『うん!』
マコトは、イルのそんな表情変化に嬉しさを滲ませながら、激励で返す。すっかり気持ちの晴れたイルは、ダイナビーもどきの回転起動に無心に取り組み始める。
そうしていよいよ、ここからがマコトのオーラDIYの始まりだ。
誰もが纏うオーラは透明だ。そして多くは身体の表面に薄皮1枚あるかないかの薄いもの。しかし、稀にいるオーラ掛かった人物とは、僅かな厚みを有し、内から発する心の燦めきが作用することで、それに共鳴する人を惹きつける何らかの心象効果をもたらす。一般的なオーラとはそのようなものだ。しかし魔女に限っては少々様相が異なる。
マコトの幼稚園の騒動をきっかけに、S国に移り住んで暫くした頃、マコトは自身の視える世界に異変を感じ始め、それを打ち明けたソフィアから、魔女の血筋であることを知る。その異変とはオーラが見え始めたことで、主には燦然と輝く後光が眩しすぎてソフィアを直視できなかったというものだ。後に知るマコトの細やかなオーラ知覚度は、ソフィアを遥かに凌ぐほどのものだった。
またS国ではキャンプ設備による暮らしで風呂はドラム缶風呂に浸かる日々だったが、不便ながらもその無骨さも自然に溶け込める感覚の毎日が楽しいマコトだった。そんなところに、外部からの不法侵入を阻む強固なシールドと、同じく外から視えにくくするシールドというものを日々の入浴前にソフィアが作成していたことを知る。
さらにそのシールドは溢れるオーラが素であること、オーラとは生体エネルギーのことであり、魔力を操りそれを仕立て上げていることを知ったマコトは、この日以降、オーラDIYにどっぷりのめり込んでいく。
そのような経緯を経て、今のマコトのなんでも直ぐに作り上げてしまう素地が出来上がり、今ではすっかりモノ作りオタクとして日々研鑽を重ねるマコトであった。




