どうするのコレ 〜 暗躍のうねり xxxiv
敵の機械を無力化することについて、ジンとの話を終えて、マコトはこれからの行動のためにイルを眠りから起こそうとしていた。すると……。
〝Wait, what ? Are those... little girls ? 〟
どこからともなく。
〝And they’re super young, 〟
〝too-- like, seriously adorable. Both of them. 〟
囁きのような何かが鼓膜を震わせるように。
〝Man, I’m jealous. They’re just so cute.〟
か細い音として聴こえてくることにマコトは気付く。
―― え? なに? どこか遠く?
―― いやすぐそこ?
―― でもこんな飛行中の風圧の中だから……
―― 騒音に掻き消されて、
―― 音なんて聞こえるはずないのに……
マコトは響いてくるソコ、具体的にはよくわからない 、その声のような音の像に向けて、その音の不思議な鳴り方を真似るように……声? いや唇は動かすが、そこから発する音声ではない何かを震わせるような不思議な力を発する感じを思い浮かべながら、ひとまずマコトは日本語と英語で問いかけてみる。
〝誰か、わたしに話しかけてる? Is someone talking to me?〟
マコトの問い掛けに、囁きのような何かは沈黙する。3テンポくらい遅れて、ようやく囁きは英語で再開する。 以降は和訳した内容だ。
〝・ ・ ・ え?! ここ、応えてきた? 僕の声が聞こえるの?〟
〝あー、やっぱり話しかけてきてたんだ〟
どうやら驚きのあまり、囁きの主は、我を失っていたようだ。2人の奇妙な英語の会話が始まる。
〝え、あ、いや、届くとは思わなかったから……ただ呟いてただけ〟
〝あははは、面白いね。わたしはマコ。おじさんは? あ、おにーさんかも?〟
対面とは言えないが、初対面の顔も知らない、素性もよくわからない相手に名乗るマコトだった。マコトの本能的に怪しい相手とは思わなかったのだろう。
〝おじさんでいいよ。一応名前は男だけどベル。U国人だ。名前的には女の子に間違われやすいけど、音響に携わる一族だからか、そう名付けられたんだ〟
相手の男も名はベルと、国籍とともに名乗り返す。ベルからすればマコトたちの姿は視えているようで、返事を返すことに危惧するものはなさそうだった。
〝U国ってことは、もしかして海の下、潜水艦の中からなの?〟
U国と聞けば、既にジンたちは原潜の存在は既に掴めているものだが、原潜の中に隠れ潜んでいた前提だったから、ベルは驚きを漏らす。
〝お、お、驚きだね。気付いてたのかい?〟
〝うん。まぁ一応ね。でも、ということはベルさんは軍人さん?〟
〝あー、ベルで、呼び捨てでいいよ。僕は囚われの身。囚人なんだ〟
〝ってことは、マコたちの敵ではないの?〟
やや迂闊そうな印象の少女、マコトに対して、警告の意図も含め、自ら囚人であることを伝えたベルだったが、マコトには特に臆する様子は見られなかった。
〝囚人って聞いて怖くないのかい?〟
〝ううん。怖くないよ。ベルは優しい声してるし、話し方も悪い人のソレじゃない。きっと何かがあったんだね。全然大丈夫だよ〟
ところが、怖がるどころか、とてもフレンドリーに接してくる少女に、ベルの抱く好感度はダダ上がりだった。マコトの可愛らしい声と口調、優しい心遣いに絆され、マコトはすっかりベルのお気に入りとなってしまったようだ。
〝そうか。ありがとう。キミはいい娘だね。ちなみにキミは金髪と黒髪のどちらの娘?〟
〝あー、力使うとき黒髪になるんだけど今は金髪だね。もう一人の黒髪の娘も本当はストロベリーブロンドなんだ〟
〝ほぉー、なるほど。でもやっぱり何か力を持ってるんだね。今のそこ、空中にいることからもわかるけど、僕と今会話できているということからも普通の人ではないよね。大体、僕のこの呟きに応えられる人がいたなんて驚きだよ〟
〝あれ? 話しすぎちゃった? もう迂闊過ぎるマコ。おバカだね〟
迂闊な傾向にあることを少々自覚しているマコトだったが、親しみが増すにつれてすっかり警戒心は無くなっていた。最初から大して警戒していなかったものの、ほんの僅かではあるが、一応ゆるく線引はしていたようだった。
〝あはは。まぁ、もうちょっと警戒してもいいかもね。でも僕なら大丈夫だよ。僕の周りにいる軍人さんとは違って、君たちの敵になるつもりはない。ただ周りの軍人さんたちも今のところは君たちに害をなすつもりもなさそうだけどね〟
〝そうなんだ。じゃあU国潜水艦の人たちは味方ってこと?〟
それでも、この可愛らしい少女、マコトを案じるベルは、親心のように、うっかり信じてしまわないようにと、釘を刺す。
〝そういうところだね、マコ。無闇に信じるものじゃないよ。今は情報が無さすぎるからわからない、が本当のところで、先では敵対したり、利用したり、利害関係で敵にも味方にも化けてしまうから要注意なのさ。だから手の内を晒すのは悪手だね。僕は君たちの情報を収集させるために強制乗艦させられているわけさ。もちろん、重要なこと、君たちを危険に晒すようなことはしないよ。君たちが特殊な能力を保有していることは内緒にしておくね。だから、君たちもコチラの視界から力を振るう様子が視られることのないよう注意するんだよ?〟
〝そっか、そうだね。ありがとう。ベルは優しいね。〟
ベルの優しさに応えたくなったマコトは南西の方角に向けて満面の笑みを返す。
〝ぅわぁ! びっくりしたぁ。素敵な笑顔をありがとう。心が洗われるようだよ。あと、そんなことはないよ。僕自身、能力はほとんど開示していない。能力が知れてしまうと何をさせられるかわかったものじゃないからね。だから君たちも同じような境遇だと思うから、たぶん明かしたくはないのだと想像してるし、その先の痛みをわかってるからこそ、それをバラしたりはしないよ〟
〝ありがとう、ベル。ところで、今のこの会話、どんな理屈なの? なんで聞こえてくるのかも、どうやって話せてるのかもわかってないけど〟
マコトは会話をしながらも、その理屈はさっぱりだったため、思わず尋ねてみる。ベルは驚きの声を返す。
〝え? わからずに喋れてるって凄いことだと思うけど、なるほど〜。キミは天才肌なんだね。僕もよくはわかってないけど、僕のオーラ? っていうのかな、体外に広げるその輪郭辺りが僕の呟きで震えるみたいなんだ。推測だけどマコのオーラとの重なりが、その輪郭付近で音波と同じように共振し伝搬したんだと想像してる〟
〝そういう理屈かぁ。そうなら、なんとなくわかったかも。でもベルも言うんだ、天才肌とか。マコはみんなに弄られる。初めての会話なのに同じ言葉を言われるってことはマコのいじられキャラ、半端ないなぁ。直したいなぁ〟
チヌーク機内での会話で、既に天才肌と弄られてきたマコトだったから、初対面のベルからも同じことを言われ、ややヘコんでしまう。
〝あははは。なるほど。マコはそう言われるのが嫌なんだね。見た目がかなり幼いのにこれだけ喋れて行動も起こせて、なおかつ特殊な力も持ってる。周りの同世代の子たちの目にはかなり異質に映りそう。こんなに喋れるのにコミュニケーションはきっと苦手なんじゃないかな? あ! ゴメン。誰かに話しかけられてるからいったん会話はお終いにするね。あと、遠くから取り巻いてるヘリたち、今から何かしでかしそうだから注意してね〟
〝異質……それにコミュニケーションが苦手かぁ……また同じコトを言われたぁ。そう……マコはどうもコミュ障っぽいんだ。あーっ、周りのヘリね、なんなんだろうかぁ。困った相手だけど、まぁなんとかやるしか……あ、でもまたね、ベル〟
すっかり仲良くなってしまったベルとの別れを惜しむマコトだった。
〝あー、またね。可愛らしいお嬢さんとの会話、楽しかったよ。娘が亡くなって久しくて、違うのはわかってるけど娘と話せたみたいでとても嬉しかった。頑張って! See you.〟
娘を思い出しながら会話していたベルは、初対面ながら、互いに心を開いて話せたこと、マコトの声や顔や姿が可愛らしかったことなど、とても嬉しそうで、今会話を終えようとしていることがとても寂しかったようだ。原潜内で自身を呼ぶ声に渋々応じながら、短くも愛おしい時間に別れを告げる。
―― さてと、行動開始かな?
マコトも楽しかったが、今のやるべきをこなす必要があることから、気持ちを切り替えて、イルを起こし始める。同時にオーラのポケットから、特殊版のダイナビーもどきを2つ取り出す。
『イル? 起きて!』
やや寝ぼけながら、目を擦りながら、マコトを瞳に映して、イルは、ハッと驚き途端に目が冴えていく。慌てて状況を確認するイル。
『ん? マコちゃん? あれ? イルは寝てしまってたの?』
ところが、まったく余裕の表情で休めてたことをマコトは告げる。さすがに短時間であれほど凝縮した魔力行使をやってのけたことがわかっているマコトだから、敢えて休んでもらっていたため、結果寝ていたことは当然と思っている。
『うん。ぐっすりね。休めたみたいだね。元気出た?』
しかし、イルにはそんなつもりもなかったことから、この一大事にぐっすりとなんて、と大慌てでマコトに謝り始める。
『わ! ゴゴゴ、ゴメン、マコちゃん』
『うん。大丈夫大丈夫。早速で悪いけど、このダイナビーもどきを回す練習をしてみてくれる?』
マコトの、いつもの根拠の薄い「大丈夫」コールだったが、今ばかりはなぜか心が安らぐイルだった。さらに新しいオーダーも混ざっていたことから、その新たなオーダーのやるべきを確認すると、実は全くわからない。すっかり気落ちしていたことも吹き飛び、またまた大慌てのイルだった。
『え? あ、うん、わかった……ってどうするのコレ?』
『あー、そーか。初めてだもんね。この穴に紐を挿して思いっきり引っ張る。できるのなら、魔力で回してみても良いよ?』
それでも、やはりイルには理解が及ばなかった。仕組みも使い方も一切知らないイルにとっては、かなり無理ゲーなオーダーだったのだ。
『わ、わかった……って、いったいこの体力増強器具で何をするっていうの?』
『あははは、説明はまた後でね。とにかく早く回せるようになってほしいな』
『わかった。頑張ってみる』
そうして、イルのダイナビー演練が始まる。
マコトはマコトで、今自分のやるべきことにかかりきりだった。マコトは回転の軸を下側に移行して、少しずつゆっくりとその半径を拡げながら回転していく。




