そんなことは 〜 暗躍のうねりxxx
マコトに魔力を注入されながら、圧倒的なブースト効果とともに、当初予定の3層を遙かに超える高密度布幕10層をあっと言う間に作り上げたイルだった。
―― ハッ! アレ? つい夢中になってしまったみたい……
―― けれど……なんかあっという間、愛おしい時間だった。
―― 私の時間感覚。おかしいのかな?
―― 終わったのよね? コレでいいのかしら?
―― まさか何か抜けてるんじゃ……
あまりにもスムーズに進みすぎたからか、イルはふとした不安に襲われる。イルは恐る恐るマコトに状態の確認を入れてみる。
『できた……の? マコちゃん? 作業完了で合ってるかな?』
『もっちろん! さっすがイル。っていうか、かなりパワーアップしてたんだね。いつの間に?』
まるで太鼓判を押すかのマコトの力強い称賛の言は、イルの不安な思いを綺麗さっぱり吹き飛ばす。
スッキリとした気持ちで何の懸念もなくなったイルの心だが、それなのに、何故かどことなく儚げな思いに染まる。それが何なのか、イルはすぐにはわからなかった。
しかし、そんな心の隙間を埋めようと思ったのか、安心を零す言葉に続いて、咄嗟に思わぬ言葉が口を突いて出る。
『そう……良かった……でも……もうイルの出番も終わりってこと?』
それは終わってしまったことへの確認。寂しげな表情を言葉に滲ませてしまったイルだが、マコトの目にはただ疲れてしまったのだと映り、イルの言葉を字面通りに汲み取る。
『あー、そうだね。疲れたでしょ? 今はゆっくり休んでて。あとで多分、別のことで手伝ってもらうかもだし……』
肯定に続けて、イルに対する労りの言葉も返る。嬉しい心遣いだが、どうやらイルの求めるものとは少々違っていたようだ。もう終わりであること、自らの出番について告げられたその事実が何故か心の奥を掻っ攫う。
ところが、もう一度のお手伝いの可能性が続けられる、そんな言葉に無意識にイルは無心で食いつく。流石にイル自身も気付く。魔力を使いたかったのだと。いや違う……魔力を使うことで、その先にマコトからの魔力補充の大義名分が生まれること、それを願う気持ちが心の根底にあったのだと。
『え? そそ、それは魔力を使うなにか?』
それに気付かされたイルはダイレクトに尋ねてみた。すると、そんなイルの食いつきに、魔力を使う仲間感覚でマコトは尋ね返す。勝手に何かを察したマコトはニヤリと笑みを浮かべながら。
『あー、どーだろ。あー! もしかして、イルは楽しくなってきたのかな? 魔力使うの』
もう焦れったかった。イル自身が魔力を使う使わないではなく、ただマコトからのキス、かつて経験したことのない、そのめくるめく極上の快感が欲しかっただけだったのだ。意を決して、イルはその意向を叶える可能性を打診することに決めた。とはいえ、そんな思いを自覚したなら恥ずかしさも沸き起こる。モジモジしながら、イルは遠回しに遠慮がちに切り出していく。
―― うまく言えるかなぁ……
『えっと、マコちゃん?』
『なに? イル』
『あの……その……私の活躍する場面は終わったかもだけど……』
―― うん、その調子、その調子……
『うん』
『あの、ときどきでいいんだけど……』
―― い、い、言うよ! ……
『うん』
『またキキキ、キスしてもらっても良い?』
―― い、言えたー……あー、でもマコちゃんキョトンとしてる……失敗した?
―― 変に思ったかなぁ……返事怖いかも……
マコトはあっけらかんな反応を返す。
『え? あー、補充しながら魔力発動したけど、イルの中に残る魔力量は心許ないってことかな?』
しかし続く言葉は、思いがけずイルの嬉しさを引き出す言葉だった。イルの目と
口は、ゆっくり、ぱぁーっと広がっていく。
―― あ! そんな手が……マコちゃんマジ天使!
何かとても良さげな解釈をしてくれたマコトの言葉に、噛み締めながら、両掌を組んで、瞳をキラキラと燻らせるイル。
―― (うるっ)……って、返さなきゃだった!
ハッと我に返り、イルは慌てながら早口でもっともらしく言葉を繋げる。
『え? あ、あ、あ、そうそう。ゲフンゲフン。そ、そうなの。最後に使った分で、い、今の残りは、すすす、少ないかもだから……また……してくれる?』
しかし、怪しげな雰囲気はどうにも隠せなかったようだ。それを聞きながら、マコトは快諾の意を返すが、返しながら少しずつ、察するマコトの口角は上がっていく。
『うん。お安い御用だよ。今なら余裕あって〜、お口も空いてるから〜〜、補充するね?』
―― え? 今もってこと? ……い、い、い、いいの? いゃったぁぁぁ
『え? い、いいの? ホント? よ、よかったー』
心の底から安堵するイルの表情を見て、確信するマコトはツッコミを入れてみる。
『あれ? イルは気持ちいいだけなんじゃ?』
『そそそ、そんなことないよ!』
マコトにとって、イルの真意はどちらでもかまわないのだが、自分のキスが求められるものであるなら、それは嬉しいことだった。それを確かめたい思い半分と、反応の面白さを愉しみたい半分から、少々意地悪に返してみる。
『え〜〜〜、本当?』
―― み、見透かされてる気がぁ……えーぃ、開き直れぇ……。
『あー、うん。そんなことは……ある、うん、あるかも。それじゃダメ?』
『いひひ……いいよ。正直者でよろしい。でもやっぱりそんなに気持ちいいの?』
結果、嬉し愉しいマコトは、ニヤニヤしながら感想を求めた。
『うん。とっても……マコちゃん大好き』
『マコも。そっかぁ。羨ましいなぁ。マコにはまだよくわかんないや。いいなぁ』
『そうなんだ……いつかマコちゃんもわかるようになるといいね』
『うん。そうなるといいなぁ……じゃあ、ひとまずいくよ!』
結果、納得感の整ったマコトは、即行動に移す。
『え? ちょちょ……いいのかし……んぐっ』
―― ききき、来たー! そうそうコレコレ! シュワヮヮァ……。
―― 甘酸っぱさが満たされるぅ……。
―― マコちゃんのこれ、そのときどきで違う印象? 味? ……。
―― ちっちゃいマコちゃんのイメージ? 幻影? それが拡大されたような……。
―― 優しく包んで、こちょこちょと……。
―― ほんのり擽ってくれる……。
―― 抱き締め返したい……でもコッチからは届かない……。
―― マコちゃん。ちっちゃな肢体なのに、まるでお母さんかなぁ……。
―― この包容感、もう溺れちゃうよね……。
そうして、魔力を補充しつつ、布の張り具合を再確認しながら、マコトはゆっくり周回していく。
そう時間も経たないで、満たされたらしきイルの顔はほっこりしながら夢心地の様子となっていた。マコトはソレを邪魔しないよう、そぉーっと唇を離して、今度は少し大きめの円を周りながら、周囲の状況を視ていくことにした。
ジジッ……ッ。
―― あれ? なんか今……。
すると、さっきまでは気付けなかったある特徴のある事象に気付く。
ジジジジッ……ッ。
―― やっぱりそうだ。
周囲を取り囲むC国ヘリとソフィアを結ぶ線上でポンチョにある変化が表れたのだ。
―― ほうほう……なんだコレ。なんか少しわかったかも?
周回し、ソフィアとの距離を縮めたり、高さの位置を変えたりすることで、ある法則性が認められることから、マコトはジンにレポートを入れる。
『パパ、今大丈夫?』
『ん? どうしたマコト?』
『うん。布の幕? と言うのかな? 思いの外、うまく張ってくれたよ。イルは凄く器用だった。今は疲れてひと休みしてる』
『ほう、そうか。まだ次の場面も予想されるから休めるときは休ませるでOK。それで? 何かあるんだろ?』
―― やっぱりパパだなぁ。マコが言いたい何かをいつも察してくれるから話しやすいな。
ほっこりしながら、マコトは話の本題を切り出していく。
『さすがはパパ。うん。ちょっと、いくつか気付いたんだけど、今ポンチョみたいなの被ってて……』
『おう、あのステルスポンチョか、うまく隠れられた?』
『うん。それはたぶんバッチリ。ママにも好評だった。それでね、ポンチョ自体の柔らかさもあるのかな? それを被るマコたちには特に被害はなかったんだけど、その耳には聞こえない音波? ポンチョの表面に当たるとき、ブゥーって微かに震えるみたいな模様が表面に浮き立つんだ』




