組織破壊 〜 暗躍のうねり xxvj
ソフィアの状況に、何かを思いついたジンが口を開く。
『ソフィア。それはもしかして音。音波じゃないのか?』
『え? 何も聴こえないし……』
パリンッ! {……シールドが割られた擬態語}
(ぼゎんぼゎんぼゎん) {……耳には聴こえない低周波音波の擬音語}
『あ! またシールド割れた! どうして? うぅ、気持ち悪さがどんどん増していく感じ』
しゅっ! {……シールド生成配置の擬態語}
『ふーっ、はぁはぁ……全身のアチコチが内出血してそうね……痛みで気を失いそうだわ』
(ぽぉぉぉぉぉ) {……癒やし状態擬態語}
『可聴周波数外は聴こえないからなぁ。あー、共振周波数って知ってる?』
ソフィアの立つオーラの足場はいたって安定しており、不安なく立ち続けられるはずのものだ。しかし、今は強度の乗り物酔いのような状態で気持ち悪さが急激に膨らんでいく。
通常、身体が揺らされると内蔵などはそれに追従する。ところが、今の状態は身体の外側に関係なく内側が不自然に揺さぶられ、内蔵同士も擦れ合う。この状態が続き、揺れが増大していけば、臓器は破壊され、最悪、死に至るだろう。
ソフィアが、視界が揺れ始めた、と感じた頃には軋むような感じで体内のアチコチに痛みを覚え始め、立ってもいられない状況となる。
戦闘中にもかかわらずレイラから視線を外し、堪りかねてへたり込む。ソフィアはすぐにシールドを張り直す。が、今度は直ぐに割れてしまう。しかし張らなければ、この得体のしれない何かが身体を内から壊していくと思えるため、ソフィアはひたすらシールドを張り直す。
―― なにをまた……え? ここ空の上でしかも飛行中よ?
『それなら、知ってるわ。はぁはぁ……固有振動数で振幅が跳ね上がって破壊するやつよね……』
―― でもジンがわざわざ言うってことは……。
『はっ! もしかしてこのシールドは狙って破壊されたってこと?』
―― ……いやまさか……そんな……。
そんな念話の最中にも、目の前のレイラの様子に、見た目にも明らかな異変が訪れる。
『あ! 今度はレイラさんが……助けなくちゃ』
―― あれは血? うだうだ言ってる場合じゃ……
身体に異常をきたしているのはレイラも同じだが、レイラは次の瞬間には激しく吐血する。
〈ぐはぁ……ごぼっ……血? 一体何が? ソフィア、オレに何か……〉
―― ちち、血ぃ?
―― むぅぅ、確かにそう思われても仕方ない状況かぁ……
〈何もしてないわよ。誰かが何かの攻撃をしかけてるっぽいわ〉
ソフィアのオーラの足場付近に繋いでおいた両手のワイヤーと、後方を飛行する自国ヘリから腰付近に繋がれたワイヤーで、意識を朦朧とさせながら、うつ伏せに吊られ後方に流される状態となる。
―― これは急がないとヤバい状況?
―― まだ闘ってる最中のはずだけど、そんなこと言ってる場合じゃなさそうね。
レイラへの対応を考慮しているところに、ジンから返答が舞い込む。
『どうやら、そのようだな。シールドは固有振動数を探られて破壊されたのかもしれない。その前の身体の不調を引き起こしているのはまた別だと思うが、それもおそらく共振周波数によるものだと思う。生物なんかの共振はかなり低い周波数なんだ。骨や筋肉など、部位によってもバラバラだし、固形物の破壊とは少し違うけど、特に内蔵なんかが共鳴すると、もろにその影響を受けて、組織破壊の前に大きく揺らされ損傷、断裂を引き起こすから厄介なんだ』
それを耳では聞きながら、ソフィアはレイラの対処を進める。
ソフィアはオーラの触手でレイラを手繰り寄せ、シールドの足場に引き上げると、即座に癒やしを掛け始める。
(ぽぉぉぉぉぉ) {……癒やし状態擬態語}
〈そ……そうか。はぁはぁ……何をしている? ぐぶっ、げほごほ……オ……オレは……敵だぞ? ほっとけばいいだろ……はぁはぁ〉
〈何を言っているの? 確かに闘っているから敵だけど……こんなにも弱っている今のあなたは私の敵ではないわよ? 特になんの恨みもないしね。それに強いあなたとの闘い……駆け引きはとってもスリリングだったわ。これが片付いたらまた再戦しましょ!〉
〈そ……そうか。敵ですらなかったか……はぁはぁ……かなり鍛えて……強くなったつもりでいたが……はぁはぁ……それに身体の内側までは鍛えられな……ごぼっ〉
〈しっかり!〉
レイラの処置を進めながら、同時に錯綜する情報を捌くソフィア。
『なるほどね。聞いたことがあるわ。じゃあ、どうすればよいの? 今この吐血して急激に弱っているレイラさんも臓器損傷の疑いがあるわけか。漠然と癒やしをかけたら機能不全になりそうね。内部状態をときどき見ないと危ないってことか。ホント厄介ね』
(ぽぉぉぉぉぉ) {……癒やし状態擬態語}
レイラの身体内部の損傷具合はかなり酷い状態となっているようだ。吐血を繰り返し、ありえないほどの苦痛を顔に滲ませレイラは意識を失う。流石に異変を感じ取るカイが呼びかける。
〈レイ、カイ、どうしたっスか? 何か異変のような……〉
〈あ、カイさんというの? レイラさんは今意識を失っているわ〉
〈え? 何したっスか? まさかレイラさんは負けた?〉
パリンッ! {……シールドが割られた擬態語}
(ぼゎんぼゎんぼゎん) {……耳には聴こえない低周波音波の擬音語}
〈あ! またシールド割られた!〉
しゅっ! {……シールド生成配置の擬態語}
〈ふぅぅ、ひとまず大丈夫ね……ううん。今は闘いは休戦中よ? 他からの攻撃を受けてるわ。あなたも来たら危ないわ。レイラさんはわたしが治療しているから安心して! いやまだ安心できないか……でも今動かすと危険だから……ひとまず任せてくれないかしら?〉
〈承知っス! でも敵なのになぜそこまで……は、いったん置いといて今は信じるっスね? ソフィアさん〉
〈今の敵は周囲を取り囲むヘリみたいなの……あなたたちも注意することね〉
〈重ね重ね承知っス。コッチでも調べてみるっス〉
〈そう……ならお願いするわね〉
カイからの思わぬ通信も一段落させて、レイラの救護のかたわらで、ソフィアはジンへの情報連携を再開する。
『その治療にあたりながら、シールドを壊されては作るを繰り返しているけど、シールド破壊は固有振動数を探しながらだったからかな? 最初はまだ間隔が開いていたけれど、だんだん向こうも精度が増すのか段々間隔は短くなって、今ではタイミング合った時なのか、作ってもほぼ一瞬で壊されたりもある状況なの』
パリンッ! {……シールドが割られた擬態語}
(ぼゎんぼゎんぼゎん) {……耳には聴こえない低周波音波の擬音語}
『うわ、また壊された。うぅ気持ち悪い』
しゅっ! {……シールド生成配置の擬態語}
『ふーっ、はぁはぁ』
(ぽぉぉぉぉぉ) {……癒やし状態擬態語}
『対処の手も足りないけど、私の魔力もどんどん削られ続けるから、これってジリ貧よね?』
レイラが敵の低周波攻撃に倒れ、ソフィアは闘いが必要なくなっている現状だが、ソフィアも自身の癒しを充分にできず、集中力は激しく欠いた状態だ。シールドを壊されるたびに、短時間とはいえ低周波を受ければ、その蓄積でソフィア自身の身体の内もだんだん壊れていってしまうわけだ。このままいけば、オーラを操る緻密な制御なども難しくなる。オーラとは生体エネルギー。その顕現状態すら維持できなくなることは目に見えている。
『そうだな。オレも動きの見え始めた眼下の原潜から目を離せないから、今はまだ直接助けに行けそうにないけど、うーん。これも一時凌ぎかもだけど、試してみる?』
『何か方策があるってことね?』
『そうだな。悠長にはしていられないから手短に2点。以前、よくやってたようなシールドの重ね掛けが効果あるかもしれない。身体に影響を与えているのはおそらく低周波。シールドはそれでは壊せないから、別途高周波の超音波を一点に収束させるように狙って撃っていると思う。だから、シールドに間隙を設けて透明状態で何枚も重ねた状態にしておけば、アチラさんは破壊したつもりができていない状況から、振動数が間違っていると判断してくれれば、その解析に時間を割く可能性が出てくる。そうなれば、ちょっとは時間稼ぎができるかもだ』
『なるほど。流石ね。早速やってみるわ。やりながら聞くから続きお願いね』
『お! ソフィアこそ流石だね。じゃあ続けるね。やったことないからうまくできるかわからないけど、固体の固有振動数はその硬さ、いや密度かな? それにもよるんじゃないかって推測してる。シールド生成するときにバラバラの硬さで作ってみてはどうかってことなんだ。別々の金属をイメージするといいのかも。これできそう?』
『な、なるほどぉ〜。目から鱗が落ちたような発想。流石はジンね。でもできるかわからないけど試してみるわ』
『ほっ、ということは、できそうなんだな。よかった。オレ自身は器用に魔力を扱えるかわからないから、できるかどうか不安だったけど、流石は本物の魔女だな』
『あら〜、誉めても何も出ないわよ。で、対策はそんなところかしらね?』
『あー、もう一つ。今思い出したんだけど、先日空港でマコトがやってくれた、オーラの柔らかいマットみたいなやつ。あれができるとかなり強力なんだけど……』
『おー! アレね。うーん、マコちゃは器用だからねー。私にできるかなぁ。まぁでも余裕あったら試してみるよ』
『そうだな。マコトは天才だからな。今度手ほどき受けないとだな』
『この緊急時にまたマコ弄り? もう! ……でも、それならマコが行けばなんとかなるってことじゃない?』
『あー、そうだな。でもダメなんだ。マコトには別の役割をやって欲しい。さっきのシールドは時間稼ぎにしかならないから、もう一つの低周波の対策をするのに、マコトとイルであたって欲しいんだ』
『え? イルも? イルにはそんなだいそれた力はないよ?』
『いや、そんなことはないよ。そう……この対策にはイルの力を活かせるかが鍵だと思う。それに今回はイルが主役でマコトが魔力補充のサポート役かな?』
『お! マコはサポート役かぁ。なんか新鮮だね。それにイルとは初めてだったよね? それならイル? 全力でサポートするね!』
『え? え? え? えへへへ、本当? そんな力って何のことだかわかんないけど、お役に立てるのなら嬉しいな……マコちゃんよろしくね。ン? 初めて? あ、それよりもその主役って何のこと?』
『それはね…………』




