第40話 悲願と尻尾 〜 暗躍のうねり xx
シエラからの調査状況のPC画面による報告で、思惑は不明だが、C国とU国が何らかの意図をもって、この空域・海域に展開していることが明白化した。
それが必ずしも、ソフィアたちに関係するとは限らないのだが、数週間前のS国からの帰国便におけるテロ組織の数多の猛攻にまんまと利用された各国であることや、画面に映る航跡からは、V国と同様に、こちらの動きに合わせるような挙動が覗えることで、ソフィアたちの緊張度は否が応でも高まっていくのだった。
シエラは再びPCに向かい、さらなる解析を進める。すると、新たに何かに気付いたシエラは、目を光らせ、ありとあらゆる回線を行き来しながら情報を洗っていく。
ちなみに、このPCからアチコチにアクセスしているのではなく、シエラが構築する超ハイスペックなサーバ環境で、各種回線から拾い上げたさまざまな情報を集約し高速に精査する。今のシエラのリモート端末でその動作を制御しながら、その結果情報を端末内のハッキングアプリに取り込み、画像やグラフを生成し、誰の目にも見やすく纏められたレポートを表す仕組みだ。
サーバとの回線さえ途切れなければ、世界中のあらゆる情報を手中にできている状況で、そこには航空管制情報はもちろんのこと、その航跡の機体の所有者情報や、運用目的などを収集し紐づけることなどもシエラにとっては造作ない話だった。
「あ!」チッ
「どうした? シエラ」チッ
シエラが今気付いたこととは、C国のヘリの件だ。C国として画面上マーキングしているが、C国所有のヘリではない。日本の複数の外資系企業が所有する民間ヘリであり、それをチャーターした元がC国の関連企業で、C国政府から依頼されて、同一のフライトプランにて、VFRの遊覧飛行の目的で今朝急遽提出されたものだった。
それらの怪しさはすぐに気付き突き止めたため、ソフィアに見せた関係情報では、C国としてマーキングしているが、普通ならばそこまで判別できない情報でもある。そして、今の気付きはそのレベルから更に深堀りすることでわかった情報だ。
「あ、ヴィルさま、これを見てください」チッ
「なに? こ、こ、これは……間違いないのか?」チッ
そもそも、C国が如何に大国であろうと、この平時にこれほどまでに組織だった隠密行動を根拠なく行うことはない。なんらかの理由が潜んでいることは明白であると、シエラのハッカー勘が告げるのだった。
約16機ものヘリがチャーターされているが、元を辿れば、C国のとある機関に集約される。今度はその機関と外部とのやり取りを洗うと、そこに浮かび上がる名前。
「はい。C国絡みの民間ヘリだと思う複数機、16機でしょうか? いや、あと1〜2機、近しいものもいるかもしれませんが、そんな民間機がなぜか統率の取れたような動きをしているから、少し気になって、C国とのやりとりをトレースしてみたんです。そしたら、主要なやりとりの内容と関わる人物が浮き彫りになることがわかりました。その人物名でサーチをかけると、どうやらあの組織と大きく関わっている事実が、調べるほどに鮮明度を増していって……」チッ
シエラの示すものを瞳に映したヴィルジール。その両目はこれ以上ないほどにゆっくりと大きく開かれる。身体をワナワナと震わせながら、瞬きを忘れた瞳はゆらりと潤みを帯びると瞬きもせず目頭から一雫滴り落ちる。ヴィルジールのそんな表情を初めて目にしたシエラは見惚れながら唇をあわあわさせながらフリーズする。溜めに溜めたタイミングでヴィルジールは大きな声でシエラを誉め讃える。そんな大声に驚きシエラはハッと我に返る。
「で! でかしたぞ、シエラ。我らの悲願、その尻尾を掴めたかもしれない、ということだな」チッ
「はは、はい!」チッ
ひとまず心を落ち着け、顔を拭うと、ヴィルジールはすぐさまソフィアとジンに問いかける。
「ソフィア殿、ジン殿。コレを見て欲しいのだが……」チッ
ソフィアも同様に見せられたものに驚くが、ヴィルジールとは少し違う視点の別の部分に着目していた。
「これは、え? まさか」チッ
「ソフィア、どうした?」チッ
それはソフィア自らが関わった大事件……何故今ここで? そしてここに記された組織との間に何の関係が? と驚きながらも、順を追ってジンに指さしながら説明を始める。
「ジン、これっ、今の状況に関わるC国動向もあるけれど、そこに関わる組織、この名前はどこかで聞いたことがあるわ。確か武器商人? だったような……それともテロ組織だったかしら? それからその過去の履歴にあるこれ! この事件……」チッ
「え? ま、まさか」チッ
それは7年前の地中海における民間機撃墜事件だった。当時の報道では、どこかの小さなテロ組織が国賓級VIP一行の集団を狙ってロケットランチャーで撃墜したものとされていた。しかし、その黒幕には武器商人が関与していた可能性が今になって急浮上する。
「あ、この民間機撃墜事件は何か関わりでも? それと、やはりこの武器商人の組織が気になりますか。ちょっとお待ちくださいね」チッ
そう言いながら、今リアルタイムに武器商人と癒着のある組織を洗い出していくシエラ。
すると、操作を横から見ていたソフィアが急に声を上げる。
「ちょっと止めて! そこ! 北方聖十字教司教、とその息子の名前!」チッ
どんなシステムでも、通常はどこの誰であっても、人や組織、団体の名称は、秘匿すべきな情報であり、このように外部に露見する形で表れることはまずありえない。しかし、シエラの組み上げるシステムでは、いつどこで何がどう結びついているかわからない情報に潜んでいるものを拾い上げることを何より重視しており、侵入先のシステムが保護していても、音声通話を含む、ありとあらゆる情報源から、時系列と場所、組織や個人で繋がる情報を構築し、紐付きが分かる形で情報を蓄積していた。
バラバラでは意味をなさなくとも、整理・紐付けられたものはすべてが有用な情報に変化する。時と場合に適合しないものは排除可能なため無用判定できた情報こそ、それに纏わる不要情報を一挙に対象排除できる。時と場合のカテゴライズ化とパーティション分割、インデックス化でシステムの奥へと追いやることで、通常検索は圧倒的に加速させられる。後述する音声通信文字化などの過負荷情報は、世界中は無理でも、アフリカとヨーロッパに限定することで、ある程度の実用速度が見込める、あらゆるハッキング向けの付随データを管理するデータ統合基盤として、シエラが手掛ける最近形を成したシステムでもある。
もちろんヴィルジールの指示によるもので、武器商人やその周りを調査したい目的があったからだが、武器商人側からのアプローチでは、徹底的な隠蔽技術で隠されているのか、直接探そうとしても、これまで見付けることは叶わない状況だった。
蓄積した情報も、その末端組織がわかるなら見付けられる可能性はあるが、直接全捜索するには莫大過ぎてCPUがフリーズしてしまうのだ。
それが今、C国から繋がる偽名・暗号化を経た業者等の経路上からほろほろと情報が浮かび上がったのだ。おそらく武器商人組織が御しきれない国家、あるいは業者だったのか、それとも時を急いて隠蔽しきれなかったのか、危機感の欠落した業者か国家の側に控えていた複製情報とシエラの構築したデータの蓄積が芋づる式に連結されていく。
それにより、今、結びつくことはもちろん、表面に露見するはずのない情報が、シエラのPC上では整理構築されていたのだ。
この情報システムの蓄積データでは、デジタルの通信情報だけでなく、電話の音声通信もシエラが独自に開発する文字起こしプログラムにより文字化された情報として圧縮保管されている。
武器商人組織が正体を隠して北方聖十字教司教と接触し、N国王室の情報収集や、果てはソフィアの日本留学の日程等の詳細な情報のやり取りから、唆されてV国へのリーク行動を起こすまでが赤裸々にデジタル化され、今その要約情報が並べられたわけだ。
「え? うそ? 北方聖十字教司教がV国にリークしたのは、この武器商人の差し金だったってこと?」チッ
その時期の関連行動の中には、民間機撃墜を企てるテロ組織に、武器商人組織が急遽関与した事実まで浮かび上がる。
「え? ま、まさか、民間機撃墜事件とは、国賓級VIP一行の集団が狙いではなくて、いやそのテロ組織の狙いはそうだったのかもしれないけれど、まさかわたしがあのときあの便を選択したから? それに合わせて武器商人が入れ知恵と武器供与をしたってこと?」チッ
そんな情報を目にしたソフィアは、それまで巻き込まれたが、救える命は救えたと思い込んでいたものが誤りであったことを叩きつけられたわけだ。よりによって、自身の選択が他者を死に追いやった、その事実に胸が締め付けられ、その場にへたり込むソフィア。
「え? そんなぁ。嘘ではないの?」チッ




