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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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空中襲撃 〜 暗躍のうねりⅹⅸ

 危機迫る中、せっかく(ひら)いた重要な話だからと、マコトとイルは二人ならではの超早口モードで話に花を咲かせていたところに、ジンから咄嗟のアラートが念話に差し込まれる。


  『マコト! 敵がうし……』


 それは予測時機を遥かに超えて唐突に訪れる。ジンがマコトに注意を促そうと発した声を打ち消すように大きな打撃音が機体の内部構造内をこだまする。


ガンッ!(ンッ、ッ、ッ、ッ……)


 どうやら何かがCH−47(チヌーク)のテイルハッチの外側に突き刺さった音のようだ。


  『え? パパ? なに? う、うしろ側? 何かがぶつかった?』


ガキッ……ガリガリ……ベリベリ


 衝撃音から間髪入れず、上下可動開閉型のテールハッチを隙間から強引にこじ開けられると、その開いた隙間から、得体のしれない何かが覗き込む。


 ギロリッ


 ベリベリベリ……ガキッ!


 その何かがハッチの開閉を制御するアクチュエータ(伸縮する駆動装置)を破壊すると、扉は不自然な動きで異音を伴いゆっくりと下向きに開きはじめる。


 ……ガガガガガ

 ……ヒュゥゥゥ……


 機内を掻き乱すように、外気が一頻り吹き込むと、そこから垣間見える人の形を皆が認識する。


 広がる扉がほぼ全開になり、全身が明らかになる頃には今にも侵入してきそうなソレは機内を見やり、無指向性の強大なオーラに包まれた言葉を放ちながら、開いたハッチに立つ。


  〈ソ、フィ、ア……〉


 マコトたちは、今はそれ以上を仕掛けてこない彼我不明のこの人物の動向を呆気にとられながら固唾を呑んで見守ることしかできなかった。


 物理的な音声としては掻き消されるが、異能者であるマコトたちの脳裏にはバカでかい音量の言葉、凄みのある低音でその意志が刻み込まれる。頭が割れるほどの声量に、ヘリに同乗する異能者はこぞって頭を抱える。


  〈ソフィア…は…どい……つだ?〉


 その問いかけ、言葉の圧力に、一瞬の沈黙が機内を(よぎ)る。


 放った言葉から、この侵入者の企図がソフィア連れ去りであることが明確化したことで、ジンたちは状況理解と対応のための思考を急速に巡らせる。


 しかし、それより一瞬早く、ソフィアを護るための思考が積み上がったマコトはすぅーっと息を吸い込むと、侵入者のデタラメなオーラメッセージの発し方を真似ながら、侵入者からの情報引き出しに取り掛かる。ひとまずは穏便な可愛らしい口調でだ。


  〈お、おばちゃん、だぁれ? どうやってここに? 空飛べるの?〉


 意表を突いた可愛らしく澄み切ったハイトーンの、しかも思いがけずオーラメッセージとしての返事のように返ってきたことにレイラは驚きを隠せない。


  〈おば!? ってお前、昔見たソフィアの写真にそっくりだが……それにしてはえらく幼いし、か、可愛いな……〉


 凄みのベールはどこへやら……すっかり通常トーンの声質で返してしまうレイラ。


  〈ってゴホン……オ、オレはまだ若い。せめておねーさんだろ?〉


 無骨なレイラだが、人知れず子ども好きな一面は猜疑心をも曇らせる。


  〈いや待て! こんなところに子どもがいること自体おかしいか? お前本当にソフィアなのか?〉


 無力そうな目の前の子ども、マコトを瞳に映すうちに、その突き抜けるような愛らしさが、徐々に警戒心を蝕んでいく。


  〈なんか色々と調子が狂うが、他に金髪碧眼は……いなさそう……か〉


 ブロンドだが、アップスタイルの髪型でヘルメットを被るソフィアはどうやら金髪女性には見えなかったようだ。


  〈ち……ううん。そうよ? 私がソフィアよ?〉

  〈いやそんなわけな……え? そうなのか? 北欧魔女は底知れぬと聞いたが……もしや若返りの魔法、実在するのか?〉


 勝手に勘違いに陥りそうなレイラの様子を見て、咄嗟の機転で成り切りソフィアを演じることにしたマコト。立て続けの驚きにぐずつくレイラの判断力。以前に耳にしたことのある北欧魔女の不老不死の逸話(エピソード)……かつては切り捨てるように完全否定していたハズの(ことわり)……今、目の当たりにするリアルな存在と、道理を逸脱した見てくれに激しく惑い……抗えず……自らの常識を上書きしてしまう。


  『マコちゃ? ダメよ。危ないわ』

  『まぁまぁ任せて』


 そんなレイラの心境変貌とは裏腹に、一心に愛娘の身を案じるソフィアだが、何かの策謀でも巡らせたのか、マコトの表情は悪戯っ子のそれを醸していた。


----


 ほんの数十秒遡る……マコトがレイラに初めて問いかけたタイミングだ。


  〈お、おばちゃん、だぁれ? どうやってここに? 空飛べるの?〉

  〈おば!? ってお前、昔見たソフィアの写真にそっくりだが……それにしてはえらく幼いし、か、可愛いな……〉


 そんなやり取りの裏で、別の緊急事案をシエラがソフィアに投げかける。これによって俯くソフィアたち面々は、ヘリのエンジニアとでも思われたのか、レイラからの認識阻害の助長にも繋がっていた。


 「ソフィアさま? ジンさま? 今目前のことで、お取り込み中のことはわかっていますが、ちょっと緊急要件かもしれません。申し訳ないのですが、コチラを見てください」チッ


 シエラから見せられたのはラップトップのパソコンの液晶画面だった。


 文字の羅列が激しく流れる無数のコンソールに重なった現在地付近の地図表示領域に、自身とV国の航跡の他にU国とC国の航跡がマーキングされていた。さらにその航跡はヘリや飛行機、漁船、潜水艦などのアイコン表示とともに、位置だけでなく移動方向や速度、高度などの付随情報までわかりやすく脚色済みだ。同種情報を見たことがあるものなら、瞬時理解が整うほどの親切設計だ。


 シエラは、動物かもしれないとマコトたちが判断していた外部からの異様なオーラ侵入状況から、不審に思い、自身の通信端末を駆使して、時折索敵(見張り)しながらも、通信世界での、周囲状況に対する情報収集や関連情報のハッキングを開始していたのだった。


 「え? コレは! ……そう遠くないところにもしかして原潜? U国かしら? それとコッチはC国? ……ジン? これって……この構図……先日のテロ事件の再来なのかしら? でもシエラさんもこれ、一体どうやって?」チッ


 パソコンの狭い画面領域に溢れ出すほどの膨大な情報量を瞳に映したソフィアだが、今対峙している状況も含めて、超速で捌かなければならないことと自然と受け止めたのか、全力で咀嚼しながら瞳は高速で視点を飛ばし、早口で言葉を繰り出していく。


 「えっと、あの……」チッ


 これほどの情報量に対する説明はもちろん必要だが、ハッカーとしての自分を伝えていないことに気付いたシエラは、緊急度の高い現在状況であることも含め、如何に説明すべきかで頭がいっぱいとなり、シドロモドロな反応を見せる。


 そもそも(くだん)のテロ事件とは、その黒幕であるテロ組織、エニシダの中核に座するは教祖ヴィルジールとそのオペレーションを司るシエラその人なのだから、説明しようもないアレコレがシエラの脳裏をいっそう錯綜させてしまうのだ。


しかし、そこはソフィアの咀嚼速度が上回る。


 「あ、いいわ。なんとなくわかった気がする……詳細は後で聞かせてね」チッ

 「は、はい!」チッ


 話し始めでは無理解でも、瞳に映る情報からソフィアの脳内にはありとあらゆる情報整理が進むことで、話し終わる頃には大体の情報構造は整い、シエラの特殊なスキルも何となくの理解とともに咀嚼済みとなっていたのだ。


 何もかもを見通したようなソフィアの笑む表情に、ただただなんとも言えない安心感と、裏の裏までは見透かされてはいない安堵感、また更なるソフィアへの信仰心の高まりを隠せないシエラだった。


 同時に同じく画面を見つめ、状況把握に努めていたジンが、見解を念話に乗せる。


  『ソフィア? これは先日のテロ事件で巻き込まれた各国のように思えるな。箝口令のようなもの……文書に残せそうにないから口約束のような取り決めだったらしく無論強制力はないが、ATC上のインフォメーションにはなかったから、これは完全に隠密行動ってことか』


 先日のテロ事件とは、S国からの帰国便の旅客機で、ハイジャックから始まり、爆弾、戦闘機急襲、原潜による|SLBM《潜水艦発射弾道ミサイル》、衛星レーザー兵器など、ありとあらゆる攻撃が重ねられた事件だ。もしもこれが本気で1国に向けられたなら、開戦は不可避、というより、日本のような小国ならば、1日あればアッという間に焼け野原化してしまうほどの圧倒的な究極兵器のオンパレードだった。


  『ジンもやっぱりそう思う?』


 しかし、ジンやマコトたちでそれぞれを無効化してみせた、関連各国からすれば、とても信じられない世にも奇妙な事件でもあった。


  『うん。まぁね。あのときは……さすがにあれだけ派手にやっちゃってればなぁ。この行動はテロ組織じゃなくて、オレたち側の行動……客観的な視点なら、まぁ腑に落ちないことだらけだっただろうから、各国とも気にはなるよな』


 各国はテロ組織にいいように利用されただけで、失った航空機や兵器の大きな損失はあっても、攻める意志などないことは明白なため、国としての威信は保ててはいるが、そんな軍事兵器を勝手に使われてしまったことの管理責任は免れない。日本側としては、何一つ失うものはなかったことからも、トップシークレットとして秘す代わりにそれ以上の言及はしないものと約束を取り付けられたというわけだ。


  『ふふっ、そうよね』


 とはいえ、特にU国などは、その武力で世界の頂点に君臨している立場上、それらの究極兵器が無効化されてしまう、という事実は見過ごせるわけがなかった。大国の沽券に関わる由々しき事態でもあったのだ。日本に対して戦争を仕掛けるような意志はまったくないまでも、どうやって無効化できたのかは国家を上げて確かめる必要があったのだった。


  『……そうなら……』

  『……であれば……お? ソフィアもベクトルは同じみたいか? ふぅーむ。それこそ暴かれるわけにはいかないけど……ソフィアは何か妙案ありそう?』


 ソフィアもジンも、やるべきな最重要事項は、力は隠蔽したまま事態を収束させること、それのみだった。しかし、それをどうやれば、という視点では何も見えてこない。周りの動向が不確かである以上、今は受けに徹するしかない状況のようだ。


  『ないわよ、そんなの。まだ全貌が見えてこないもの』

  『だよな〜……さてさてどうするか? まずは今のV国をなんとかうまく凌がないとだな』


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