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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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コミュ力おばけ 〜 暗躍のうねりⅹⅷ

  『それでマコちゃんの少し深いところもゆっくり伝えていくの』


 イルの考える、イル自身が実践しているやり方を手解きしてみたが、理解は示すものの、やや不安げな様子のマコトだった。イルにとって、まだ正解は見えてこないが、手応えだけは感じている。あと少し、もっと他の何か? っと話を進めていくことにしたイル。


  『うーん……できるかなぁ……マコなんかに』


  『できるよぉ。マコちゃんの心がそんなところで立ち止まっていたのはちょっと驚きだったけど……うん。そうだね。マコちゃんは先の先、イルが思い描く情景の、さらに先のもうちょっと先を読んじゃうから、少し置いてきぼりにされたイルはびっくりしちゃって必死に追いつこうとするけれど……周りの子どもたちからすれば、遥か彼方を突き進むマコちゃんのことを理解できるはずがないよね? ……』


 新たに知ることとなったマコトの胸の内をイルなりに、揉みしだくように理解を深めていく。


  『……なるほどなるほど。うふふ。だから反対にマコちゃんの瞳に映る子どもたちが何を考えているかがわからず、その中でも勘の良い子どもたちの眼にはある種の恐怖心が起こっても仕方ないかもってことだね……そしてソレを感じ取ったマコちゃんが逆にわからないからと怖くなってくるとか?』


 イルの瞳に映った、マコトのこれまでの情景を思い起こすと、その節々でやや不自然に瞳を逸らしたり、口ごもったりするマコトの姿。気にも止まらないような僅かの瞬間にそれは確かにあった、そして踏み込まずに引き下がる、そんな素振りも確かにあった。そんな回想とともにイルは唇に笑みを浮かばせる。イルにとっても探究心を(くすぐ)られるのか、まるで名探偵のごとき、悦に入る数々の瞬間に刺激を受ける。つまりいつからか楽しくなってしまっていた。


  『……そっかそっか。ふふふふ……ようやくマコちゃんに秘める不安のようなものが理解できたかもだね。ふふ。面白いね。うんうん……』


 イルとなら、わりと深い心のやり取りをしていても、他の人とは距離を詰められない、どこかもどかしさを纏う場面もあった。それらが今知ったマコトの内側、わだかまりに対峙して、マコトの中に引いてしまう心模様があったのなら、確かに頷ける状況だ、と小刻みに頷きながら、笑みを深めながら、思考を進めるイル。


  『……話を戻すね。そうそう、ゆっくり、ほんとにゆっくりでいいから、一つずつ振り返って言葉にして伝えてみるの。時間がかかるかもしれないけれど、ちょっと我慢しながら響くのを待つ感じ? ……』


 言葉では「ゆっくり」と超早口で話すイルの姿に、妙な驚きと頬を緩ませるような可笑しさを感じて、少し目を丸くしながら、マコトは超早口を咀嚼していた。マコトがそう思っていたところに、ようやく早口を緩めて話の纏めに入るイル。


  『……そうするとほら、まずは一人、そうしてまた一人。ゆっくりだけど、マコちゃんのことを理解してくれる友だちがどんどん増えていくでしょ?』


 肝心(かなめ)な部分だからか、ふつうよりもゆっくり、抑揚を効かせた独特の話術で締め括るイル。マコトの心はそんなテクニックにやんわり(くすぐ)られる。なんとも説得力のある言葉だが、マコトは、自分の感じたもの、理解した何かを確かめる言葉を返す。


  『そういうもの?』

  『そぉよぉ』


 もちろん、確かめるまでもないものだが、会話の上で念のため確かめようとする、そんな心持ちは、誰もが行う、自分自身への再確認の擦り合わせ行為なのだろう。


  『はぁぁぁ、そうかぁ。そうなのかぁ……そうやって友だちって増えていくのかぁ……なるほどぉ……むやみに話しかけてもほら、なんか引かれる感じの距離感、感じちゃって……こんなに仲良くなれたのイルが初めてなんだもん』


 イルが自身の中で展開したいくつかのシーンと重なる情景だったことから、イルの頬が緩む。改めて話のフォーカスの確度が高まっていることが嬉しい思いに繋がり、ニコニコしながらイルは返す。


  『あははは。やっぱりそうなんだね。マコちゃん、別格過ぎるもん』

  『ま、またマコ弄りなの?』


 先ほどまでの会話の傾向もあるのだが、今日初めて心の奥側にある思いの片鱗に触れられたことをイルは喜んでいる。しかし、不用意にまた「別格」などと使ってしまったことで、マコトがせっかく開いた心の扉が閉じかねないことを危惧したイルは、きっぱり否定と、言葉を変えて、角の立たない説明に切り替える。


  『違うよー。格が違いすぎで、イルはそこに惚れ惚れしちゃうけど、そこらの子どもだと、その考え方の歩幅っていうの? マコちゃんも何となく違和感に気付いてか口数減らすみたいだけど、格? 言葉に秘める高度な思考? っていうのかな? あんまり隠せてないから、たぶん皆、あっという間に置いてきぼりだよね』


 マコトの目には、イルのコミュニケーション力の高さが印象的であり、ふとその賢さ加減に、ひとつの疑問が湧き上がる。


  『うーん。それならイルのほうが賢すぎるから、同じ状況になるハズなのに、イルの周りにはいつも友だちたくさんだよね』

  『ふふ。そうでしょ? 私のほうがってくだりはちょっと違うけどそこは置いといて……自分で言うのもなんだけど、イルは聞き上手なのと、鉄壁の笑顔で表情誘導することが得意なんだ……』


 イルは、自身の能力をわりと客観的に理解しているほうだ。そして、その長所などを人に語ることはほとんどありえないことだが、今そこに着目するマコト、そのこれからを考えるとき、今は話しておくべき内容だと思いながら、言葉を選びながらマコトに説明を重ねる。


  『……そうするとね、待ちの姿勢でいるところに後は相手が大抵は勝手に打ち明けてくれるんだもん』


 人の会話とは、たいていそんなものだ、と心に思いながら、イルはノウハウにも近い話を明かしてみる。が、それがマコトにはある情景に映ったようだ。しかし、意図せずして、ここからマコト独特の咀嚼と展開が始まる狼煙となる。


  『ん? あれ? それってなんだか、罠張って動物捕まえたり、魚釣りしてるみたいな感じに聞こえるけど?』


----


 シエラから緊急の報告が差し込まれる。


「ジジジ、ジンさん? 人影が落ちた?」チッ

「な、なに? 敵機に異変! 注意(Caution)! 仕掛けてきたかも……」チッ


----


 それが聞こえないイルとマコトは念話を継続し……。


  『あー。そうそう、それ近いかも? 良い例えね。たぶん大体そんな感じ』


 そこからは、マコト独自の解析ロジックが火を噴き始める。モノ作りオタクのマコトは、自然と論理的な判断回路が養われてきているようで、その条件で何かと何かが同一なら、というような論理思考を重ねていくのは自分自身に対しても、かなり説得力を生むようだ。


  『そうなんだ。え? そうなのか? ……あれ? 相手のコトがわからない、というのなら、それは動物に対しているときとおんなじ? なら……そっか。そうだね。うーん。これからはハートハンティング? って、えっと狩りってこと? 相手が何を欲しがるのかを観察・研究して、罠を張る? えっ、えっ、えーっ! なんかそれって、とっても極悪な感情では? でも……でもでも……なんだろう? ……なんかそれならできそうな気がしてきた……やってみる価値はありそうかも?』


 怒涛のごとく、論理展開する言葉をマコトは早口で連ねていく。イルはまさかこんな展開が生まれるとは思ってもなかったから、目を真ん丸くしながら見守っていた。


 マコトは再び続ける。


  『そうだね。相手を知らないから怖いんだもんね……ウンウン。昔パパとも話したことがあったっけ? 猛獣がいても、特性とかいろいろと知ってるなら、怖くないんだって……意味は少しだけ違うけど、結局知らないから怖いと思うことはおんなじだって……あれ? あれれ? そういえばソレ、おんなじコト、マコは新入生代表挨拶で図らずも言ってたよ! 意味はまた少し違うんだけど、知らないこと、それが根源なんだもんね。ほぉぉぉ。おんなじだ、おんなじだ。なるほどぉ……なるほどねー、流石イル!』


 自己論理展開して導き出したものに何にも代えがたい納得感を得たマコトは、そのきっかけを作ってくれたイルを絶賛する。やや圧倒され気味なイルだったが、意外な展開とはいえ、導き出した取り組みは面白そうと、マコトの意見を後押しする。


  『あははは……そうだね。なんかそういう視点だとマコちゃんが真っ黒いイメージに視えてこなくもないけど、でも人間観察、っていう視点なら、きっとやったほうが良いと思うな。絶対マコちゃんの糧。ううん。きっとプラスに働くような気がするし、今でこそ心理学みたいなものがあるけど、そんなのなかった時代、マコちゃんのご先祖さまもそういう時代の荒波で人を見つめてきたから、あれほどの偉業を成したってのも、もしかしたらマコちゃんと同じようなアプローチだったんじゃないかな? って、マコちゃん見てるとそんな気がしてきた』


 またそんなマコトの閃きに関して、イルは気になることや関連することを並べていく。


  『きっと心理学を学ぶ良いきっかけのような気もする。心理学自体は、れっきとした学問として確立しているものだから、奥はずぅーっと深いのだろうけど、マコちゃんの今の問題の焦点は幼い子どもたち。そういえば、親や大の大人だって、幼児の考えることはわからないから、モンスターって表現をすることも確か在ったはず』


 何をすべきかについて、粗方出揃ったところで、イルは話の纏めに入る。


  『それに結果的に、マコちゃんの、まずはそのモンスターをどうハントするかというところから手を付けるで良いのかもね。でもまぁ、そういうものなんじゃない? 人と人との会話なんて。マコちゃんは重く考え過ぎだったかもしれないね。今のマコちゃんがそう感じたのなら、その感覚を大事にして、これからは動物を捕まえるつもり……そう、うんそうだね。相手の心内をハンティングする、みたいなのもマコちゃんらしくて面白いのかもね?』


  『ふぅーーん。なるほど〜。うんうん。コミュ力おばけのイルが言うんだからきっとそうなんだろうね』

  『コココ、コミュ力おばけ?』


----


 ジンから咄嗟のアラートが念話に差し込まれる。


  『マコト? 敵がうし……』


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