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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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虎の着ぐるみ 〜 暗躍のうねりⅹⅴ

 ジンに問われ、つらつらと言葉に紡ぎながら吐露したマコト。これまでずっと心に秘め、わだかまり、トラウマともなっていたものだ。それはマコトがときおり見せる、称賛を浴びる状況を自らを押し隠そうとする動向にも通じ、その根っこには他者との違いが浮き彫りになることへの恐怖、それは幼稚園でのある事件に端を発していたものだった。すると、それを静かに聞いていたソフィアが差し込む。


  『そっかぁ。あのときのことでマコちゃはそんなにも思い悩んでたんだね……気付いてあげられなくてゴメンね……』


 愛娘、マコトのこれまでの振る舞いのその奥に秘める思いに心を寄せるソフィア。日頃から屈託のない笑顔を見せてくれるマコトだが、そんないくつもの情景を思い起こせば、あのときも、このときもと、その節々に僅かに(かげ)る表情が確かに挟まっていた。


  『いつも元気ハツラツなマコちゃがときおり見せる奥ゆかしさ……』


 今明かされた(かげ)りの正体。幼い娘の小さな肢体、そのあまりにもちっちゃな胸の奥に仕舞わせていた事実に、胸が締め付けられるソフィアの眉根は小刻みに揺れる。


  『そうよね。賢くも心優しいマコちゃだもの。そこにはなにかの理由があって然るべきところよね?』


 少しだけ沈み加減な表情でやや俯きながらソフィアの言葉を聞いていたマコトは、そんな思いの丈、自身に寄せてくれる愛情の言の葉、慈愛に満ちた美しくも柔らかい声色にじんわりと心を癒されていた。


  『……ふぅぅぅ……よし!』(ぱしぃぃぃっ)


 視界を揺らす瞳に潤むものを振り払うように強く閉じ、ソフィアは両頬を両手のひらで思いっきり(はた)く。


 その音に驚き顔を上げた視界の先に飛び込んできたソフィアの頬。透き通るような白い肌に、紅葉のような紅い頬模様がくっきりと浮かび上がる。


  『え? マ、ママ? ほっぺた大丈夫?』


 娘に気遣われるソフィアだが、(はた)いた頬を中心にジンジンと脈を打つ。その前の心模様を映した潤みから一転する熱い痛みに滲む瞳へと切り替わっていた。


 いつの間にかマコトの沈む表情もどこへやらで、ソフィアの痛みを気遣う表情に切り替わっていた。


 相当強く叩いたようで頬の紅葉はくっきりだが、その痛みを感じながら、確かな心持ちの変化ができたこと、マコトの表情変化が叶ったことにソフィアは満足しつつ話を続ける。


  『大丈夫よ……それでね、話を戻すわね。あのときのマコちゃの考え方、判断は何一つ間違っていないわ。その子どもたちのほうが完全に間違っていて、そんな状況を生み出している親たちや幼稚園、ひいては日本の教育機関の在り方に大きな問題が潜んでいるってことになるわね?』


 『え? マコは間違ってはいないってこと? ……それは嬉しいことだけれど、でもそれならなんであんな状況に……って、ほ、ほっぺた大丈夫?』


 ソフィアから自身の考えは間違いではないことを断言されたことで、これまでややグラついていた心のモヤは晴れたマコトだ。しかし、そうであるなら、自分以外の大部分が否定されるわけで、マコトの胸の奥には再び別のモヤがかかる。それとは別になお一層紅みが増すソフィアの頬、やや腫れ上がる状況が気にかかるマコトだった。


 指摘されて、改めて自身の頬に注意を向けるソフィアは、ジンジンと響く痛みに苦笑いしながら、気遣うマコトの優しさに笑みを返し、火照る熱さと痛みを噛み締める。


  『だだ、大丈夫よ。確かに痛いけど、これは戒め! 痛いくらいがちょうどいいのよ……でも本当に痛いわね。強く叩きすぎたかしら? ……で、そうね。日本には身分制度みたいなものはないはずだけど、それぞれの生活には、上位に立つ力を持つもの、会社や機関の上に立つ大人がいて、その下で働く大人もいて、どうやっても自然とカーストが形成されてしまうものなのよね? そして大人にもいろいろいて、上はより傲慢に、下はへつらうしかない立ち位置が自然と生まれてしまうみたいなの』


  『難しいね。でも確かにそうなっちゃうよね。仮に上が良い人でも、下は失礼無いように、とか、下がダメダメなら、上は結局切るしかなかったり……とか? 仕方ないのかな?』


 生活するために、お金を得るために仕事をすることは、現代ではそのほとんどが会社などの組織に組み込まれるか、仮に独立していても、その先には多くの企業や個人が上の立ち位置にいることになる。対価がお金である以上、それは逃れられない構造ではある。当然マコトはこれまでも、これから先も大きくなるまでは、仕事に就く予定などは一切ないが、そこに思いを寄せるマコトは生じるジレンマに顔を曇らせる。


  『そうね。これ、なんとかなればいいのだけど、互いに人間である以上、おそらく解決をみることはないわ。世の中、持ちつ持たれつ、な関係性は必ずあるはずだけど、どうしても上に立つ側は下に立つ側に大きな影響を及ぼす絶対的な力を持ってしまうからね。そんな関係性に包まれる家族も同様で、知識はないけど物心つき始めた多感な子どもたちは、勝手にその威光を纏ってより傲慢に、下側に立つ子は親から言われるから余計だけど、よりへりくだってしまうのも致し方ないところなのかもしれないわね』


 ソフィアのくれる説明は、ちょうどマコトの体験に重なるものだった。より身近に感じたからか、自由な発想が駆け巡る。


  『マコが見たのはたぶんそんな構図なんだね。そういえば、ラノベなんかに出てくる嫌な奴って、大体そんな感じ? あと、またまたそういえばなんだけど、そんな状況を表すのに、虎の威を借る狐、って言葉があるけど、本当の由来は、狐さんが賢かったお話のはずなんだよね? けれど、そういう子どもは実は何も知らないおバカさんで、全くの反対。狐さんに失礼な話だよね?』


 世知辛い世の中の構図を語っていたソフィアにとっても、自由な発想を投げかけるマコトの言葉は頬を(くすぐ)ってくる。マコトの放つ言葉を思い描きながら、浮かぶ笑みに瞳を(くゆ)らせる。


  『あらー、よく知ってるわね。くふふっ。それ、わたしも日本に来て、漢字文化に触れて知ったのよ。古代中国のそのエピソード。ふふっ。そうよね? 狐さんに例えられる人って、むしろ例えるべきはお馬鹿な虎さんのほうよね? あ! 強いわけではないから虎の着ぐるみ着た感じかな? あははは』

  『あは! ホントだ。そっかぁ、虎の着ぐるみ着てる奴らなんだね』


 虎の着ぐるみを被った偉そうな子どもを想像したのか、互いにお腹をふつふつと震わせながら目元を(ほころ)ばせる。


  『それにマコちゃの言った通りで、イジメって日本でも大きな問題になっているわね。なんとかしたい話だけれど、この問題は日本だけじゃなく世界的にもアチコチで起こっている問題。人間である限り起こり得るとっても根が深い問題ね。ジンがこのまま一ノ瀬一族に顔が利くようになってきたら、その範囲だけはジンがなんとかしてくれるのかしら? まぁそれらを置いといたとして、だけれども、ママが2割くらい? パパが1割、マコちゃが1割、悪いかもしれないわね?』


  『へ? どういうこと? マコたちは間違ってないのに何が悪いっていうの?』


 ソフィアは狙ってのことか、割合が合わない言葉を潜ませる。賢いマコトのことだからと、案の定、そんな不整合に食いつく様子に、ほくそ笑みながらソフィアは続ける。


  『うん。元々悪いのは全部アチラ側だけどその後の対応の話のことよ? ざっくりで言ったけど、マコちゃの1割は、マコちゃが怒ったって(くだり)のところ、マコちゃは魔力を発動しようとしていたのよ』

  『え?』


 まさか魔力発動していたとは、と、マコトは自身の行動に目を丸くする。


  『そうよね。たぶん自覚なかったわよね。周りの空気もただならぬ状態で、マコちゃの形相も相当凄かったみたい。威嚇された子たちはかなり怖い思いをしたみたいよ? まだ魔力なんてまったく認識していなかったときの話でもあるし、わたしもその瞬間にいたわけではないから、正確な状況がわからなかったけれど、後々整理してみるとおそらくそういうことだったのね。まぁ、なんとかうやむやにできたから問題ないレベルね』


  『そ、そうだったんだ。その頃からマコ、既にしでかしてたんだね。ふふっ、マコってば……あははは、笑いしか出ないや』


 今日だけでもいくつかしでかしていたことで、反省しつつ気を取り直したばかりのマコトだったから、追撃の事実に苦笑いを零す。しかし、昔の大事(おおごと)にもならなかった出来事でもあり、気にしいのマコトが気にしないようにとソフィアは言葉を選ぶ。


  『そうね。でも気にすることはないわよ。当時のマコちゃは今よりずっと幼いんだし、そんなとき、それを何とかするのがパパやママの役目でもあるわけで、結果として、あの話はあの場で終わった、つまり、S国に引っ越せたからね。そうじゃなかったら、いろんな追求があったり、どこかにしこりを残す結果になったかもしれないわ。だからそこのところはドンマイだぜ! マコちゃ』


  『う、うん。わかった』


 それでもやはり、気にし過ぎ傾向な性格のマコトだったから、ソフィアはサムズアップの右手とともに、少々やんちゃな印象の励ましの言葉を掛けてみた。それが少々功を奏したのか、表情から堅さが抜けたように視え、ソフィアは胸を撫で下ろす。


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