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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
143/157

モノ作り談義 〜 暗躍のうねりⅹⅲ

 ジンとのやり取りの円滑さと、イルの追撃もうやむやに誤魔化せそうなことに満足しつつ、少し前の会話内容で不完全な部分を思い出すマコト。


  『あ、パパぁ?』


 マコトの問いかけに反応するジン。マコトは続ける。


  『さっき言ってたもうひとつってやつ。はい。コレ』

  『おう、そういえば。ん? なんだコレ』


  『あー、うん。まだ試せてないけど、ダイナビーを加速させるときの、なんかこう、見えない重たい棒みたいなのを捻り込むような操作? これプリセッションなのかな? なんかギュギューンってなる瞬間あるよね?』 

―― この感覚的なところ、わかるかなぁ、パパ。


  『おー、わかるわかる。それが最高速状態なのか、全体が小刻みにブルブルくるよな?』


―― やっぱりパパだ! 思考が重なりすぎて気持ちいいな!

  『そうそうそれ。その瞬間に捻り込む方向にオーラの粒を放つんだ』


  『ま、マジか。回転数がきっと凄いから威力も半端なさそう……いや、それもあるけど直進力が……もしかして……』


―― もー、パパってば! 気付いて欲しいところによくぞ気付いた!

  『あははは。流石パパだね。そうそう。威力増しそうでしょ? 殺傷力を高めたいわけじゃないから、その弾頭部分には、ほら、この間の柔らかいシールド、アレで包んでるんだ。柔らかくても当たるとさすがに痛いけど、これなら危険性はグッと減るでしょ?』

―― この柔らかさは、体験したパパだからこそ

―― 一番よくわかってくれるんじゃないかな?


  『あぁ、あの空港の駐車場の爆発から護ってくれたやつだな? そうか。なるほど。あれならかなり衝撃は吸収できそうだ』


 ジンは柔らかいシールドのその柔らかさ加減をその身をもって知っているが、それだけでなく、ジンを助けるために超高速度で飛び出したマコト自身がその柔らかさのクッションに包まれ、全身を保護できた事実をその眼に焼き付けたと言っていいくらい鮮明な記憶として残っている。ジンにとっては絶大なる信頼感しかないわけだ。


  『うん。それとその直進性。ホント、直ぐにそこに気付いちゃうなんて、流石パパだよ。ツブテでも如意棒でも、一瞬のごく短い時間とはいえ、当たる直前まで意識を向けてないといけないもんね?』


 回転と聞いて直進性。弾丸のような発射物に対する効果として、よく考えれば、誰でも気付くものかもしれないが、この短時間の言葉のやり取りでそれが発射物そのものに対して与える効果であることだとは誰も言っていない。ジンとマコトのこれまでの経緯(いきさつ)と、日頃のモノ作りを共にしてきた思考の類似性や、問題点の共有への取り組みなどがあったからこそ、そんな効果に結ぶ会話が成立するのだった。


 ジンを称賛しながらも、互いの求める知識や具体的に結実する未来像の明らかな重なりを感じることは、相互に絶対的な信頼感を形成できていることの証でもある。そんな言わずもがなの関係性が嬉しくもあるマコトは、終始、頬を綻ばせる。つまりは、嬉しさを隠せずにいた。それは隠すことを考えるよりも先に、次から次へと溢れ出る事柄を言葉にすることを何よりも優先したからに他ならない。話す事柄はどんどん二人の間で弾んでいく。


  『そうそう。でもそうしないと、目算誤差や風で流れたりで軌道補正は必須だからな』


  『そうだよね。だけどさぁ? 高速に回転させて直進性もスピードも、オマケに安全性まで増したとしたら?』

  『おぉ、思考を次に進められるってことか!』


 モノ作り、それを実現できる構造や方法などを考える思考と、それを使った具体的な利用方法を更に良くしようとするアイデアに気付く思考は、似ているようで、少し異なっている。


 前者のモノ作り面は、各種学問を学び、さまざまな素材的知識、力学的構造や強度計算の知識、それらをさまざまな用途の要求に基づいて組み上げる数々の経験を積んだジンに軍配が上がる。


 だが、実用段階への想像力が重要な後者のアイデア想起は、学問の積み重ねが不要なこともあるが、発想力が自由で柔軟なだけでなく、空間上の挙動イメージなど、学んだわけでもないのに何故かイメージ的な構成力に長けた資質を発揮する、幼きマコトに軍配が上がるのだった。


 少し言い換えると、知識や計算が必要な基礎的土台部分をジンが賄えば、その土壌の上でマコトが自由に発想力を発揮できる舞台が整うわけだ。あまりにも幼いマコトの知識が浅いことは当然で、都度都度ジンがそのアドバイスやレクチャーなどの教育を行い、いずれは基礎部分も含めたトータルな開発ができるように、とジンは考えているようだ。


  『そういうこと! ふふっ。相手が沢山いて同時に動かれたら他の対処は間に合わないでしょ?』

  『なるほどね』


 そんなマコトの能力を理解し高く評価するジンは、各種アイデアを素直に受け止める。元からの性格が寛容なことも素地にはあるが、初めてソフィアに出会い、立て続けに多くの衝撃を受けたことも大きいようだ。


 一般的に親がその権威を振りかざす場合は、地より低いちっぽけ過ぎる感情ゆえだ。シャナの言に拠ればマコトはソフィアをも遥かに超える逸材らしいが、そんなマコトが優秀であることはもはや当たり前。ソフィア曰く、ジンの血筋ゆえに優秀、とのことだが、能力というより、今の工作オタク的な自身の気質を濃く受け継いでいることにジンは喜びを禁じ得ない。マコトに求められれば、知識も技も惜しみなく与え、身に纏えたならジンは自分のことのように喜びに心を震わせる。


 ある種の親馬鹿さも含むが、親の権威を振りかざすことのない親子の立ち位置を保ちつつ、成すことへのやり取りはもう仲間の対等な関係に近い。そんなやや特殊な関係性を互いに大切に育んできた。


 また、常識をことごとく覆す、魔女の血に秘めた不思議な力を目の当たりにすれば、ジンにとっては、何よりも羨ましさが先に立つ。が、シャナから知ったジンの血筋の特殊性を踏まえれば、ジンにもその素養、もっと言えばそれらすべての根源たる力を秘めていたことが判明したため、マコトとともに能力開発に励んだ経緯がある。


 それも手伝って、魔力行使に関しては、マコトは共に切磋琢磨する仲間であり、ライバルであり、そこに物理を掛け合わせる部分では、ジンは一日の長でもある先生の役目を担うのだった。


  『だから放ったら、あとは狙い通りに大体進んでくれるとしたら、他に向けて、続けて直ぐに次弾を放つことができるわけ。ただね……』

  『ただ?』


 モノ作り談義のなかに、いつもたいてい一つは混じる「ただ」の言葉。弾むように共有の会話が進む中で、重要、もしくは要注意な事柄を説明する前に冠する言葉でもある。ソレを受けたジンは、気を引き締めて、内容の説明を促す。それを受け止めマコトはツラツラと語り始める。


  『うん。たぶん気付いてる思うけど、発射はかなりアナログ。すべては発射の瞬間の手首の捻った向きにかかってるってことなんだ。一応対策として発射方向の空間に螺旋状のガイドラインと、それと並行に目線の高さの一筋のラインをオーラで描くようにしてみたけど、どうかな? そんなラインは他の人には視えないはず。だから気取られずにゆっくりと照準を合わせるといいよね。使えそうかは試してフィードバックが欲しいかな。いつかはアニメで見たスカウタ? みたいな……戦闘機の|HUD《Head Up Display》? みたいなので照準補正してみたいけどね』

  『うはぁ! マコト、お前やっぱり凄いなぁ、ぅぅぅぅワンダフル!』


 マコトとジンのモノ作り談義の中でも、これはジンの琴線に触れる秀逸のアイデアだったようだ。マコトの展開する小気味良い構想アウトラインのレリーフ《浮き彫り》は、ジンがかねてから思い描く思考のロジックの窪みにすっぽり収まる。これはもう魂の共鳴と思えるほどの震えとともに心を鷲掴みされたジンは心からの称賛を零してしまう。


 すっかりモノ作り談義に熱中しきって、自身の思い描くイメージ世界を饒舌に語りきったマコトだった。しかし語りに注いだ熱量だけ、聞くものの心には強く響く。マコトはさっきもその能力を過大評価されて弄られたと思っていたにもかかわらず、自らうっかり矢面に立ってしまう。それに気付いて慌てて打ち消す言葉を捻り出していく。


―― あれ? いつの間にかマコ、悦に入ってた? やば! 火消ししなくちゃ……

  『え? い、いや、だって……この間のS国からの帰国便の対戦闘機戦で沢山の相手のとき、一つずつしか対処できなくてヒヤヒヤしたんだもん!』

  『あー、あーまぁな。そうだったな。確かに』


 咄嗟の反応にしては、なかなかうまく返せたようで、ジンの肯定反応の取り付けに成功する。気を取り直せたと思い、安心しながら補足の言葉を重ねるマコト。


  『でしょ? あのときは相手がこっちに気付いてなかったからなんとかなったけど、いっぺんに来られたらアウトだもんね』 

―― ふぃぃぃっ、なんとか凌げたっぽい?


 しかし、一度(くすぶ)った熱はそう簡単には冷めることはない。


 『まぁな……だけど、それ。物理……いやその前に数学……あ、まだ算数か? まぁたくさん勉強が必要そうだけど……実現するかは別として、そんな構想をぶち上げられるマコトの脳内は一体どんな構造してるんだろうな? コレも魔女の血筋なのか……まったく恐れ入るよ』(ごくり……)


 マコトが構想していることの組み上げに要する手数や計算の存在。それがどれほどの困難さかを思い描くほどに、それを言語化するジンは、驚嘆のあまり息を呑む。


  『え? そんなに大変なの? マコは何となくなイメージで手っ取り早く作るつもりだったんだけど……』


 そして、ここでマコトはまだ認識できてないかもしれないが、天才感丸出しのセリフを吐いてしまう。それを初めて聞いた者なら特段の問題はない。だが、マコトのモノ作り履歴を知る者にとっては全く別の話だ。


 普通なら、何となくなイメージだけで始めたらまず失敗する。そうならないために、必要な計算とそれに見合う素材ややり方を充分に準備し何度もトライアンドエラーを繰り返した先に、初めてものになる結果を得るものだ。


 ところが、今のマコトのようなあからさまに素人感丸出しな言葉を吐き出しながら、驚くべきことに、たいていは成功の結果を掴むのだ。


 おそらく、マコトの言う「何となくなイメージ」が、限りなく成功に近いイメージまで、マコトの細かな「コレくらいかな?」を総合的に外れることのない高い粒度で、脳内構想の段階のトライアンドエラーで仕立て上げるからだと、ジンは推測している。


 ジンがそんな見解を思い起こすのに、充分過ぎる言葉だった。そんなジンの様子を瞳に映したマコトの心内に例えようのない違和感が疾走(はし)る。


―― あれ? なんか空気が違っ……


  『え? いやいやいやいや……大袈裟だよパパぁ。もー、直ぐ皆、マコのこと祭り上げようとしてぇ……マコは弄られキャラってことなのかなぁ。ホント。大体、誰でも思い付くことだから……それに、そんなこと言ったら、これ、いろんなアニメなんかの物語を考える人皆天才ってことだよね?』


  『あー……うん。存在していないところから、夢のようなものも含めて、いろんな架空の仕組みを産み出してる彼らは確かに天才なのかもな』

 『ふふん。そうでしょそうでしょ!』

―― なんとか持ち直せた?


 持論が肯定されたような感覚のマコトは、何故か誇らしげにやや俯き頷きながら呟く。そんなマコトの表情を見届けると、ジンはニヤリと含み笑いを浮かべながら否定の言葉で繋げる。


  『だが、それとは違うぞ?』

  『へっ!?』

―― ちょ! ま!


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