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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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潜む理由 〜 暗躍のうねりⅷ

 不意に訪れたプレート面の崖崩落への艦体の機動による回避対応をやりきった後、短い時間でもかなり集中していたためか、艦長は疲労度合いのアピールを憚らない。


「ふぇーーっ、束の間の対応だったが、つっかれたぁ」

「いやぁー、ホントお見事でした、艦長。咄嗟にあれほどの精密な機動が行えるとは……感服しました」


「あぁ、皆の練度が高かったからな。でどこまで話したかな?」


「おー、そうでした。いや、この状況の苛烈さを愚痴ってただけ……でしたね。あんなものを見せられた後では、もう……お恥ずかしいかぎりで。今もまだ鳥肌が立ちっぱなしなんです。あの艦長の目を見はる華麗な操艦。思い出すだけでも感動で震えが止まらないほどですよ」


 艦長の咄嗟の操艦にソナー長はイタく感動していた。その前の会話を問われると、途端に恥ずかしさが込み上げるばかりのようだ。


「はははは……ありがとう。だが、覚えなくていいからな。私が訓練生のときにやったら、しこたま怒られた邪道なやり方らしいからな。そもそもこんな狭間に潜伏すること自体、あり得ない邪道な作戦だ」

「確かに」


「でもちょうどよかったよ。私も皆に負担を掛けている自覚はあるからな。口には出さないだけで、皆不満を(くすぶ)らせたのだろう?」

「いえ、そんなことは……」


 元々は特段の言葉を放つつもりもなかった艦長だが、訪れた危機とその回避というイベントはクルーとのコミュニケーションを図りこれからの展望を伝える良い機会でもあったためか、思いの外、饒舌に語り始める。


「あー、いいよいいよ、気を遣わなくて。だが、さっきのは本当に危険極まりない状況だったわけで、ソレを引き合いにこんなことを言うのは大変心苦しくもあるが、君が言ってくれたように、さっきので、もしもクルーたちの心を震わせられたとしたら、気合い注入以上の成果が得られたのかもしれないな、ってな」

「はい。ソレはきっと間違いないかと。私なんてまだまだ高揚感の最中(さなか)ですからね」


 いまだに引きずるほどにソナー長の興奮は止まないようだ。そんな反応を確かめて、やはり今が好機か? とばかりに艦長は話を続けるようだ。


「ははっ、そんなにか」

「はい。そりゃもう……この巨体が……こんなにも狭小な裂け目、左右に数十メートルしか間隙がない中で、ダイナミックに素早く、それでいて最小限の挙動を見せてくれるなんて……皆おそらくアドレナリンもダラダラでしょうから、きっと実力以上の任務遂行が見込めるでしょう」


「ちと誉めすぎでは?」

「いえいえ~。ただ……」


 すこし興奮も収まったのか、ソナー長は、元々話したがっていた内容に話題のシフトを試みる。


「ん? ただ……なんだ?」

「あ、ええ、この操艦で、艦長への信頼は爆上がりで、任務に対する不安はかなり減ったと思います。が、目の前の状況が、依然として過酷なことに違いはないわけで……」


 ソナー長は話の中核を切り出す。すると、艦長は想定内の反応に、いつかは話す必要があった話題を述べることにするようだ。


「確かにそうだな。だが、あと少しの辛抱だ。あーーっと……ちょうど良いか、うん。雑談レベルのつもりだが、少々話したいことがある。他の者も、私の声が届く者は、耳が空いてたら聞いててくれ」

「じゃあ、この周囲には船舶もなさそうだから、音量を落として艦内放送を入れますか?」


「いや、皆に伝えたい話だからそうしたいところだが、雑談レベルとは言ったものの本艦の企図がだだ漏れしそうな内容も含まれそうだから、今は止めておこう」


「そういう話でしたか。それなら皆も良く耳を澄まし、心して拝聴するように。今いない者には持ち帰ってキチンと伝えるようにな」

「サー」


「ありがとう……実はな、今朝の定期報告で知らされたことだが、V国に動きが見られたそうだ。もしもコトが起こるなら間もなくかもしれんぞ。そうなら、この裂け目から離れてコトに当たれるわけだ」


 艦長は唐突にV国の話題を切り出す。周囲のクルーからしてみれば、何のことだかわからない状態で興味は薄そうだ。ソナー長は切り出したかった話題にフォーカスしていく。


「うー。そうは言っても……間もなくって……まだ、あと数日は続くわけですよね? 正直言ってこのプレートおっかないですよ。誤って接触したら飲み込まれそうで、それどころか、大震災を引き起こしそうなくらいヤバいところですよ、ここ。危険度ヤバヤバ……そうまでして、上は一体どんな情報を期待しているんですかね」


 ソナー長の言葉は、現場の忌憚ない意見で、心の底からの危険に対する震えが発露したものだった。しかし、それは艦長にとっても織り込み済みで、それをわかってなお、力を発揮して欲しいものだから、特に驚きもなく、平静を保ったまま頷きを繰り返し聞いていた。艦長はそれを前提とする情報開示を続ける。


「あー、そういえば詳細は伏せたままだったか。……うん……そうだな……今がようやく話せる頃合いということだな……あー、皆は数週間前のS国旅客機のテロ事件は知ってるな?」


 艦長はようやくテロ事件の話題を話の中心に持ってくるが、まだクルーの興味は薄そうだ。


「あー、はい。世間的な情報程度ですが、無事にテロを制圧して日本に降り立ったって話ですよね?」


「その通りだが、知っているのはそこまでなんだな?」


 艦長の意味ありげな言葉にソナー長が食いつく。


「ほぅ……ということは、裏にデカい情報がぶら下がっている……ってことですかな?」


「おー、察しがいいな。まさしくその通りだ。実はな。そのテロ組織に我が国の……この海域に展開されていたある原潜の弾道ミサイルがいいように使われたって話だ」


 クルーからしたら、突拍子もない話題だった。情報制限をしていた以上、当然の反応だが、各々がその突拍子なさにそれぞれが顔を見合わせながら小声でざわつきを見せる。


「え? ま、まさか。いやそんなの……一体どうやって?」


「あー、そこも極めて重要だが、今の問題はそこじゃない……その旅客機によって、弾道ミサイルが無効化? いやすべて叩き落された、とまぁそういうことだ」


 さらに話題はシフトする。聞かされるクルーからすれば、少々強引な話運びに半信半疑な状態のようだ。


「え? いや、いやいや……まさか。だって武装など皆無の民間旅客機ですよね?」


「あー、そうだ」


 クルーの戸惑いももちろん、艦長の想定内のようだ。


「そうなら、魔法か何か、うーん超能力とか? ……でもなければできるはずないですよね? 仮にソレがあったとしても、よくあるスプーン曲げる程度じゃねぇ……かなり桁外れな力でなきゃ……そんなの映画やアニメの世界だけですよ。皆もそう思うよな?」


 意外にソナー長の発想は若かった。艦長の話したい方向に思ったよりすんなり進むことに軽く驚きつつ、頬を緩ませるが、案の定、クルーの表情はそっけない反応のようだった。


 ソナー長の言に同調する者たちが思い思いの感想と否定の意見を並べ立てる。


「そうそう、ホントですよ、艦長。4月(エイプリル)馬鹿(フール)は終わったばかり……ま?」

「こういうのは、リアリティをどこまで底上げできるか、ですからね~。そんなに演技派でしたっけ? 艦ち……え?」


 しかし、話しながら艦長と目が合った瞬間に、それぞれ艦長の一瞥する無情の表情、無言の圧を感じ取り、言葉は途切れる。


 一人、そしてまた一人と、押し黙る流れを目にし、それでも、まだ自身が鵜呑みにできない感情を残しながら、ソナー長は否定の意志を擦り合わせようとする。


「そんなのがまさか、あるわけ……ないし……あはははは……は……はは……え? その真剣な面持ち……マジなんですか、それ?」


 それでも艦長の眼差しは淀むことなかった。もしも別のまっとうな理由があったなら、または不確定要素がいくらかでもあったなら、艦長は譲歩するか意見を差し替えたかもしれない。しかしここまで揺るぎない姿勢を見せられたなら、ここはもう受け止めるしかないと、ソナー長までも自身の見解に蓋を被せ、神妙な面持ちで艦長の言葉を待つ状況だ。


 あらかた対立意見も静まった頃合いと見定めたのか、ようやく艦長が口を開く。


「あー、そうでなければ全く説明が着かないんだ。それだけじゃない。もしも、そんな脅威が本当に存在するとなれば、我が国の軍事的なアドバンテージは紙くず同然。世界に誇る軍事的な権威は地に落ちたに等しいことになるわけだ……」


 まさかの艦長の一言に、聞き入る者の脳裏には衝撃が走り、クルーはやや大きくざわめき始める。


 ざわざわ……


 ようやく皆の顔が真剣味を帯びてきたなと、笑みながら軽く鼻息を漏らし、艦長は続ける。


「……だからこの調査は現在の我が国の最高機密(トップシークレット)にして、その中でも最優先事項でもあるのだ。究極の軍事兵器をいいように使われた我が国は、それ以上の恥の上塗りをしないよう、その事件を国家レベルで秘匿し、その交換条件として、仔細の追求をしないことを日本側に約束させられたというわけだ……」


 闇に眠る事実を聞かされ、クルーの表情はいっそう真剣味を帯びる。そんな変化を見据えて艦長は続ける。


「……つまり今後もこれについては介入不能なわけだが、詳細が掴めなくては今後の運用にも大きく差し障る。だから存在を知られることなく、秘密裏に情報を掴みたい、というのが本国の意図。本作戦の目的だ。皆には苦労を強いるが作戦成功のためにどうか協力して欲しい。あとなぜV国が関係するのかは、まだ伏せておく。事態が進行したならまた話するが、今はV国も作戦シナリオに関わっている、とだけ覚えておいてくれ」


 ようやくここに来て、この極東の困難極まるプレート裂け目の滞在に拘る理由とミッションの重要度を認識できたクルーたち。皆、迷いない真剣な表情に染まり、ソナー長が口を開く。


「承知しました。そういうことなら気合を入れ直してやりきってみせますよ」

「おう。頼んだぞ」


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