禁断と気絶 〜 暗躍のうねりⅵ
南東の方向から迫るV国のヘリの動向から、今為すべきことの方向性が明確化し、CH−47の進路を南西に定めたジンたち。
一方、やや時間を遡り、V国のヘリサイド。
「わわわわっ!」チッ
「おい。エンジニア。どうかしたか?」チッ
突然驚きの声を張り上げたエンジニアに、サイキック戦士でもあるレイラが尋ねる。
「きぜっ……あ、いえ、レーダー装置が緊急停止しました。あ、えーと、先ほど捉えたターゲットと思しき機影が詳細なレーダー覆域に入るところ、オーラの接触が図れるはずでしたが、ととと、突然の変化が起こったようで、装置内部で転覆して気絶……あ、ききき、機能停止したみたいですね」チッ
機材の故障など、何が起こるかわからないアクチュアルな場面で物理的な機材なれば、当然起こり得る話だ。
どれほどの実証と経験を重ねたかにもよるが、特殊な用途の機材ほど想定外な状況は起こりやすく、それはレイラも経験上よく理解している。
そんな事態が起こったとしても、レイラの立ち位置ならば、ただ、ダメ出しを下すだけのことで、全く慌てることはない。
しかし、それはエンジニアにとっても同じことだ。
今が効果を発揮すべき実戦の場だとしても、故障してしまったのならどうしようもない。もちろん、今の本番にうまく任務を果たせなかったことで多少の動揺はするだろう。責任感から当然謝罪の念にも駆られるだろう。それが表面に表れるのも特に問題はない。が、今やるべきは、冷静に結果を受け止め、データとして記録し持ち帰ることで、あとは改善に向けて充分に検討・検証を重ねるだけのはずだと。それにもかかわらず、異様な慌てようの言葉に混ざる違和感にレイラは引っかかりながら言葉を連ねる。
するとレイラの脳裏では、モヤッとしていた何かがその根源たる文字へと、話しながらフォーカスはしだいに定まっていく。
「故障か。チッ。やはりポンコツなん……ん? き、気絶? 気絶と言ったか? お前、キショいな。どんだけ機械が好きなんだ。擬人化にもほどがあるだろ」チッ
レイラは、言葉の節々に潜む違和感を、いわゆるオタクや熱狂的な研究者が、その嗜好や研究対象に注ぐ愛情のようなものにも思え、擬人化の言葉と捉えたようだ。
しかし、エンジニアの様子はそんなレベルに留まらない異様な狼狽え方を見せる。
「あ、いえ、あ、や……」チッ
「ん? 何を狼狽える必要がある……まさか……本当に生きて……生物兵器……いや攻撃性がないなら兵器とは言わないか。もしかして人間?」チッ
エンジニアが頑なに隠そうとするもの。そこにレイラ、自らが兵器としての扱いを受けた過去の禍々しい記憶が甦る。が、それはまだ戦闘能力の転用に過ぎない。
しかし、今隠そうとしているものは人そのものに何らかの改造を施すような鬼畜の所業かもしれない考えに思い至るレイラ。
心をざわつかせながらそれをエンジニアに問いかけた、という構図だ。
「いえ、それは違います」チッ
エンジニアの即答に、瞳を閉じ息を吐きながら胸を撫で下ろすレイラ。
もしもその疑問が当たっていたなら、開発本部長の所業は許せないことと、知らぬこととは言え、自身もその片棒を担いだことにも成りかねないわけだ。レイラは否定即答に軽い感嘆を示し、人でないなら、と次の選択肢を尋ねた。
「ほう……否定はハキハキしてるんだな。なら他の生物……か」チッ
エンジニアは目を泳がせ、一息置いたところで観念したのか、肯定の意を返す。
「……は……い」チッ
「ふぅーん。まぁ、超能力研究なら、生物も当然あるだろう……」チッ
人ではない、そんなエンジニアの返答にひとまず安堵する。ただ、晴れない疑問に心がもやつくレイラは、残る可能性として、絶対にやってはならない暗黙の禁断事項に触れる。
「……だが、その様子だと……かなりの機密事項……なら、放射能関連? ……か、まさかキメラか?」チッ
エンジニアの表情は、レイラの追求の包囲網が狭まることに対応しきれないのか、再び目が泳ぎだすのを留められず、瞳は潤みだす。
「……は……い……そ、それ以上はご勘弁くだ……ゥゥ」チッ
「ふっ、わかったわかった。いいよ、フフフフ。(面白くなってきたな。あのタヌキオヤジ。なかなかやるじゃない、クフフ、潰し甲斐が)……おっといけないマイク入ってたか」チッ
本国出発前に、自身を攫った張本人である開発本部長が、昔の傲慢さは影を潜め、すっかり日和っていたことに苛立っていたレイラだった。忌み嫌うはずの本部長を叩き落とすことを目標の一つとしていたところ、それには値しないと肩透かしをくらった形だったのだ。
ところがどっこい、水面下ではちゃっかり鬼畜にも劣る危ない構想を練り上げていたことを垣間見た今、この部隊長の女は忌み嫌うべき姿を再確認できたことに喜びを禁じ得ず、うっかり心根からいずる歓喜の震えを零してしまう。矛盾しているようだが、同じ叩き落とすなら、充分な高低差からしっかり闇の奥底まで叩き落とすことにこそ生き甲斐を感じるのだった。
ただ、今はそんな鬼畜の結晶ともいうべきレーダー装置の性能は作戦の成否にも影響することと、どれほどのものかを確かめたい思いから、レイラはその復旧が気になり尋ねる。
「で、なんだ? その装置とやらはいつ再開できるんだ?」チッ
「さささ、再始動してからも調整が必要ですし、今今状況の子細も掴めていないため、状況回復への見込みは立っていない状態です。最短でも30分程度は掛かるかと」チッ
「あー、大丈夫だ。ターゲットと思しきものは機上レーダーに引き継ぎ済のようだから、一応の役目は果たしたことになる。次のコトが起こるまで……おそらく40分くらいか? そこまでに直ってくれるなら、オーラ検知レーダー様の方は慌てずゆっくり復旧でいいぞ?」チッ
「(ほっ)わかりました、部隊長」チッ
エンジニアはレイラに目を合わせながら返事をすると、今度は操縦席の方向に目を配りつつ、緊急対処のためのパームトップPCを開き、装置への接続を開始する。
PCの準備が整うと、レーダー装置にリンクさせた制御コンソールを確認しながら、機長に報告する。
「機長、何かあっても本機に影響が及ばないよう、レーダーポッドは下げたままで復旧作業を行います」チッ
「了解。状況に変化があれば報告をくれ。何かは知らんが、こっちまで被害を被らないようにしてくれよ!」チッ
「了解です」チッ
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続いてマコトサイド。
何かが気にかかり、イルがマコトに疑問を投げ掛ける。
『ねぇ、マコちゃん?』
『ん? 何、イル。どうしたの?』
『ん。疑問がちょっとだけ……』
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そんな会話とは別に、兄との事前打ち合わせを思い出し、ジンは状況を整理しながら、パイロットに投げかける。
「パイロットさん? 確認です。先ほどもお聞きしましたが、本機には武装といえるものは一切搭載していない、で合っていますか?」チッ
「ああ、その認識で間違いないが、やはりそういう事態の想定があるのか?」チッ
不意に尋ねられた言葉に眉を潜めながら、パイロットは状況説明を乞う。
しかし、不明ばかりの状況はジンも同じで、彼我不明な実情を返す。
「いや、そこは全くわからないのですが、可能性としてないとは言えないのが現状で……(何か頭を過った……あれ? なんだっけ? あ! そうそう富士)」チッ
しかし、話しながら、浮かぶ想定状況を事前のジンの兄とのやり取りから思い出し、漏れ零したワードを噛み締めながら、最善手として選び取るなら……と、方針の転換・訂正を伝える。
「ただ、このまま海上へ、陸地から離れる方向に進むのはやはり悪手ではないかと思えるので、転針したいです。富士の演習場へ向かうことはできますか?」チッ
「ああ、可能だ。やはりそうなのか……元々、何故か富士の総合演習場が|目的地《Destination》となっていたからな。南進するから硫黄島にでも行くのかと燃料を心配していたが、富士なら問題ない。ただ俺たちは富士演習場についてはよく知らないがそこは大丈夫か?」チッ
「はい。おそらく、地上からの誘導があると思うのでたぶん大丈夫かと。それに敵機が武力を行使してきた場合、それに備える態勢が整えられていると思うのと、可能なら敵勢力からその一部でも捕らえられれば、という狙いもあるのだとか」チッ
「おいおい。やっぱりきな臭い話があるのだな? 死ぬのも、罪に問われるのも真っ平ゴメンなんだがな」チッ
「あ、そこは大丈夫。何が起こるかわからない以上『絶対に』とは言えませんが、当機が火に包まれることも墜落することもありません。それにこれは内調主導のオペレーションなので、よほどの反逆行為でもない限り、罪に問われることもありません」チッ
「そうか。わかった。内調か……なるほど。本機への危害を自信アリげに否定してくれたのは頼もしいよ。ただ、その根拠は全く見えないのだが、その様子だと何か秘策があるということだな?」チッ
「……あ……ぅ……」チッ
パイロットに問われ、何かを言いかけるジンだったが、不明事項が多いことと、そんな状況で、事前説明もなしにソフィアや魔力云々の会話など切り出せるはずもなく、ほぼ無言、迷いのままインターフォンを切るジン。
「あー、おそらく言えないことなんだな。秘めたままでいいが、話せることなら教えてくれると助かるよ。ただ、今は状況がどう転ぶかも視えてこないから、混乱を避ける意味でも今は秘めたままで大丈夫だ。それと、今のこれは反転に近い転針だから、敵機にとっては距離を詰める機会を与えることになる。大きめの弧、かなり大きめの旋回半径で進路をゆっくり、徐々に少しずつ富士演習場に向けていくがそれでいいな?」チッ
「なるほど……それは名案。はい。それでOKです。できるだけ|オーバーシュート《無駄に膨らんだ経路取り》気味に転針させられると助かります」チッ
「わかった。無防備の本機だが、よろしく頼むぞ!」チッ
「はい。大丈夫です。よろしくお願いします」チッ
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再びイルとマコトの会話に戻る。
『え? 珍しいね。いつも何でも見抜いちゃう理解力だから、こんなイルの表情あまり見ないもんね』
『うん……え? あ、いやそんなことはないよ……えっと……入学式でマコちゃん、繋がりが大事、みたいなこと言ってたでしょ?』
『あー、言ったねー。頭に浮かんだままベラベラ喋っちゃったからなぁ。もう恥ずかしいなぁ、うぅぅー、イルもそこほじくるの?』
『あ、いや、そんなつもりはないけど……えっとね……確か……知らないから争いが起こるって……イルは惚れ惚れしながら聞いてたけど……』
『あー、うん。あははは。そんなにだった?』
『うん。すっごく……でもそれって、今のこの状況……争いを起こしてくる敵かもしれない状況だけど、マコちゃんなら、どうするのかなぁって……』
『あー……ね? どうしようかなぁ。どうにかできそうならしたいけど、そんな暇もあるかもわかんないし……攻めてくるなら守りのためには戦うしかないよね? こっちが傷付けられたり、奪われたりは阻止しないとね。こっちから仕掛けることはまずないと思うけど……でもそれがどうしたの?』




