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Jet Black Witches  作者: AZO
4−3.萠動編 − 暗躍のうねり
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レイラとカイ 〜 暗躍のうねりⅳ

 まだ特定には至らないものの、今ソフィアたちが感じ取る、おそらくV国のものと思われる怪しい動向を前に、これ以降、呼応してくる相手を見定め、場合によっては何かしらの手を尽くす必要性と、小学校の存在そのものから引き離したい意図を孕みつつ、ジンたちを乗せたヘリは離陸する。


 ただ、それ以前に、その動向を探るV国の意志は、日本に降り立ったときにソフィアを攫おうとしたことで明白なものだった。


 それは魔女としてソフィアを認識したV国の諜報機関が、軍事利用のために拉致しようと画策していた7年前のとある事件のころの動向に端を発している。


 このときも日本への留学のため国際便に搭乗する、当寺16歳のソフィアにV国諜報員が張り付く状況にあった。ただ、その事件自体、V国との関わりは全くない。


 その事件とは、国賓級VIP一行の集団を狙う国際テロリストにより、ロケットランチャーで撃墜された、地中海での民間航空機撃墜事件だ。


 しかして、唯一の行方不明者であるソフィアが不思議な力を振るって乗客全員を救ったという、乗客証言から組み上げられたまことしやかな噂が情報筋の間で流れる。


 そしてそれは、本人不在という真相の語り部なき状況により、独りでに拍車が掛かり、よりいっそう信憑性が高まるばかりで、果ては女神説まで囁かれることとなる。


 実際、撃墜の直接被害者を除けば全員生還したという揺るぎない事実がある。


 そして、直接見てはいないはずの乗客のほぼ全員が、肌で感じる不思議な力のその元と、感謝の念の矛先として思い描く印象が、ソフィアの面影に自然と重なることで生まれる信仰心の如き感情。


 このときソフィアはまだ少女ではある。しかし、誰彼無くすべてを掬い上げる、慈愛に満ちた聖母のような存在を皆が思い浮かべるのも、また自然の成り行きと言えるのかもしれない。


 さらにはメディアを通してお茶の間に公開された見目麗しきその姿が、情報伝達の速度をいっそう加速し、一夜にして世界中の耳目を掻っ攫う。


 世界中の誰もがその生存を願うフィーバーのごとき情報争乱が巻き起こる。幸か不幸か、そんなどさくさで世論を敵に回したくないV国のその後の接触行動は途絶えることとなる。


 そうして、時間はゆっくりと流れていくと、人の興味もしだいに移ろっていく。


 ソフィアは、その生存すら不明のまま、いつしか記憶の彼方に押し流され、数年後には誰の口からも発せられることはなくなる。


 しかし今、約7年の時を経て、思いがけず浮上することとなったソフィアの存在に、困窮する国内事情を抱えるV国の現状打開への大きな一助と成りうる可能性として、V国諜報機関が色めき立つこととなる。


 何としてもソフィアを獲得したいV国は、空港での拉致に失敗した以上、なりふり構わない。一刻も早くその所在を突き止め、連れ去りたい意向のようだ。


 もちろん、世界中のバッシングが浴びせられる現状のV国で、しかも相手は見目麗しい一国の王女なればこそ、今このとき、世間を騒がすほどの大きな騒動は好まない。大胆不敵でも、あくまで隠密行動に徹する。


 しかも、ソフィアの存在は日本のニュースでも全く流れてこないことからその存在を秘匿しているであろうことは明白であり、警護はもちろん、マスコミも全くノーマークである今のソフィアの状況は攫うにも好都合の状況であったわけだ。


 人目を避けた作戦を決行するために、オーラの波動を検知する独自開発のレーダーシステムで張り、兆候を捉えたら即座にヘリで急行して、その所在を明らかにするか、現地の状況が許すなら、ヘリのタッチアンドゴーで直接ピックアップして攫うというもののようだ。


 そして今、対象を検知し現地急行するためのV国軍用ヘリが沿岸沖に停泊する船舶から発進する。


 『おい。反応示したのは間違いないんだな?』チッ


 『はっ、まだターゲットと特定するには情報が不足していますが、今確かにこのエリアに何かがいるのは間違いないと思います。このまま上空に安定遷移できれば、もう少し詳しい情報が得られるかと』チッ


 問われたのはヘリに同乗するオーラ検知機構のエンジニアだ。V国の戦闘チームを率いる実行部隊の長はそのオーラ探索機構をあまり信用していないため、訝しげにその反応を問いただした状況だ。


 この部隊長とは、サイキック戦士でありながら体術を駆使する武闘派で、自身の強さだけでなく、冷酷無比な言とともに多くの部隊を統率し、幾多の戦線における勝利を積み上げてきた、その実力を買われて部隊の長まで昇りつめた女だ。気功を練り体術として力を発揮するスタイルで、あくまで武術の修行を重ねたことで開眼した特殊能力と認識しているため、オーラがどうの、といった概念には理解が伴わないのか、胡散臭さだけが先に立つようだ。


 また、超能力開発研究所の作戦運用本部長に抱く反発感も、オーラ探索機構への猜疑心をわずかに増長するようだ。


「フンッ、ならいいが、せいぜい成果を出してみせるんだな」チッ


「は、はい……あ、機長! 予定高度通過確認」チッ


 エンジニアは、部隊長に返事を返すと、既に離陸し上昇中にあることから、そのまま続けてレーダー機器運用手順に従い機長とのやりとりを開始する。


「了解、予定高度通過確認した……レーダーポッド展開OK」チッ


「了解です。レーダーポッドを下方展開します」チッ


 チチッ!

 チチッ


 通話のやりとりの簡素化のため、了承の意の場合に、無声でマイクのスイッチを素早く2回押すことがある。この場合は、レーダーポッドを展開しても良いという意味だ。


 この了承の意を受け、同じく了解で返し、予定調和の笑みを携えながら、エンジニアはそそくさと展開に取り掛かる。


 とある仕組みでオーラを検知するこのレーダーは、とかくデリケートな機構だった。


 今飛行しているヘリの搭乗員までキャッチしてしまうこと、特にサイキック戦士たち3名が搭乗しているからなおさらだ。


 さらには高速回転するローターの影響も受けてしまうという仕様のようだ。


 この問題解消のために、レーダー装置は可動式ポッドに組み込む方式だ。


 ヘリの腹下に抱える形で、稼働させる段階で下方に延伸展開させるというものらしい。


 下方展開したポッド位置であれば、ポッド内部の上部方向一面に張られたシールドにより、ローターを含むヘリ全体を覆域として保護することとなる。これにより、ヘリ自体はもちろん、乗員のオーラがレーダーに干渉することがないように設計されているようだ。


 「レーダーポッド、下方展開完了。サーチモードに入ります……お! 早速検知したようです。海上の段階では弱々しく存在することのみキャッチしていましたが、今はたまたまなのか、ターゲットは空中にあるようです。北西の方向、約17NM(マイル)。おそらく南方向へ移動中ですね。ヘリでしょうか? 他にないか、一応周囲もサーチしてみます」チッ


 「了解。FCSのレーダーで該当機影はキャッチした。その周囲には他に機影は見当たらないからおそらく捕捉完了だが、まだ特定できたかは不明そうだな。視認するにもまだ遠いようだ。そっちでもモニターを引き続き行ってくれ。やや蛇行しながらその方面に進もうと思うが、部隊長もそれでよいか?」チッ


 部隊長の女も、意向を問われれば返さなければならない。オーラを検知するらしいレーダーの真価はまだ子細不明のままだが、それが装置であるなら、何かしらの結果を返すのだろうと、エンジニアと、ヘリの腹に抱えるレーダーポッドの方向をそれぞれ訝しげに一瞥し、返答する。


 「わかった。早速怪しいのがいるわけだ。空中にいるのなら好都合だな。そのレーダーとやらがどれほど信頼できるかはわからんが、他に情報がない以上、進むしかないか。エンジニアのお前! 近付けばもっと情報がわかるんだな?」チッ


 「はい。そうですね。ターゲットはもちろんですが、同乗する搭乗員の状況も掴めると思います」チッ


 「そうか……じゃあ、機長殿、向かってくれ。方向と距離だけ報告をくれ」チッ


 「了解した」チッ


 部隊長の一連のやり取りを見届けた部下の男が、不意に馴れ馴れしく話しかける。


 「レイラさんはあいかわらずオーラが胡散臭いようっすね」チッ


 男が不用意かつ唐突に明かした名はレイラ。インターフォンを介して部隊長の女の名を知ることになった面々は、一様に一瞬目を見開く。


 それもそのはず。レイラは気性が荒くハスキーな低い声とその武骨な振る舞いから、強面(こわもて)な印象を(いだ)かれやすいが、顔立ちは実はかなり整っている。もしも口を開かず微笑んだなら、おそらく初対面の男の何割かの瞳は暫く瞬きを忘れてしまうだろう。


 しかし激しさを帯びた口調で相手を罵倒し任務(ミッション)をこなす場面を供にすれば、誰もが恐れ、女であることが忘れ去られるほどの苛烈な印象を刻み込むようだ。


 そんなところへふと差し込まれた女性名、レイラが、反射的に見目麗しき女性像を脳内に急速に(かたど)り、ほわっとしたときめきの感情が仄かに芽生えるわけだ。


 レイラほどの立ち位置になると名前呼びする者はまずいない。部隊長という役職もあるが、同じ部隊に所属しない限り知り得ない情報でもあるからだ。それ故に、周囲のほとんどは初めて知り、だからこそ驚きも芽生えることとなる。


 それぞれ、次の一瞬には目前の任務をこなすために頭は切り替わるが、それぞれが女としてのレイラを心に留めることとなる。


 そして、そんな迂闊な部下の男は、名をカイという。


 同郷ではないが、超能力研究のために、レイラと近しい種族から攫われ、頭角を現し始めたところをレイラに拾い上げられる。レイラとは異なり体術は得意ではないが、ヴィルジールのような、何かしらのエネルギー放出系の異能者のようで、その放出を制御するオーラを認識できるらしい。


 レイラは、辺りに芽生えた変な空気を感じ、やや照れを潜めながら目をキョロキョロ見回す。名前を漏らしたカイを向き、睨みつけながら、低め、威圧のあることばを放つ。


 「チッ。おい。名前で呼ぶなと言っておいたはずだが? 呼ぶなら役職かTACネームだ」チッ

 「あっ! ほーい。じゃあ、TACネームのレイさんで。ってあんまり変わらないじゃないですか」チッ


 そういえば、とレイラは一瞬、目を斜め下に逸らす。レイラの凄みのある声に全く怯まないこの男、カイはTACネームの(くだり)を聞きながら、名前との違いがほとんどないことを突っ込んだ形だ。


 一考した後、レイラはきっぱり否定で返し、淡々と説明を始める。


 「違うぞ。オレはたまたま名前の一部が適していたから採用したが、一瞬で呼べて、間違いにくい必要がある。生死を分けるからな。それと性を意識させない名称じゃないとダメだ。お前ら男どもは女名が耳に入ると一瞬だが邪念が入り気が緩む。敵を惑わす意味では効果あるかもだが、オレは自身の名前が知られるのは避けたい。それにTACネームなら呼び捨てだ」チッ


 突き放す口調が基本のレイラだが、語気は強めでもしっかりと答える。歩み寄る者への面倒見はいいようだ。


 カイはレイラの瞳を通して、その先にレイラの言葉が示す情景を思い浮かべる。それぞれ納得できるものと、ほうほうと頷き、ほくそ笑みながら目を閉じて俯く。と、不意に頭を起こしながら、意気揚々と早速呼び捨て返信を試みた。


 「了解、レ、レイ? うゎ、なんか恥ずかしいっすね、コレ」チッ


 呼び捨てというよりは、末尾で呼びきる、その語感に照れを感じたカイ。納得したはずの会話術だったが、ふと生まれた羞恥感情からの失敗感に付け足さずにはいられなかったようだ。


 そんなカイの様子にレイラは言い改める。


 「あー、違うな。語呂が悪いから、妙な感覚も芽生えるんだろう。相手、自分、用件。この順番だ。この場合なら、レイ、カイ、了解、だ。簡潔にな。ほら、言ってみろ!」チッ

 「はい……レイ、カイ、了解……おぉぉ、言いやすいっすね、コレ。照れる要素がない」チッ

 「だろ?」チッ


 部下教育の一環にあたるが、自身の意図が上手く伝わったことにレイラは満足げの笑みを返す。


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