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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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孤児院を08

 孤児院以前のところで、この国の義務教育に問題を見つけ、華はいきなり頭を抱えることになった。


 教育はなくとも、人は生きていける。だが、教育がなければ、人はどうなるのだろう?


 実際問題として、読み書きができなければ生活の場で困る。他ならぬ自分自身ががそうだった。店に行っても、値札も読めない。契約書を見ても、内容がわからない。計算ができなければ、比較は難しくなるし、相手に釣銭をごまかされても確かめることもできない。公正さを保つことも難しくなる。


 華は考えた。本とノート、どちらの値段が高いかといえば、それは本に決まっている。しかし、ノートは消耗品だ。だったらやはり、教科書か…。


 全員に同じ教科書を配ることができれば、かなり違った展開になるだろう。しっかりとした教科書が手元にあれば、たとえ貧しくともやる気さえあれば、何度も繰り返し熟読できる。


 しかし、値段の高い本を全員に配布するとなると、かなりの金額が必要だ。華は違う世界で義務教育を受け、毎年真新しい教科書を当り前のように受け取って来たが、そのこと自体が先人の努力による結果なのだと、今さらながら思う。


 だとしたら、貸し出しはどうだろう?教科書は学校の備品として扱い、記名して一時的に生徒に管理させるのだ。そして、学年末に点検し、不備があった場合は弁償させるなどの罰則をもうけ、大切に扱わせるようにする。そして、次の子供に受け継がれるようにすればいい。記名覧を見れば、誰が使っていた教科書かわかるし、物を大切にする習慣も生まれそうだ。


 そんな風に教科書をレンタル制にしてしまえば、毎年教科書をそろえるお金を節約できる上に、大きな効果も見込める。教科書があれば、子供達は効率よくポイントを押さえたノートの取り方に自然となっていく。そうなればノート代を節約できるし、学習の反復にも役立つ。


 だが、このやり方を全国の学校に取り入れるにしても、初期投資が必要だ。これによって特に効果が期待できるのは、貧しい子供の学力アップだ。そういった予算を認めさせるのが難しいということは、孤児院を作る時の役場の職員とのやりとりでも明らかだ。


 学校は教会の管轄下にあり、ある程度は今の華でも影響を及ぼすことができる。だが、ドラクール領と王都ならともかく、全国となるとどうだろう?


 やはり、ここは説得のためにもモデルケースが必要だろう。それも、皆の目を開かせるような、華々しい成果をもたらすような。そのためにも、この孤児院には力をいれないといけない。


 華は、オルガとナダルに頼んで、簡単なプリント作りからはじめることにした。新しく手本となるものが、必要だ。教科書らしきものが、先生の持つ教本しかないのなら、その教本をそのまま子供に用意しても、読み書きがはじめての子供には難しくて読めず、役に立たない。


 しかし、逆に言えば、この孤児院の子供が理解できるプリントを作ってしまえば、それはそのまま教科書になる。


 幸いなことに、華はジャスパー達に読み書きを習い、今では初等教育程度の文章を理解できるようになっていた。他ならぬ華自身が、つい先日、やっていたことばかりだ。その時、どうやって文字を覚えたかが役に立つ。


 早速、小さな印刷機を取り寄せた。今の華には簡単に買えてしまえたが、印刷機はかなり高価だった。なにしろこの一台で、高等教育を受けた人の年収一年分くらいだ。簡単に個人が買えるものではない。


 とはいえ、お金の力だ。ぴかぴかの印刷機を孤児院の一室にすえ、三人で打ち合わせをし、最初のプリントができあがった。小学校の一年生が、最初に習いそうな国語と算数だ。


 華はそのプリントを重ね、紐で綴じ、国語と算数の二冊にした。国語は文字と単語、算数は数の数え方、簡単な足し算、引き算。このままプリントを順次ふやしていけば、それがそのまま教科書になる。


 そして、かかった費用をざっと計算した。紙とインク代、それから人件費。印刷機もいれれば、このプリント冊子を作るのに費やした費用は馬鹿にならない。


 だが、これは最初の一歩、最初の一冊にすぎない。最初に土台になる原稿を作ってしまえば、これは財産になる。原稿さえあれば、次は印刷するだけですむ。


 華はプリント冊子を人数分用意させ、子供達を孤児院に迎え入れた。


 


 



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