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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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孤児院を07

 孤児のうち、何人が新しい孤児院へ行くことを希望してくれるか、華にはわからなかった。元の場所にもどりたい、と希望する者もいれば、勉強などやりたくない、と嫌がる者もいるかと思ったからだ。


 しかし、結果から言うと、その場にいた全員は、ごねることなどなかった。華にやたら質問を繰り返していた少年もだ。さすがに彼も、元の貧民街に帰る気にはならなかったようだ。


 ドーム一号での一定期間の拘束は、彼等に飢えることのない、清潔で穏やかな落ちついた生活を与えた。そのことが彼等に影響を与えたのかもしれない。シンロクの教育も大きかったのだろう。子供達は、自分達がどのような状態に置かれ、どんな扱いをされていたのか、客観的に説明を受けていた。


 その場にいた全員が、新しい孤児院へ行くことを希望した。華の言っていることがよくわからないまでも、なんとなく熱意が伝わったのか、それとも名前がチャペルになるのがいやだったのか、そのへんはよくわからないものの、ドームでの生活が彼等に何かを考えさせる時間をくれたことは確かだ。


 華は早速、孤児院を整えることにした。人数は確定しているし、居間の所他に子供が入る予定はない。とりあえず部屋の大きさにあわせて、二人から何人の相部屋とし、ベッドを用意した。勉強は、別の部屋でしてもらう。建物は、居間にそれなりの広さがあったので、そこに机と椅子を並べることにした。


 世話人は、イスハークが推薦してくれたナダルという男性だ。彼から説明を受けた通り、元冒険者は片足を少しひきずるようにして歩き、目にアイパッチをしていた。がっしりとした身体つきをしており、強面もあって、ぱっと見、海賊のようで威圧感がある。


 華の頭にある孤児院のイメージには、優しいシスターが子供達を見守り、世話する絵があったが、そんなものが絵空事にすぎないことはよくわかっていた。この孤児院に必要なのは、優しく見守ってくれるだけの人ではなく、強い力で子供達を守り、導いてくれる人だ。そういう意味では、ナダルは合格だった。


 問題は、勉強面をどうするかだ。華はまず、読み書き計算に重点を置いていた。何をするにしても、それが一番、基本になるからだ。


 しかし、子供達は貧民街出身の者が多く、ろくに教育など受けたことのない者ばかりだ。このまま学校に連れていっても、即落ちこぼれることはわかりきっている。村の子供達は、これまで金まわりがよかったこともあって、上の学校を目指す者も多い。このままでは馬鹿にされるか差別されかねない。


 ろくに自分の名前も書けない連中を、ナダル一人の肩に背負わせるのは荷が重い。子供達とて希望に胸ふくらませて学校に行ったものの、そんな状態ではやる気を失いかねない。


 そこでしばらくの間、先生役を派遣し、一番基本になる初歩的な読み書き計算をマスターさせることにした。先生役を誰にするか相談したところ、冒険者のマリアが伯母に頼んでくれた。その人は昔、先生をしていたそうだ。結婚して家に入ったものの子供に恵まれないまま、夫を失ってしまったらしい。


 マリアの紹介ということで、どんな人がくるのかと華は少し心配していた。それでなくともマリアのイメージは、筋肉質で肌の露出の多い人だ。彼女の伯母だという人もそうなのかな、と思っていた。


 しかし、オルガという女性のイメージは、姪とは違った。そのあたりはマリアの母親世代らしく、普通だった。身体もふくよかで、包容力もある。どうもマリアのあの格好は、彼女なりに動きやすさを追求した結果であるようだ。


 華は、オルガとナダルに自分の考えていることを説明した。まずは文字を覚えさせることからだ。文字を覚えたら、簡単な言葉が読めるようにし、音読をする。数字を覚えさせ、簡単な計算ができるようにする。第一段階としては、そのあたりだろう。


 そこで華は、印刷機を取り寄せ、プリントを作って利用してほしい、と言った。計算ドリル、漢字ドリルのイメージだ。


 ところがそのことが、とても驚かれた。わざわざ問題を印刷してプリントを使うということに、彼等は驚いたのだ。紙をふんだんに使うということがそもそもなく、初等教育、中等教育において、教科書的なものは無いのだそうだ。


 この説明に、華のほうがびっくりだ。先生は、教本と呼ばれるものを持っている。教本は、どの学校も共通のもので、生徒は教室で先生が読みあげる教本の内容をもとに、勉強するのだそうだ。


 その際は、華も使ったことのある薄い板のような黒板ノートを使う。最初の初等教育では、その黒板ノートが一冊、生徒に貸し出される。子供達は、その一冊で読み書きを覚えることになる。


 最初はそれでよくても、だんだん、覚えることが多くなる。すると、お金に余裕のある子供は別にノートを買い、使い始める。ここにまず、貧富の差が現れはじめる。貧しい子供は、学用品をそろえるのも難しい。学年があがるごとに教科内容は難しくなるし、メモを取る必要があるものも増えていく。


 義務教育期間中、学校は午前中で終わる。子供達は午後、家の仕事を手伝ったり、アルバイトに出かける。


 バイトをするのだから、額は少なくともノートくらい買えそうなものだ。しかし、そう簡単にはいかない。子供の稼いだお金が、子供自身の手に渡されないこともあるからだ。それらは親の借金の返済にあてられたり、生活費にされてしまう。


 そうなると、同じ授業を受けていても、ノートをたくさんとれないものがでてくる。酷い場合はノート無しの者もいる。すると、学習を反復することが難しくなっていく。


 もともとこの国は、魔力量偏重の国だ。魔力の多寡により、収入が左右される。貧しい者にも義務教育を与えも、全てを黒板ノート一冊ですますことなどできない。


 華は、二人から公教育の実情を聞き、うーん、とうなってしまった。


 



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