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扉の向こうは異世界でした〜平日は会社員、土日祝は異世界で冒険者(三年限定)〜  作者: みのり


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選択の猶予

「監視者?」


 思わず聞き返すと、バレンは腕を組んだまま頷いた。


「ああ。神々もな、休暇と称してこの世界に降りてくることがある」


「休暇……?」


 スケールが違いすぎる話に、思考が一瞬止まる。


「ただし、地上では神の力の使用は禁止されている。人として生活する分には問題ねえがな」


 なるほど、制限付きの現世干渉か。


 だがバレンは続ける。


「……とはいえ、ごく稀にその掟を破る神もいる。そういう連中を見張って、報告するのが俺たちの役目だ」


「報告先は……」


「創造神様だ。方法は教えられねえがな」


 まあ、そこは当然か。


 神の監視役。聞くだけなら単純だが、関わりたくはない仕事だというのが率直な感想だ。


「加護を与えた神々は、基本的に地上には降りてこない。降りてくるのは、掟を破った神に罰を与える時だけだ」


 なるほど、秩序は保たれているらしい。


 そして――話は祖父へと移る。


「大賢者は、世界を越えるものを作った」


 バレンの言葉に、俺は息を呑む。


「神でもなければ、加護持ちでもない。ただの人間だ。だが魔法の腕は、当時も今も、あいつを超える者はいねえだろうな」


 少しだけ誇らしい気持ちになる。


 同時に、その先の言葉に備える。


「だが、そんなものを見過ごすわけにもいかねえ。俺たちは創造神様に報告した」


 当然の流れだ。


「創造神様は、無数にある世界のバランスが崩れる可能性を考えた。そして――大賢者を、魔法の存在しない世界へと送った。二度と戻れないようにな」


 ……やっぱり、そうなるか。


「ただし、完全に切り捨てたわけじゃねえ。荷物の整理や別れの時間は与えられた。その間に、あいつはこのログハウスや本に細工を施したんだろうな」


 バレンの視線が、室内を一巡する。


「で、お前はその扉を見つけて開けちまった、ってわけだ」


「……そうなりますね」


 俺は小さく息を吐いた。


 ここまで聞けば、状況は理解できる。


 そして同時に――


「契約、しない方が良さそうですね」


 俺は苦笑する。


「その大賢者と呼ばれた人……俺の祖父です」


 彼らに会うまでの経緯を、簡潔に説明した。


 静かに聞いていたバレンが、最後に頷く。


「なるほどな。とりあえず創造神様に報告する。お前の処遇は、それ次第だ」


 ナターシャが立ち上がり、扉に手をかける。


 その瞬間――


 外から、圧倒的な“気配”が流れ込んできた。


「……っ!」


 本能が警鐘を鳴らす。


「ナターシャさん、外に出ない方がいい。敵意はない……けど、普通じゃない」


 俺の言葉とほぼ同時に、扉が開いた。


 入ってきたのは、一人の青年。


 だが――


(……違う)


 空気そのものが変わる。


 そして何より。


 『鉄の斧』の全員が、即座に膝をつき、最上位の礼を取った。


 それだけで分かる。


 この男は――


「何か異物が入り込んだと思い、この者たちを遣わせたが……なるほど」


 青年は、興味深そうに俺を見た。


「あやつの孫か」


 その視線だけで、身体が軋む。


「その扉……一度だけ繋がる仕掛けか。しかも神である私ですら気づかぬ細工とはな。面白い」


 ――確信する。


「……あなたが、創造神ですか」


 声を出すだけで、意識が揺れる。


 圧が強すぎる。


「発言を許した覚えはないが……」


 青年――創造神は、わずかに目を細めた。


「この神圧の中で意識を保つとは。人としては見どころがあるな。流石、大賢者の血と言うべきか」


 そう言って、ふっと力を抜く。


 空気が軽くなった。


 だが、油断できる相手ではない。


「話は聞かせてもらった」


 創造神は淡々と続ける。


「まず結論から言おう。そなたの処遇だが――時間をやる」


「時間……ですか」


「ああ。大賢者にも同じように猶予を与えた。どちらの世界で生きるかをな」


 祖父の顔が脳裏に浮かぶ。


「やつは、向こうの世界で愛する者と出会った。それが理由で、あちらを選んだ」


 ……祖母だろう。


 あの人のことを、祖父は最期まで大切にしていた。


「二度と戻れぬと知りながら、か」


「そうだ」


 静かな肯定。


 俺は一度、深く息を吸った。


「……もし、俺がこちらで生きることを選んだ場合」


 視線をまっすぐ向ける。


「祖父が残したもの――この家も含めて、取り上げないと約束してもらえますか」


 わずかな沈黙。


「よかろう」


 あっさりとした承諾。


「ただし、条件がある。向こうの世界を選んだ場合、あやつが残したものは全て抹消する」


「……構いません」


 それで筋は通る。


「期限は三年。その間は扉の使用を認めよう。自由に行き来できる」


 三年。


 長いようで、短い。


「そして、こちらを選んだ場合――」


 創造神は、わずかに口角を上げた。


「この森の管理者となれ。未来永劫な」


「……管理者?」


「この森は、そなたの認識で言えばダンジョンだ。必ず管理者が一人必要だが、今は空席でな」


 数ヶ月前に問題を起こし、解任されたらしい。


 詳細は聞かない方がいい。


「管理者は、この世界が終わるその時まで生き続ける。問題を起こさぬ限りな」


 ……重い。


 想像以上に重い条件だ。


「管理者になった場合、森の外には出られますか?」


「自由だ。制限は設けん」


 それなら――選択肢としては成立する。


「分かりました。三年、考えさせてください」


 そう答えると、創造神は満足げに頷いた。


「よかろう」


 そして、続ける。


「正式な住人ではない以上、監視は必要だ。こやつらをそのまま付ける」


 『鉄の斧』に視線が向く。


「拠点の街を離れる際は必ず報告しろ。怠れば、こちらに住む意思なしと判断する」


「了解しました」


 短く答える。


 それを聞いた瞬間――


 創造神の姿は、音もなく消えた。


 静寂が戻る。


 だが、さっきまでとはまるで違う。


(……三年、か)

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