彼らは何者?
軽く自己紹介を終えたあと、彼らはそのまま狼の解体に取り掛かると言った。
「よければ……解体、教えてもらってもいいですか?」
俺がそう頼むと、リーダーのバレンは少し驚いたように目を細め、それからすぐに頷いた。
「おう、いいぞ。見て覚えろ。最初は誰でも分からねえもんだ」
思っていたよりもずっと気さくな人だ。
解体しながら、色々と教えてくれた。
この狼はフォレストウルフ。どの森にも生息している一般的な魔物らしい。素材として価値があるのは毛皮と魔石くらいで、肉は食べられなくはないが美味くないため、よほどのことがない限り食用にはしないらしい。
「食い物が尽きた時くらいだな。わざわざ食うもんじゃねえ」
そんなものか。
一方、さっき倒した鶏に似た魔物――コカトリスはこの辺りにしかいないらしい。
羽は貴族の婦人が持つ扇に使われる高級品で、あまり市場には出回らないとのことだ。
肉については、貴族は基本的に食べない。平民の食べ物扱いらしい。しかもパサつきが強く、不作や戦時中くらいしか食べられないとか。
……鶏だよな、見た目。
下処理をしっかりすれば、そこまで悪くはなさそうだが。
(まあいい。売れるなら売るか)
そう割り切ることにした。
解体が進み、売れる素材は魔法使いのミーナがマジックアイテムに収納していく。
俺も同じことはできるが――初対面でそこまで見せる必要はないと判断し、コカトリスの素材も一緒に預けた。
解体を終えると、バレンが周囲を見渡した。
「ここは血の匂いが残る。他の魔物が寄ってくる前に移動するぞ」
俺たちはそのまま森の入り口付近まで移動した。
「ここまで来れりゃ安全だ。魔物は森の外には基本出てこねえ」
「理由は……分かってるんですか?」
「分かってねえな。そういうもんだって認識だ」
森そのものが、何かの区切りになっているようにも思える。
(ダンジョンみたいな構造なのか……?)
そんなことを考えていると、バレンが改めて口を開いた。
「さて、自己紹介の続きだな。俺はバレン。『鉄の斧』のリーダーで武器は見ての通り斧だ」
見た目は無骨だが、世話好きな性格なのはさっきの解体でよく分かった。
「ハワード。剣だ。よろしく」
短い。
だが無愛想というより、単純に口数が少ないタイプだろう。整った顔立ちで、どこか近寄りがたい雰囲気がある。
「僕はルーカス。斥候で双剣使いだよ。よろしくねー」
柔らかい笑顔。年下っぽい雰囲気で、距離感が近い。
「私はナターシャ。弓がメインだけど、短剣も使うわ。ルーカスの姉よ」
なるほど、言われてみれば目元が似ている。落ち着いた物腰で、自然と頼りたくなる空気を持っている。
「ミーナ……魔法使い。よろしく……」
ローブのフードを深く被った少女。声は小さく、人見知りなのがすぐにわかる。
だが、解体の手際や魔法の扱いから、実力は間違いなく高い。
「助けていただきありがとうございます。俺はユキです」
挨拶を交わしながら、俺は内心で考えていた。
この移動中、彼らに鑑定を使わせてもらった。
その結果――全員が“創造神の加護”を持っていた。
さらにバレンには武神、ミーナには魔法神の加護。
(この世界で、加護持ちってどれくらいいるんだ……?)
祖父の話では、神々は禁忌に厳しい存在だ。
その加護を持つ彼らを、どこまで信用していいのか。
「で、お前。ユキだったな」
バレンが俺を見据える。
「あの場所で何してた? あそこは新人が来る場所じゃねえ。お前、そこまで強くは見えねえが」
核心を突く問い。
隠し通すのは無理だろう。
だが――そのまま話すわけにもいかない。
(……契約魔法、使うか)
祖父から受け継いだスキルの中に、強制力のある契約があったはずだ。
「その話をする前に、一つお願いがあります」
「なんだ?」
「森の中に、家一軒分くらいの広さの開けた場所はありますか? そこで話したいんです」
バレンは少しだけ考え、頷いた。
「……分かった。付いてこい。お前らは――」
「私たちも行くわ」
ナターシャが言葉を引き取る。
「今後関わるなら聞いておくべきでしょう。それに、何かあっても全滅はしない」
全員が同意した。
数分後、開けた場所に出る。
「ここだ。ミーナ、結界を――」
「いえ、それは大丈夫です」
俺は首から下げていた小さな立方体を見せた。
そして――念じる。
『ログハウス展開』
次の瞬間、目の前に家が現れた。
「……は?」
全員の動きが止まる。
当然だろう。
俺でも逆の立場なら驚く。
「どうぞ、中へ」
苦笑しながら促すと、彼らは警戒しつつも中へ入った。
「椅子が足りないので、適当に座ってください」
女性陣は椅子へ、他の者は床や壁に。
全員の視線が、俺に向く。
「まずはお詫びから」
俺は頭を下げた。
「あなた達のことを、勝手に鑑定しました」
空気がわずかに張り詰める。
「その上で確認させてください。あなた達が持っている“加護”とは、何ですか?」
沈黙。
「内容によっては、この場で契約魔法を使います。この家のこと、そしてこれから話す内容を、決して外に漏らさないという条件で」
空気が、凍りついた。
当然だ。
加護は基本、本人しか分からない。
それを他人が見抜いた。
「……気づいてはいたが、そこまで見えるか」
バレンが低く呟く。
「面倒な奴を助けちまったな」
「本当にね」
ナターシャが静かに言う。
「あなた……大賢者の血筋ね。あの扉は封じられたはずだけど」
その瞬間、何かに覗かれた感覚がした。
(……これが、鑑定される感覚か)
「あなた達は何者ですか?」
俺の問いに、バレンは一度だけ息を吐いた。
そして――
「俺たちは、この世界の“監視者”だ」
静かに、そう告げた。




