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扉の向こうは異世界でした〜平日は会社員、土日祝は異世界で冒険者(三年限定)〜  作者: みのり


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2/22

扉の先は知らない世界でした

 彼ら『鉄の斧』との出会いは、今でも忘れない。

 そしてきっと、これからも忘れることはないだろう。


 俺は祖父母が残してくれた家で、一人暮らしをしていた。


 両親は幼い頃に事故で亡くなり、祖父母も社会人になってすぐに逝った。兄弟もいない。恋人もいない。


 平日は会社と家の往復。

 休日は祖父母の遺品整理か、近場で一人キャンプ。


 そんな、どこにでもあるような生活だった。


 ――あの日までは。


 休日。祖父の遺品整理で物置部屋に入った俺は、見覚えのないものを見つけた。


 それは、俺の身長よりも大きな扉だった。


「……こんなの、あったか?」


 違和感を覚えながらも、何となくドアノブに手をかける。


 押すと――あっさり開いた。


「開いた? いや、開いても普通は壁だろ……」


 半信半疑で中を覗く。


 そこにあったのは、壁ではなく――ワンルームのログハウスだった。


「は? ここ、どこだよ……」


 意味が分からない。けど、危険な気配は感じない。


 ゆっくりと中に入ると、部屋の中央にあるテーブルの上に一通の手紙が置かれていた。


 見覚えのある字。


 祖父のものだ。


『この手紙を読んでいるということは、無事にここへ辿り着いたようだな』


 簡潔な書き出し。


 だが、続く内容はあまりにも現実離れしていた。


『そのログハウスはワシのものだ。そして今日から、お前のものだ』


 頭が追いつかないまま読み進める。


 テーブルの引き出しに鍵。裏口の小屋。生活に必要なもの。


 そして最後に――


『お前の今後に幸多き事を』


 それで終わっていた。


「……聞きたいこと、山ほどあるんだけどな」


 当然、答えてくれる相手はいない。


 俺はとりあえず、書かれていた通り裏口の小屋へ向かうことにした。


 小屋の中には、見たことのない文字で書かれた本が数冊と、大きめのリュックが一つ。


 リュックの中には保存食と水、そして小さな布袋。


 中には金貨が五枚、銀貨が十枚、銅貨が三十枚入っていた。


「……異世界の通貨、ってやつか?」


 相場は分からないが、少なくとも普通の状況ではないのは確かだ。


 本の表紙を見ても文字は読めない。英語でもない。


 適当に一冊を手に取り、ページを開いた――その瞬間だった。


 本が光り出す。


「なっ――」


 眩い光の中で、本は消え――


 代わりに、目の前に一人の老人が現れた。


「じい……ちゃん?」


『久しぶりだな、裕季ゆき


 間違いない。祖父だ。


 だが、どこか実体が薄い。


「いきなりすぎるだろ……ここ、どこなんだよ。それにあの扉は何だ?」


『ここはワシが生まれ育った世界だ。ワシはこの世界で“大賢者”と呼ばれておった』


 祖父は静かに語る。


 世界を渡る扉を造ったこと。それが禁忌だったこと。

 その罰として、もう二度とこの世界に戻れなくなったこと。


「……じゃあ俺は?」


『お前は戻れん』


 あっさりと告げられた言葉。


 思考が一瞬止まる。


「……戻れない?」


『ああ。だからこそ、お前にここにある全てを譲る』


 祖父はそう言って、俺の額に手を当てた。


 その瞬間――


「――っ!?」


 頭の中に、膨大な情報が流れ込んでくる。


 記憶。知識。魔法。技術。


 脳が焼き切れるような痛み。


 立っていられず、その場に膝をつく。


 どれくらい耐えただろうか。


 気がつけば、痛みは引いていた。


 祖父の手が、ゆっくりと離れる。


『終わりだ』


 その姿は、どこか寂しそうだった。


『こちらでの生活は大変だろうが……頑張れ、裕季』


「……じいちゃん」


『これで本当に別れだ。お前の人生に、幸多き事を』


 そう言い残し、祖父の姿は消えた。


 静寂が残る。


「……聞きたいこと、まだあったんだけどな」


 試すように扉を開こうとする。


 だが――もう開かなかった。


「……マジで戻れないのかよ」


 軽い気持ちで開けた扉の先で、人生が変わった。


 いや、終わったのかもしれない。


 けど――


「……立ち止まってても仕方ないか」


 食料は数日分しかない。


 祖父の残した地図によれば、南に街がある。


 行くしかない。


 その日は味のしない保存食を水で流し込み、ベッドで眠った。


 翌朝。


 荷物をまとめ、ログハウスを出る。


 外に出た瞬間、ログハウスは小さな立方体となって手元に収まった。


「……マジかよ」


 首から下げられるチェーン付き。


 どうやら『ログハウス展開』と念じれば元に戻るらしい。


「便利すぎるだろ……」


 魔法の使い方も、何となく理解できる。


 祖父の記憶の影響だろう。


 俺は南へ向かって歩き出した。


 数時間後。


 森の中で、鶏に似た魔物に襲われた。


 なんとか魔法で倒したものの――


「……解体とか分からん」


 とりあえずアイテムボックスに入れようとした、その時だった。


 風を切る音。


 何かが目の前を横切る。


 振り向くと、そこには狼の群れ。


 そして、一頭の頭には斧が突き刺さっていた。


「……え、これヤバくないか?」


 数が多い。


 魔法で対処できなくはないが、周囲に人がいる可能性がある。


 不用意に広範囲魔法は使えない。


「おい! こっちだ!」


 後ろから声が飛んだ。


 振り向くと、無骨な男が手を挙げている。


 ――あの斧の持ち主か。


 迷っている余裕はない。


 俺は一気に駆け出した。


「助かりました!」


「気にするな。怪我はねえな」


 その一言で、張り詰めていた緊張が少しだけ解ける。


 その間にも、周囲では別の冒険者たちが狼を次々と倒していく。


 剣士、短剣使い、弓使い、そして魔法使い。


 連携は見事で、無駄がない。


「俺は『鉄の斧』のリーダー、バレンだ」


 男はそう名乗った。


 続いて仲間たちも名乗る。


 ハワード、ルーカス、ナターシャ、ミーナ。


 ――これが、俺と『鉄の斧』との出会いだった。


 何の前触れもなく、別の世界に放り出され。


 帰れないかもしれない不安を抱えながら歩いていた俺が。



 この出会いがなければ――


 今の俺は、ここにはいなかったかもしれない。

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