表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
扉の向こうは異世界でした〜平日は会社員、土日祝は異世界で冒険者(三年限定)〜  作者: みのり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/23

プロローグ

 「こんにちは。依頼達成報告をいいですか?」


 冒険者ギルドの受付カウンターに声をかけると、顔なじみの受付嬢が柔らかく微笑んだ。


「おかえりなさい、ユキさん。薬草採取でしたね」


 俺はマジックバッグから束ねた薬草を取り出し、カウンターに並べていく。ヒール草十束、傷病草十束。それと、依頼には含まれていないが常時買取対象のヨモキ草も十束だ。


 受付嬢は手慣れた様子で一つひとつを鑑定していく。


「今回も品質は最高品ですね。依頼分が合わせて五千リラ、ヨモキ草が八百リラで、合計五千八百リラになります。品質がいいので少し上乗せされています。ギルドカードに振り込みますか?」


「二千リラは現金で。残りはカードにお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 受付嬢は奥へと下がり、会計担当と手続きを行う。待っている間、周囲を軽く見渡す。昼過ぎのギルドはそれなりに混んでいて、依頼帰りの冒険者や、これから依頼を受ける者たちで賑わっていた。


 しばらくして、受付嬢が戻ってくる。


「お待たせしました。こちら二千リラ、銀貨二枚です。残りはギルドカードに入っていますので、後ほどご確認ください」


「はい、ありがとうございます」


 銀貨を受け取りながら、俺は本題を切り出した。


「それと、明日から王都に行こうと思っているんですが、何か情報はありますか?」


 ラーズの街から王都までは、馬車でおよそ一週間。徒歩なら十日ほどかかる距離だ。冒険者は基本的に徒歩移動が多い。道中で魔物を討伐したり、採取をしながら進む方が効率がいいからだ。


「そうですね……今のところ特に大きな変化はありません。魔物の出没状況も平常通りですし、天候も安定しています」


「そうですか。では、王都までの配達依頼はありますか? 報告猶予が一ヶ月半くらいのもので」


「ユキさんは……マジックバックをお持ちでしたよね?」


「はい、中サイズを」


「でしたら、商業ギルド宛の荷物が三つと、冒険者ギルド宛の手紙が四通。それとドレン子爵家宛の手紙が一通あります」


 子爵家。


 その単語を聞いた瞬間、即座に選択肢から除外する。


 貴族関係は、とにかく面倒だ。下手に関われば、何が原因でトラブルになるかわからない。


 基本的に、貴族宛の荷物や手紙はギルド止まりにするのが通例だ。そこから先は、執事やメイド長が受け取りに来る。平民が直接屋敷に届けるなど、トラブルの種でしかない。


 俺もまだ、そんな面倒事に首を突っ込むつもりはない。


「荷物は全部受けます。手紙は冒険者ギルド宛のものだけで」


「かしこまりました。……やはり子爵家のものは受けませんか」


 受付嬢が苦笑する。


「直接はトラブルの元ですからね。『鉄の斧』の人たちにも、命が惜しいならやめておけって言われてますし」


 俺がそう言うと、受付嬢は小さく頷いた。


「賢明だと思います」


 手続きを終え、荷物と手紙を受け取る。


「では、いってらっしゃい。道中お気をつけて」


「はい」


 軽く手を振り、俺はギルドを後にした。


 街の門を抜け、西の森へと足を向ける。しばらく進んだ先にあるのが、俺の拠点――ログハウスだ。


 明日から王都へ向かうとはいえ、実際はそこまで大変でもない。


 日が暮れればテレポートでここに戻り、休息を取る。そして翌朝、日の出前に前日の地点へ戻ればいい。


 多少面倒ではあるが、この力を人に見られる方がよほど厄介だ。


「……朝が苦手なのは、どうにもならないけどな」


 小さくぼやきながら、ログハウスの扉を開ける。


 中に入り、簡単に荷物を整理したあと、机に向かう。紙とペンを取り出し、短い手紙を書き始めた。


 宛先は『鉄の斧』。


 この街に来てから何かと世話になっているAランクパーティだ。今回のことも、一応伝えておいた方がいいだろう。


 ――しばらく王都に行ってくる。


 簡潔にそう記し、最後に軽く挨拶を添える。


 書き終えた手紙を手に取り、呪文を唱える。


「――汝は鳥。我の思い描くもののもとまで飛び、その姿をもとに戻せ」


 言葉が終わると同時に、手紙は淡い光を帯び、次の瞬間にはスズメほどの大きさの鳥へと姿を変えた。


 小さく羽ばたいたそれは、迷いなく窓から飛び立っていく。


 『鉄の斧』が今どこにいるのかは知らないが、この魔法なら問題なく届くだろう。


「さて……準備はこんなもんか」


 椅子に背を預け、小さく息を吐く。


 王都行き。


 特別な理由があるわけじゃない。強いて言えば、もっと世界を見てみたいと思ったからだ。


 この三ヶ月で、俺の生活は大きく変わった。


 冒険者として依頼をこなし、魔物と戦い、素材を集める。そんな日々を繰り返しているうちに、気づけばこの世界に馴染んでいた。


 だからこそ――


「まだ」なのか、「もう」なのか。


 感じ方は人それぞれだろう。


 だが、俺にとっては確かに言える。


 あれから三ヶ月。


 そして今でも、あの日のことははっきりと覚えている。


 祖父の遺品整理の最中に見つけた、あの扉。


 何気なく開けたその先に広がっていた、まったく別の世界。


 あの一歩が、すべての始まりだった。


「……本当に、変わったよな」


 ぽつりと呟く。


 不自由はなかったはずの人生と、今こうして自由に世界を歩く日々。その両方を、俺は行き来できている。


 皮肉なものだが――悪くない。


 むしろ、楽しいとすら思える。


 立ち上がり、軽く体を伸ばす。


「明日から、王都か」


 まだ見ぬ場所。


 まだ知らない人々。


 そして、これから起こるであろう出来事。


 それらすべてに、ほんの少しの期待を抱きながら――


俺は静かに、夜の支度を始めた。

初めての投稿になりらのでゆるく見てください。

⭐︎やコメントしていただけると励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ