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扉の向こうは異世界でした〜平日は会社員、土日祝は異世界で冒険者(三年限定)〜  作者: みのり


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管理者の話、揺らぐ覚悟

 昨日、奏太と琴音に上司とのやりとりや、今抱えている悩みを聞いてもらったおかげで、少しだけ気持ちが軽くなった。結局どちらを選ぶかはまだ決められていないけれど、「悩めるうちに悩んで、期限までに区切りをつける」という方針だけは固まった。焦って決めるより、その方がきっと後悔は少ないだろう。


 そして翌日。

 ラスターネの街の近くにある森の主、ルシュファから「時間があるときに来い」と言われていたのを思い出した。琴音がララとナタリーに「今日は来られないかもしれない」と伝えてくれているらしいので、俺はそのままログハウスから転移魔法で森へ向かうことにした。


 前回と同じ場所に転移し、鈴を鳴らす。

 すると数秒もしないうちに、あの巨大な狼――フェンリルが姿を現した。


「あなたがルシュファ様と契約している神獣・フェンリルですか?」


『そうだ。私に乗れ。ルシュファのところまで連れて行ってやる』


 低く響く声に促され、恐る恐る背にまたがる。

 ……次の瞬間、景色が一気に流れた。


「はやっ……!」


 風を切るどころじゃない。視界が線になるレベルの速度で、あっという間に目的地へ到着してしまった。降りたときには、ちょっとしたジェットコースターの後みたいな感覚だった。


 そこにあったのは、見覚えのあるログハウス。

 そしてその周囲には、色とりどりの花が咲き乱れていた。前に来たときも思ったが、ここは本当に不思議な場所だ。森の中なのに、どこか現実離れしている。


 テラス席では、ルシュファが本を読んでいた。こちらに気づいたのか、顔を上げる。


「ああ、来たか。リラ、ご苦労だった。用があれば呼ぶから戻っていいぞ。ユキ、お前はこっちに来い」


 リラっていうのか、このフェンリル。

 気づけば隣にいたはずのリラは、もう森の奥へと消えていた。自由だな。


 俺は言われた通り、テラス席の対面に座る。


「わざわざ呼び出して悪いな。森の管理者は創造神の許可なく森を離れられないからな」


「そうなんですか?」


「お前はまだ正式な管理者ではないからな。来てもらうしかない」


 初耳だった。管理者って、思っていた以上に制約が多いらしい。


「さて、聞きたいことがあると言ったのは覚えているか?」


「はい。答えられる範囲であれば」


「それでいい。ではまず……あの森の前管理者、お前の祖父はどうした?」


 じいちゃんの話か。少しだけ懐かしい気持ちになる。


「祖父は……別の世界で祖母と結婚して、幸せに暮らしていたと思います。数ヶ月前に亡くなりました」


「そうか……管理者でなくなれば、普通の人間と同じ寿命になる。人の生は短いな」


 静かな声だったが、その言葉には長い時間を生きてきた重みがあった。


「でも、今は魂だけの存在として森にいますよ。祖母と一緒に」


「……ほう」


「もし許可が下りたら、会いに来てください。祖父とは、友人のような関係だったんですよね?」


「なぜそう思う?」


「なんとなく、ですけど」


 ルシュファは一瞬だけ目を細め、そして小さく頷いた。


「そうか。なら、許可が下り次第行くとしよう」


 ほんのわずかに見えたその笑みは、どこか嬉しそうだった。


 その後もいくつか質問に答え、やがて話題は俺自身のことへと移った。


「お前、あの森の管理者になるのか?」


「……まだ決めていません」


 正直に答える。


「この世界も嫌いじゃないです。でも、好きかと言われると……はっきりとは。それに、ずっと一緒にいたいと思える人ができて」


 ララの顔が浮かぶ。


「人ではなくなるなら、その人と深い関係になるべきじゃないんじゃないかって……思ってしまって」


 言葉にすると、少しだけ胸が痛んだ。


 ルシュファは腕を組み、少し考えるようにしてから口を開く。


「なるほど、思い人か。その相手は事情を知っているのか?」


「はい。創造神の許可もあって、話しています」


「なら問題ない」


「え?」


 思っていたよりもあっさりした答えだった。


「この世界には森の管理者が他に二人いる。そのうち一人は、思い人と共に数千年を過ごしている」


「そんなことが……」


「ああ。お前がこの世界を選べば、その思い人も同じ存在になる可能性が高い」


 思わず言葉を失う。


 そんな未来が、あるのか。


「お前の祖父は違った。友はいても、思い人はいなかった。だからこそ……世界を越える扉を作ったのだろう」


 じいちゃんにも、埋められない何かがあったのかもしれない。

 そう考えると、少しだけ胸が締め付けられた。


 それからも話は続き、気づけば日が傾き始めていた。


 夕日が差し込み、周囲の花々が柔らかな光に照らされる。昼間とはまた違う、幻想的な景色が広がっていた。


「……綺麗ですね」


 思わず呟く。


「ルシュファ様は花が好きなんですか?」


「別に好きというわけではない。この花は森の者たちが勝手に運んできて植えているだけだ」


 そう言いながらも、花を見るその表情はどこか優しい。


 ――いや、絶対好きだろ。


 心の中でツッコミを入れつつ、俺はその景色をもう一度見渡した。


 悩みはまだ消えていない。

 でも、少しだけ前に進めた気がする。


 そんな一日だった。

読んでいただきありがとうございます!

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