温かな時間、忍び寄る影
あと数分で日が完全に沈む――そんな時間帯に、俺はいつものログハウスへと戻ってきた。
夕日に照らされた花々は、昼間とはまた違った表情を見せている。柔らかな橙色の光を受けて、まるで一つ一つが淡く輝いているみたいだった。
なんとなく言葉を発する気にもなれず、しばらくその景色を眺める。
ルシュファと話したこと。
そして、この美しい光景。
それらが少しずつ心に染み込んでいくようで――気づけば、ほんの少しだけ前向きな気持ちになっていた。
(……こっちの世界を選ぶのも、悪くないかもしれないな)
そんなことを、ぼんやりと思う。
「ただいま」
ログハウスの扉を開けながら声をかけると、すぐに返事が返ってきた。
「おかえり」
じいちゃん達が、穏やかな笑顔で迎えてくれる。
――ああ、やっぱりいいな。
日本にいた頃も「ただいま」と口にすることはあった。でも、返事が返ってくることはなかった。分かっていても、なんとなく言ってしまう、そんな言葉だった。
けど、ここは違う。
当たり前のように「おかえり」が返ってくる。
それだけのことなのに、胸の奥がじんわり温かくなる。
「ルシュファの所に行ってきたんだろう? あそこは今も花でいっぱいだったか?」
じいちゃんが懐かしそうに尋ねてきた。
「うん。いろんな花が咲いてて、すごく綺麗だったよ」
「ほう、今でもあのままか。あいつは優しいからな。この森で生きるもの達が礼として花を運んでくるようになったと言っておったが……」
そこで一度言葉を区切り、じいちゃんは少しだけ笑う。
「わしは、ただ単に花が好きなだけだと思っておるがな」
「やっぱりそう思う?」
思わず笑ってしまう。
「花を見てるときの表情、すごく穏やかだったし」
「じゃろうな」
やっぱり似たようなことを感じていたらしい。
「それと、創造神の許可が下りたら、じいちゃんに会いに来るって言ってたよ」
「ほう……」
じいちゃんは腕を組み、少し考えるような素振りを見せる。
「管理者は簡単には森を離れられんからな。あやつがここに来るのはいつになるやら……」
そして、ふっと肩の力を抜いた。
「そのうち、わしから会いに行ってやるか」
確かに、その方が早そうだ。
そんな他愛もない会話を交わしながら、その日はゆっくりと休むことにした。
翌日。
いつもの時間に王城へ向かうと、入り口でララとナタリーが待っていた。
「昨日はごめん。来れなくて」
まずは素直に謝る。
「いいえ。ルシュファ様に呼ばれていたのですから」
ララは軽く首を横に振る。
「それに私たちは、皆さんに同行させていただいている立場です。優先すべきことがあるのなら、遠慮せずそちらを優先してください」
相変わらず、しっかりしてるな。
「ありがとう、ララ」
自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ行こうか。森への転移は許可をもらったから、とりあえずそこまで飛ぶよ」
いつもの場所から転移し、ラスターネ近くの森へ。そこからは徒歩で街へと向かう。
のんびり歩きながら進んでいくと、夕方にはラスターネの街に到着した。
門番に宿屋と鉱石の採取場所を聞いてみる。
宿屋はすぐに教えてもらえたが――鉱石の採取場所については、首を横に振られた。
「鉱石の採取は、国の許可が必要ですので」
どうやらこのアリーネ王国では、鉱石は重要な収入源らしい。好き勝手に採られてしまうと国の運営に影響が出るため、採取する人間や期間、場所は厳しく管理されているとのことだった。
「なるほど……」
そりゃ勝手には無理か。
「とりあえず、ギルドに聞いてみるか」
そう言って、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。
翌日。
ログハウスでしっかり休んだあと、改めてギルドを訪れる。
「アズリウム鉱石、ですか?」
受付嬢は少し驚いたような顔をした。
「採取されること自体が珍しい鉱石ですね。仮に採取されたとしても、大抵は王侯貴族へ売られるか、献上されます」
「やっぱりそうなりますよね……」
「はい。市場に出回ることはほとんどありません」
予想はしていたが、なかなか厳しい。
「ちなみに、勝手に採取したらどうなります?」
一応確認してみる。
「最悪の場合は死刑、軽くても犯罪奴隷ですね」
「……思ったより重い」
思わず苦笑いが出る。
この世界には奴隷制度が存在している。借金奴隷と犯罪奴隷。
借金奴隷はまだしも、犯罪奴隷はほぼ一生拘束されるようなものだ。
「この国では鉱山も国営ですからね。違反は厳しく取り締まられます」
なるほど、そりゃ無理だ。
「さすがに犯罪になるならやめておきます」
即決である。
「ちなみに、王侯貴族向けだとどれくらいの値段なんですか?」
「噂レベルですが……白銀貨数十枚ほどで取引されたことがあるとか」
「……はい?」
一瞬、思考が止まる。
白銀貨数十枚って……日本円にしたらとんでもない額だろ、それ。
「それは……無理ですね」
思わず笑ってしまった。
「俺たちには一生かかっても手が出ないやつだ」
「かもしれませんね」
受付嬢も苦笑する。
「まあ、偶然手に入ったらラッキーくらいに思っておきます。色々ありがとうございました」
礼を言って、ギルドを後にする。
「さて……どうする?」
外に出ながら二人に声をかける。
「とりあえず、フィリオに報告かな」
「そうですね」
ララも頷く。
まだ日は高い。今から戻れば、王城まで送ることもできるだろう。
「じゃあ一度森まで戻ろうか」
そう言って、俺たちは街を出て森へと向かって歩き出した。
――その時。
俺たちの会話を、どこかで聞いていた“何か”がいたことに、俺たちはまだ気づいていなかった。
読んでいただきありがとうございます!
こちらの作品、ここで一旦ストップいたします。
書いていて納得できる進み方になっていないためです。
最初から改稿という形で話の内容を変えるかもしれないです。
再開しましたらまた読んでいただけると嬉しいです(*^_^*)
面白いと思ったら⭐︎を押していただけたら投稿の励みになります☆彡




