同じ馬車、違う距離
ちょっとした……いや、まあそれなりのトラブルはあったけど、とりあえず片付いた。
「よし、じゃあ国境越えるか」
門番いなくなったけど大丈夫か?と一瞬思ったが――
「私がいますし問題ないでしょう。何かあれば王族の権力を使います」
にこやかな笑顔で、とんでもないことをさらっと言うララ。
……うん、頼もしい。頼もしいんだけど、その発言を軽く流せるようになってきた自分がちょっと怖い。
「じゃ、遠慮なく通らせてもらいますか」
そんなわけで、俺たちはほぼ素通り状態で国境を越えることに成功した。
すると、後ろから声がかかる。
「皆様、よろしければ馬車でご一緒にいかがでしょうか?」
振り返ると、先ほどのシュバルツ公爵家の執事さんだ。
「我々はアリーネ王国の王都まで向かいますので、途中までにはなりますが」
馬車か……。
正直、歩きでも問題はない。けど、時間短縮になるのは確かだし――
ちらっとみんなを見ると、無言で頷かれた。
ですよね。
「では、お言葉に甘えて。王女殿下とナタリーは馬車に、俺たちは外を――」
「何を言っているの?」
リリーヌ様にぴしゃりと止められた。
「あなたたちも乗りなさい。遠慮はいらないわ」
「ですが――」
「ユキさん」
ララが横から静かに口を挟む。
「リリーヌ様もこうおっしゃっていますし、ご一緒しましょう。お断りするのも失礼ですわ」
……こう言われると、断れないんだよな。
「分かりました。では失礼します」
「ええ、気にしなくていいわ。ここで平民に堅苦しい礼儀を求めたりはしないもの」
さらっと言うあたり、本当にこの人も貴族慣れしてるな。
(いや、当たり前か公爵令嬢だし)
そんなことを考えながら、俺たちは馬車に乗り込んだ。
――で。
「……すげぇな」
思わず声が漏れる。
揺れがほとんどない。座席も柔らかすぎず固すぎず、絶妙な座り心地。
「どう? 少しは快適でしょう?」
リリーヌ様がくすっと笑う。
「ええ、かなり」
「ふふ、それはよかったわ」
やっぱり金かかってるんだろうなこれ……。庶民感覚だとちょっと怖くなるレベルだ。
そんなことを思っていると、リリーヌ様が話を振ってきた。
「あなたたち、ラスターネまで何をしに行くの?」
「ラスターネでしか取れない鉱石を探しに行く予定です」
「鉱石?」
「ええ。かなり貴重なものらしくて。見つかるかどうかは分かりませんが、冒険者としては一度挑戦してみようかと」
ついでに言えば、見つからなかったら普通に帰る予定だ。
「そう。見つかるといいわね」
「ありがとうございます」
すると今度はララが話題を振る。
「リリーヌ様はアリーネ王国へは何を?」
その瞬間。
リリーヌ様の頬がほんのり赤くなった。
……あ、これは。
「婚約者に会いに、ですわ」
やっぱりか。
「お相手はアリーネ王国の王太子殿下の側近でして。同い年なのですが、なかなか国を離れられない方なので、こちらから会いに」
なるほど、距離的な問題か。
この世界の結婚観ってちょっと独特なんだよな。家柄とかよりも「直感」で決まることが多いから、そもそも相手が遠方ってケースも普通にある。
だからこそ、平民だと一生独身なんて話も珍しくない。
「まあ、王太子殿下の側近となると、かなり優秀な方なのですね」
ララが言うと、リリーヌ様は嬉しそうに微笑んだ。
「ええ。私にはもったいないくらいの方ですわ」
「すぐにご一緒に生活されないのですか?」
「それが……私も彼もまだ学生ですので。卒業してからになります」
「そうでしたわね。リリーヌ様は十六歳、王立学園の二年生でしたわね」
「ええ。来年卒業ですから、その後に」
なるほど、ちゃんと段階踏んでるんだな。
そのまま二人は楽しそうに会話を続ける。
……で、嫌な予感はしてたんだ。
「そういえば、ララティア様は――」
ほら来た。
「その……そういった方はお出来になりまして?」
ぶふっ。
思わず咳き込む。
やめてくれ、こっちに飛び火するの分かってるから。
「あら、大丈夫です?」
「え、ええ……」
気まずい。非常に気まずい。
そして当のララは――
「ええ……その……」
なぜかもじもじしている。
いや、まさか。
「実は……こちらのユキさんがそうなんですの」
「え?」
「まあ」
終わった。
完全に終わった。
「そうなのですね。それでご一緒に行動されていると……羨ましいですわ」
リリーヌ様が微笑む。
横を見ると、奏太と琴音がニヤニヤしている。
やめろ。ほんとやめろ。
(いや、否定した方がいいのか? でもここで否定するとそれはそれで面倒な……)
結論。
――逃げよう。
俺は静かに顔を背け、窓の外を見ることにした。
うん、景色が綺麗だなー(棒)
その後の会話は、ほぼララに任せた。俺が入ると確実に面倒になる。
そして、約二時間後。
馬車がゆっくりと止まった。
「お嬢様。分岐点に到着しました」
外から騎士の声がかかる。
「王都へ向かう道と、ラスターネへの道の分岐です」
「分かりましたわ。ありがとう」
リリーヌ様はそう答えると、こちらへ向き直った。
「名残惜しいですが、ここでお別れですわね」
「ええ。本当に助かりました」
ララが優雅に微笑む。
「またお会いしましょう」
「はい、ぜひ」
俺たちは礼を述べて馬車を降りた。
そのまま馬車が遠ざかっていくのを見送りながら――
「……だいぶ進んだな」
「だな。ここからなら、あと五日くらいか?」
奏太の言葉に頷く。
「まあ急ぎじゃないし、のんびり行こうぜ」
「賛成」
ララも軽く頷く。
さっきまでの空気とは打って変わって、いつもの感じに戻ったな。
……うん、やっぱりこっちの方が落ち着く。
「じゃ、行くか」
ラスターネへ向けて、俺たちは再び歩き出した。
――今度は、何も起きないことを祈りながら。
読んでいただきありがとうございます!
面白いと思ったら⭐︎を押していただけたら投稿の励みになります☆彡




