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扉の向こうは異世界でした〜平日は会社員、土日祝は異世界で冒険者(三年限定)〜  作者: みのり


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隣にいるための距離

 ――ララティア視点――


 気を失い、静かに眠っているユキさんを見つめていると。


「……ふむ」


 低く落ち着いた声と共に、フェンリル様が近づいてきました。


「そのままではよくないな」


 そう言って、少し屈むようにして背を差し出します。


「ログハウスとやらまで運んでやる」


「ここにいては風邪を引く。人間は病に弱いのだろう?」


 その言葉に、思わず苦笑してしまいそうになります。


 確かに否定はできませんが……少し極端な気もします。


 とはいえ、今はそれどころではありません。


「ソウタさん、ナタリー。お願いします」


「お、おう」


「かしこまりました」


 私一人では持ち上げられませんから、二人に手伝っていただき、ユキさんをそっとフェンリル様の背へ。


「行くぞ。どちらだ?」


「こちらですわ」


 来た道を戻る形で、ログハウスへと向かいます。


 歩きながら、何度も振り返ってしまいました。


 ユキさんが目を覚まさないかと。


 けれど――


 結局、ログハウスに着くまで目を覚ますことはありませんでした。


 ◇


「ほう……」


 ログハウスに着くと。


 ユキさんのお祖父様――大賢者様が、どこか懐かしそうに目を細めます。


「久しいな、フェンリル。私と契約しなかったお前が、裕季と契約するとはな」


「ふん」


 フェンリル様は鼻を鳴らしました。


「お前と契約しなかったのは、ここを出ていくと分かっていたからだ」


「だが、あやつは違う。ここに残り続ける」


 ……その言葉に、胸が少しだけざわつきます。


 大賢者様は苦笑を浮かべただけで、何も言わずユキさんを部屋へ運んでいきました。


 しばらくして。


「お前は、行かなくていいのか?」


 フェンリル様が、私に問いかけます。


「……私が行っても、何もできませんから」


 そう答えると、じっと見つめられました。


「お前、あやつのことが好きなのだろう?」


「……はい」


 隠すつもりもありません。


「ですが――」


 小さく息を吐く。


「私の我儘で、ユキさんを縛るわけにはいきません」


 彼には、選ぶ時間があります。


 どちらの世界で生きるのか。


 それを、自分で決めたいとおっしゃっていました。


 ならば、私は――


 待つべきなのです。


「人間とは本当に面倒だな」


 フェンリル様が呆れたように言います。


「好いているのなら、我儘でも何でも言って引き止めればよい」


「……それで後悔されたら、意味がありません」


 小さく微笑む。


「ですから、私は待ちます」


 彼の答えを。


 どちらを選ばれたとしても――受け止められるように。


 ◇


 ――裕季視点――


「……ん」


 目を開ける。


 見慣れた天井。


 ここは……ログハウスか。


 首だけ動かして周囲を見ると。


「裕季!」


 琴音が一番に反応した。


 その後ろに、じいちゃんとばあちゃん。


 全員、なんかめちゃくちゃ心配そうな顔してるな。


「フェンリルと契約したと思ったら、いきなり倒れるんだもん!心配したんだからね!」


「ごめん、ごめん」


 苦笑しながら身体を起こす。


「契約で魔力ごっそり持ってかれたっぽい」


「完全に魔力切れだな」


「どのくらい寝てた?」


「三時間くらいかな」


「え、そんなもん?」


 思ったより短いな。


「普通、魔力切れなら二日は起きないっておじいちゃんが言ってたけど……」


 琴音がじいちゃんの方を見る。


 じいちゃんは腕を組みながら頷いた。


「普通はな」


「……規格外ってことか?」


「そういうことじゃろうな」


 あんまり嬉しくない分類だな、それ。


「体は大丈夫?」


「んー……」


 軽く肩を回してみる。


 違和感は……ない。


「問題なさそう」


「よかった……」


 琴音がほっと息をついた。


 奏太も、じいちゃんもばあちゃんも、同じような顔をしている。


 ……悪いことしたな。


「心配かけてごめん」


 そう言うと、みんな一斉に「ほんとだよ」みたいな顔をした。


 いや、ほんとすみません。


「……あれ?」


 ふと気づく。


「ララとナタリーは?」


「外だよ。フェンリルと一緒」


 奏太が答えた。


「そっか」


 じゃあ顔出しておくか。


 ◇


 外に出ると。


 ララとフェン――そして少し離れたところにナタリーが立っていた。


 護衛、ちゃんとしてるな。


「ララ、ナタリー」


 声をかける。


「心配したよな、ごめん――」


 言い終わる前に。


「ユキさん!」


「うおっ!?」


 ララが勢いよく飛びついてきた。


 受け止めきれず、そのまま尻もちをつく。


「いてて……」


「す、すみません!」


 ララが慌てて離れる。


「私としたことが……!」


「お怪我はありませんか!?痛みは!?」


「大丈夫大丈夫」


 手を振る。


「ちょっとびっくりしただけ」


 ……元気そうで何よりだ。


「フェン、ここまで運んでくれたんだろ?」


「ありがとう」


「契約したからな」


 フェンはあっさり言う。


「早々に死なれては困る。我は湖へ戻る。用があれば呼べ。呼び方は分かるな?」


「ああ、心の中で呼びかければいいんだろ?」


「うむ」


 ララが一歩前に出る。


「フェン様、本日はありがとうございました」


「気にするな」


 短く答え、フェンはゆっくりと森の奥へと去っていった。


 ◇


「で?」


 フェンの背中を見送りながら聞く。


「何話してたんだ?」


「……秘密ですわ」


 にこっと笑うララ。


 完全に教える気ないな、これ。


「気になるんだけどなぁ」


「いつか、機会があれば」


 含みのある言い方だ。


 ……まあ、無理に聞くのも野暮か。


「とりあえず、今日はもう遅いな」


 空を見上げると、日が傾き始めていた。


「ララとナタリー、王城まで送るよ」


「ありがとうございます」


 その日はそこで解散。


 移動の本格開始は、五日後に決まった。


 ◇


 部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。


「……フェン、か」


 神獣と契約って、なんかすごいことになってきたな。


 ふと思いつく。


「フェンに乗って、先にラスターネ近くまで行って……」


「転移でみんな呼ぶ、ってのもアリか?」


 時短にはなる。


 ただ、フェンが許すかどうかだな。


 あとで相談してみるか。


 そんなことを考えながら。


「……明日、仕事だし寝るか」


 現実もちゃんとあるのが、なんとも言えない。


 異世界と日本の往復生活。


 ……まあ、嫌いじゃないけど。


 目を閉じる。


 今日はさすがに疲れた。


 考え事をする前に、意識はそのまま沈んでいった。

読んでいただきありがとうございます!

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