短い帰郷と、次の行き先
ログハウスに着いた頃には、もう日が傾き始めていた。
今日はさすがに色々ありすぎたな……。
精神的にも体力的にもそこそこ削られていた俺たちは、早めに夕食を済ませ、そのまま休むことにした。
ちなみに、じいちゃんとばあちゃんは寝る必要がないらしい。
――が。
「わ、私たちはまだ起きていますので……!」
「お気遣いなく」
ララとナタリーがそんなことを言い出しかねないので、二人にはさっさと寝室へ行ってもらった。
……なんというか。
相変わらず仲がいい。
ああいう夫婦、いいよな。
将来、俺もあんな関係を築けたら――なんて、少しだけ思った。
◇
翌朝。
朝食を終え、一息ついたところで、気になっていたことを聞いてみる。
「じいちゃんとばあちゃんって、なんでここにいるんだ?」
俺の問いに、じいちゃんが軽く顎に手を当てた。
「もうこちらの人間でもないからな。向こうの決まりに従って、別の誰かに生まれ変わるもんだと思っとったんじゃが……気づいたらこの世界の天界におってな。しかも、そこに若菜もいたんだよ」
横からばあちゃんがさらっと補足する。
「私も驚いたわよ? 元々こっちの人間でもないのにね」
いやほんとそれな。
「なんでもね、地球は人間が増えすぎてるから、いらないなら連れて行っていいって言われたらしいの。創造神様が」
「……え、それアリなの?」
軽すぎないか、その判断。
「まあ、あちらの事情もあるんじゃろう」
じいちゃんはあっさり言う。
スケールがでかすぎてよく分からん。
「じゃあ……父さんと母さんは?」
少しだけ声が小さくなる。
「向こうで生まれ変わってるのか?」
じいちゃんはゆっくり頷いた。
「わしらのように“地球の魂ではないもの”なら見つけやすいんじゃがな。あやつらは純粋な地球の魂じゃ」
「何年も経っとるし、もう別の誰かとして生まれ変わっとる可能性が高いじゃろうな」
……そっか。
やっぱり、そうなるか。
「私はこの人が来るのを待ってたのよ」
ばあちゃんが、隣のじいちゃんを見ながら言う。
「どうしても一緒に生まれ変わりたくて、無理言ってね」
さらっと言ってるけど、それ結構すごいことじゃないか?
何十年も一緒にいたのに、さらに待つって。
……やっぱり、この二人すごいな。
少しだけ胸の奥が温かくなる。
それと同時に、少しだけ寂しさも残る。
父さんと母さんには、もう会えないんだろうな。
でも――
どこかで、ちゃんと生まれ変わって、幸せに生きてるなら。
それでいいか。
そう思うことにした。
◇
「ララ、ナタリー」
気持ちを切り替えて二人に向き直る。
「創造神様から許可ももらったし、分かる範囲で聞きたいことがあれば話すよ」
ララが少しだけ遠慮がちに口を開いた。
「その……もし可能でしたら、ユキさんたちが生活していた場所に、私も行くことはできますか?ユキさんが住んでいた世界を、一度見てみたいのです」
やっぱり来たか。
予想通りのお願いだ。
ちらっとじいちゃんを見ると、小さく頷かれた。
……OKってことか。
「いいよ。でも今回だけな」
自然とそう言葉が出た。
たぶん――
これ、何度もできることじゃない。
根拠はないけど、そんな気がする。
「はい。それでも十分ですわ」
ララが嬉しそうに微笑む。
その表情を見て、連れていく判断は間違ってなかったと思えた。
俺たちは扉を開き、日本の自宅へと向かった。
◇
「……ここが、ユキさんの世界……」
ララが静かに呟く。
「思っていたよりも……落ち着く場所ですのね」
意外そうな顔だ。
まあ、派手さはないしな。
「懐かしいのう」
じいちゃんが周囲を見回す。
その時だった。
「……ん?」
じいちゃんがふと空を見上げるような仕草をした。
「そろそろ戻った方がよさそうじゃな」
「え?」
「こちらの人間でもないわしらが長くおると、地球の神々が困るらしい」
……なんか感じ取ってるな。
俺にはさっぱり分からんけど。
「じゃあ、あんまりゆっくりはできないか。ごめんな、ララ」
「いえ、十分ですわ」
ララは満足そうに頷いた。
滞在時間は一時間にも満たなかったけど――
それでも、見せることができてよかったと思う。
ナタリーはというと。
「もっと色々見てみたかったです……」
完全に好奇心モードだった。
まあ、あれだけ文化違えばな。
◇
ログハウスに戻ったあと。
「さて、と」
俺は軽く手を叩く。
「フィリオに頼まれてた鉱石、探しに行くか」
目的を思い出した俺たちは、まず情報収集のためにラーズの街へ向かった。
冒険者ギルドで受付嬢に声をかける。
「アリーネ王国のラスターネまでこれから行く予定なんですけど、道中何か変わったことがあれば教えてほしいんですが」
「ラスターネの街ですね」
受付嬢は手際よく資料を確認する。
「最近、国境付近で長雨が続いておりまして、土砂崩れが複数発生しています。それ以外は特に大きな問題はありません。魔物の出現も通常通りですね」
「なるほど。そこまで行くのに、どれくらいかかります?」
「最短ルートで国境の街まで七日、そこからラスターネまで十日ほどです。ただし、土砂崩れの影響で遠回りになる可能性があります」
……最短で十七日か。
思ったより遠いな。
「ちなみに、四ヶ月くらいの長期依頼ってあります?」
一応聞いてみる。
「四ヶ月はさすがにありませんね。長くても二ヶ月ほどです」
短いな。
となると――
今回は見送りだな。
「じゃあ依頼は受けずに行きます。また戻ってきたらお願いします」
「かしこまりました。お気をつけて」
ギルドを出ると、すでに昼を少し回っていた。
「少しでも進むか?」
そう言いかけたところで。
「その前にじゃ」
じいちゃんが口を開く。
「ログハウスのさらに先に湖がある。そこへ行ってみんか」
「湖?」
「何かあるのか?」
「行けば分かる」
じいちゃんは少しだけ意味深に笑った。
「おそらく、お前たちの役に立つものじゃ」
役に立つもの、ね。
ちょっと気になるな。
「距離は?」
「一時間ほどじゃ」
……それなら寄り道としては悪くない。
「よし、行ってみるか」
こうして俺たちは――
まずは謎の湖を目指すことになった。
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