ただいまと言える場所が増えた日
ララとナタリーに俺たちのことを話すか相談するために、創造神へ連絡した。
――したんだけど。
「……なんでじいちゃんもいるんだよ」
思わずそう呟いてしまった。
半透明のじいちゃんが、創造神の隣に普通に立っている。
いやほんと、何この状況。
自分で言ってて意味分からん。
「さて」
そんな俺の混乱など気にした様子もなく、創造神が口を開く。
「王女の方は構わんが――侍女の方は少々問題があるな」
「え?」
ナタリーがぴくっと反応する。
「興奮すると口が滑るタイプだろう。念のため、我の方で縛っておこう」
さらっと言ったな。
「縛るって……」
「口外禁止の制約だ。安心しろ、お前がやるより遥かに強固だ」
ああ、それなら助かる。
俺がやるより確実だろうし。
……というか。
ちらっとナタリーを見る。
「人選、間違ったんじゃないか……?」
思わず小声で呟くと――
「間違っておらん」
創造神が即答した。
「王女の護衛兼侍女の中では最も口が堅い部類だ」
「ただし」
一拍置く。
「研究者気質だな。興味のあることに関しては周囲が見えなくなる」
「あー……」
納得した。
今回のも、たぶんそういうやつだ。
気づいたら喋ってる可能性があると。
「まぁ、縛るなら安心か」
「うむ」
創造神が軽く頷く。
次の瞬間――
空気が一瞬だけ張り詰めた。
何かが発動した感覚。
「……終わった」
早いな。
「そこの王女と侍女よ」
創造神が二人を見下ろす。
「これから知り得ることは、我の許可なく口外できぬ。よいな?」
「は、はい!」
ララが勢いよく頷く。
「分かりました、創造神様……大賢者様」
ナタリーも、珍しく緊張した様子で頭を下げた。
……大賢者様。
じいちゃん、やっぱり有名なんだな。
「よし、話せ」
許可が下りる。
俺は一度深呼吸して――
話し始めた。
◆
俺たちが、この世界の人間じゃないこと。
別の世界で生まれ育ったこと。
そして――
この世界に来ることになった経緯。
さらに。
今が“選択の期間”であること。
どちらの世界で生きるのか。
それを決めるために、色々な場所を見て回っていること。
「……この期間に」
言葉を選ぶ。
「大切な人とか、大事なものを作ると……たぶん、そっちに引っ張られる」
視線が自然とララに向く。
「それで選んだとしても、後悔するかもしれない」
正直な気持ちを、そのまま伝える。
「ララの気持ちは嬉しい」
本心だ。
「俺も……一緒にいたいと思ってる」
口に出すと、少しだけ照れる。
「でも、今すぐ答えは出せない」
少しだけ間を置く。
「だから――待ってほしい」
言い切った。
ララは、しばらく黙っていた。
それから――
「……そう、なのですね」
小さく頷く。
「話してくださって、ありがとうございます」
顔を上げたその表情は、思っていたよりずっと穏やかだった。
「ユキさんが後悔のない選択をされるまで、待ちますわ」
「……いいのか?」
思わず聞き返す。
「ええ」
にこっと微笑む。
「できれば、こちらに残っていただきたいですけれど」
正直だな。
「迷っているということは、生まれ育った場所にも大切なものがあるのでしょう?」
「……あるよ」
頷く。
「じいちゃんと過ごした家とか、友達とか。だから、簡単には手放せない」
ララは、少しだけ寂しそうに笑った。
その顔を見ると、胸が痛む。
でも――
ここで流されるわけにはいかない。
「俺とコトネは巻き込まれた形だけどさ」
奏太が肩をすくめる。
「こっちの生活も悪くないと思ってる。でも、親とか友達にもう会えないってなると……やっぱ迷うよな」
「……うん」
琴音も小さく頷いた。
ララはその様子を見て――
ゆっくりと口を開く。
「でしたら」
優しく、でもはっきりと。
「皆さんが後悔しないよう、たくさん見て、考えてください。私にできることでしたら、お手伝いします」
少しだけ照れたように笑う。
「これからも、一緒にいてくださいね」
……ほんと、この人は。
「ありがとう、ララ」
自然と笑みがこぼれる。
「ナタリーも」
「はい」
ナタリーは一歩前に出る。
「私も、ララ様と共にできる範囲でお手伝いします」
少しだけぎこちないけど、真剣さは伝わる。
◆
「話は終わったようだな」
創造神が口を開く。
「では――褒美だ」
「褒美?」
「加護を授ける」
さらっと言ったけど。
「簡単に死なれてもつまらんからな」
理由が雑。
「状態異常耐性と――致死回避治癒を与える」
「致死回避……?」
「即死しなければ、怪我や病気は即座に回復する」
「……それ、めちゃくちゃ強くないか?」
思わず聞く。
「強いぞ」
即答だった。
「いいのか、そんなのもらって」
「良いと言っている」
創造神はあっさり言う。
「それと」
ちらっとじいちゃんを見る。
「お前の祖父は、今後あのログハウスにいる。困ったことがあれば頼れ」
「……ありがとう」
素直に頭を下げる。
「じいちゃんも」
改めて見る。
「また会えて嬉しい」
じいちゃんは、少しだけ目を細めた。
「わしもだ」
「それと――」
にやっと笑う。
「若菜もいるぞ」
「……え?」
「ログハウスにおる。お前に会うの楽しみにしてたぞ」
「ばあちゃん……!」
思わず声が弾む。
まじか。
また会えるのか。
「さて、私は帰る」
創造神が背を向ける。
「後悔のない選択をしろ」
そのまま、ふっと姿が消えた。
◆
「……で」
フィリオが、腕を組む。
「ソウタ」
名指しされた奏太がびくっとする。
「お前、物作りに興味はあるか?」
「え?あるけど……」
少し考える。
「でも、加護はいいかな」
「ほう?」
「今もらっても使いこなせないし、今は趣味でいい」
珍しくしっかりした理由だな。
フィリオは少しだけ笑う。
「そうか。では、こちらに残ると決めたときに授けよう」
「うん、それで」
奏太が頷く。
「ありがとう、フィリオさん」
昔から器用だったしな。
こっちに残れば、向いてるかもしれない。
◆
「じゃあ、戻るか。ばあちゃんも待ってるらしいし。
邪魔したな、フィリオ」
「構わん」
軽く手を振る。
「気が向いたら鉱石探しに行け」
「あー……」
そんな話あったな。
「そのうちな。見つけたら持ってくる」
「期待してるぞ」
軽く笑うフィリオ。
俺たちはそのまま転移した。
◆
ログハウスに戻ると――
そこにいた。
じいちゃんと同じく、少し透けたばあちゃんが。
「ユキ……!」
「ばあちゃん……!」
次の瞬間には、駆け寄っていた。
触れられないはずなのに。
ちゃんと、そこにいると分かる。
「大きくなったねぇ」
懐かしい声。
胸が、じんわりと温かくなる。
――帰ってきた、って感じがした。
「……あれ?」
ふと気づく。
「部屋、増えてないか?」
明らかに扉が二つ増えている。
「おお、それな」
じいちゃんが笑う。
「創造神が勝手に増やしてくれた」
「……勝手に?」
ありがたいけど。
「一言欲しかったな……」
思わず呟く。
ばあちゃんがくすっと笑った。
……ほんとにな。
こうして。
俺たちの旅は――
さらに賑やかになっていくのだった。
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