旅と王女、交わった運命
王族との食事は、どうにかこうにか無事に終わった。
――いや、無事って言っていいのかこれ。
今は庭園の東屋に場所を移して、王様以外のメンバーでお茶会中だ。
さっきまで食べていた料理は、間違いなく超一流だったはずなんだけど……正直、ほとんど味がしなかった。緊張でそれどころじゃなかったんだよな。
「美味しいですね」とか適当なこと言いながら、手と口だけ動かしてた気がする。
で、「そろそろお暇しようかな」と思ったタイミングで――
『お茶でもいかが?』
と、にこやかに誘われて現在に至る。
なお王様は、食事が終わるなり執務室へ直行した。背中がめちゃくちゃ名残惜しそうだったのが印象的だ。あれ絶対「俺も残りたかった」って書いてあった。
……うん、ちょっと親近感湧いた。
「聞きたいことがあるのだけれど、よろしいかしら?」
王妃様が、少しだけ真剣な顔で口を開く。
その視線が、俺たち三人を順番に捉えた。
「答えられる範囲でなら」
とりあえずそう返す。
すると――
「あなた達、恋人は?」
「…………は?」
一瞬、思考が止まった。
いや、今それ聞く?
タイミングどうなってるんだこの王族。
言葉が出てこなくて固まっていると、視線が自然と奏太と琴音に向く。
二人は顔を見合わせて、なぜかうんうんと頷き合い――
琴音が小さく口を開いた。
「私とソウタは……その……恋人、です」
後半、めちゃくちゃ声小さい。
しかも顔真っ赤。
……まぁ、そうなるよな。
「そう。素敵ね」
王妃様は柔らかく微笑むと、今度はこっちに視線を向けてきた。
「ユキさんは?」
「自分は……そういう相手はいません」
正直に答えると――
「あら、それならララティアはどうかしら?」
「――ぶっ!?」
危なっ。
今ちょうどお茶飲もうとしてたんだけど!?
ギリギリで止めた。これで吹き出してたら終わってた。
「え、えっと……王妃陛下?」
「なにかしら?」
「ララティア様は王女殿下ですよ?さすがに身分差が……自分なんかじゃ釣り合わないかと」
できるだけ慎重に言葉を選んだつもりだったんだけど――
「……私には魅力がありませんのね」
ララティア様が、ぽつりと呟いた。
うわ、やばい。
「い、いえ!そういうわけではなくて!」
慌ててフォローに入る。
「その……ララティア王女殿下は、とてもお美しいですし……お話ししていても楽しいですし……その……むしろ自分にはもったいないというか……!」
……何言ってんだ俺。
自分でも意味が分からないくらい勢いで喋ってる。
でも――最初に会ったときに思ったんだ。
「あ、この人だ」って。
だから余計に困ってる。
どうすればいいのか分からない。
助けを求めて奏太と琴音を見ると――
あいつら、優雅にお茶飲んでやがる。
しかも王太子様と普通に談笑してるし。
助ける気ゼロかよ。
「ふふ、安心なさい」
王妃様が楽しそうに笑う。
「身分差を理由にする必要はありませんわ」
「……え?」
思わず聞き返す。
すると王妃様は、少しだけ声を落として続けた。
この国の結婚は、教会で行われる。
婚姻届を持ち、祈りの場で神に誓う。
そのとき――
互いが真に愛し合っていなければ、婚姻届は消え去る。
そして、誰のものでもない声が響くのだという。
『許さぬ』と。
実際に昔、金目当ての結婚をしようとした貴族がそれで破談になり、そのまま没落した例もあるらしい。
逆に、身分差があっても本当に想い合っていれば祝福される。
その祝福は人それぞれ違うらしい。
「私がいただいた祝福は“真偽を見通す目”よ」
さらっとすごいこと言ったなこの人。
「嘘かどうかが分かるの。ただし、自分で見ようとしないと見えないけれど」
なるほど、常時発動じゃないのは助かるな。
「ちなみにあの人は多彩処理ね」
あの人って絶対王様だよな。
「同時にいくつもの思考や書類処理ができるらしいわ」
……社畜スキルじゃねぇか。
いや王様だけど。
「そしてね」
王妃様は、ゆっくりとララティア様を見る。
「運命の相手に出会うと、不思議な感覚があるの」
「……感覚?」
「“この人だ”とか、“やっと会えた”とか。今まで感じたことのない幸福感」
そこで、視線が俺に向く。
「ララティアはあなたを見て、そう思ったそうよ」
ララティア様が、少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「離れたくない、ともね」
……心臓に悪い。
「……自分も」
気づけば、口が動いていた。
「“この人だ”とは……思いました」
言った瞬間、自分でびっくりした。
けど、嘘じゃない。
「ほらね」
王妃様が満足そうに微笑む。
「ララティアだけではなかったでしょう?」
「はい、お母様」
ララティア様が、まっすぐ俺を見る。
「ユキ様。身分など気にせず、お付き合いしていただけませんか?」
その瞳は、真剣そのものだった。
「お話ししていると楽しくて……お会いすると嬉しくて……離れたくないと思ってしまうのです」
……参ったな。
こんなの、断れるわけがない。
でも――
「……すみません」
一度、目を伏せる。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
王族と関わる生活。
自由な旅。
そして――選ばなければならない未来。
俺たちは、この世界と元の世界、どちらで生きるかを決めなければならない。
まだ、その答えは出ていない。
そんな状態で――
この人を巻き込んでいいのか?
「自分たちは……旅の途中なんです」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「いろいろな場所を見て……最後に、どこで生きるか決めるつもりで」
ララティア様の瞳が揺れる。
「その結論が出るまでは……誰かと深く関わるのは、無責任だと思っています」
正直に言った。
逃げではなく、ちゃんと向き合うために。
「だから……待っていただけるなら」
そこまで言ったときだった。
「でしたら」
ララティア様が、ぱっと顔を上げた。
嫌な予感しかしない。
「私もその旅について行きますわ」
「……はい?」
今なんて言った?
「良いですわよね?お母様、お兄様、お姉様」
めちゃくちゃ自然に家族に確認取ってるけど。
いや待て待て待て。
「え、いやいやいや!?」
思わず立ち上がる。
「王女殿下が旅って……いや無理でしょ!?危ないですし!」
「大丈夫ですわ」
にこっと笑うララティア様。
「ユキ様が守ってくださるのでしょう?」
……ずるい。
その言い方はずるい。
完全に逃げ道塞いできてる。
ちらっと周りを見ると――
王妃様は楽しそうに笑ってるし、
王太子様は「面白そうだな」みたいな顔してるし、
奏太と琴音は完全に他人事モード。
おい助けろ。
「……本気ですか?」
最後の確認。
「ええ、もちろんですわ」
即答だった。
……どうしてこうなった。
王女様と旅とか、難易度高すぎるだろ。
でも――
その笑顔を見たら、もう強く否定できなかった。
俺は深くため息をつく。
「……分かりました。ただし、条件付きです」
こうして、俺の平穏な旅は――
とんでもない方向に転がり始めたのだった。
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