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扉の向こうは異世界でした〜平日は会社員、土日祝は異世界で冒険者(三年限定)〜  作者: みのり


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14/23

旅と王女、交わった運命

 王族との食事は、どうにかこうにか無事に終わった。


 ――いや、無事って言っていいのかこれ。


 今は庭園の東屋に場所を移して、王様以外のメンバーでお茶会中だ。


 さっきまで食べていた料理は、間違いなく超一流だったはずなんだけど……正直、ほとんど味がしなかった。緊張でそれどころじゃなかったんだよな。


「美味しいですね」とか適当なこと言いながら、手と口だけ動かしてた気がする。


 で、「そろそろお暇しようかな」と思ったタイミングで――


『お茶でもいかが?』


 と、にこやかに誘われて現在に至る。


 なお王様は、食事が終わるなり執務室へ直行した。背中がめちゃくちゃ名残惜しそうだったのが印象的だ。あれ絶対「俺も残りたかった」って書いてあった。


 ……うん、ちょっと親近感湧いた。


「聞きたいことがあるのだけれど、よろしいかしら?」


 王妃様が、少しだけ真剣な顔で口を開く。


 その視線が、俺たち三人を順番に捉えた。


「答えられる範囲でなら」


 とりあえずそう返す。


 すると――


「あなた達、恋人は?」


「…………は?」


 一瞬、思考が止まった。


 いや、今それ聞く?


 タイミングどうなってるんだこの王族。


 言葉が出てこなくて固まっていると、視線が自然と奏太と琴音に向く。


 二人は顔を見合わせて、なぜかうんうんと頷き合い――


 琴音が小さく口を開いた。


「私とソウタは……その……恋人、です」


 後半、めちゃくちゃ声小さい。


 しかも顔真っ赤。


 ……まぁ、そうなるよな。


「そう。素敵ね」


 王妃様は柔らかく微笑むと、今度はこっちに視線を向けてきた。


「ユキさんは?」


「自分は……そういう相手はいません」


 正直に答えると――


「あら、それならララティアはどうかしら?」


「――ぶっ!?」


 危なっ。


 今ちょうどお茶飲もうとしてたんだけど!?


 ギリギリで止めた。これで吹き出してたら終わってた。


「え、えっと……王妃陛下?」


「なにかしら?」


「ララティア様は王女殿下ですよ?さすがに身分差が……自分なんかじゃ釣り合わないかと」


 できるだけ慎重に言葉を選んだつもりだったんだけど――


「……私には魅力がありませんのね」


 ララティア様が、ぽつりと呟いた。


 うわ、やばい。


「い、いえ!そういうわけではなくて!」


 慌ててフォローに入る。


「その……ララティア王女殿下は、とてもお美しいですし……お話ししていても楽しいですし……その……むしろ自分にはもったいないというか……!」


 ……何言ってんだ俺。


 自分でも意味が分からないくらい勢いで喋ってる。


 でも――最初に会ったときに思ったんだ。


「あ、この人だ」って。


 だから余計に困ってる。


 どうすればいいのか分からない。


 助けを求めて奏太と琴音を見ると――


 あいつら、優雅にお茶飲んでやがる。


 しかも王太子様と普通に談笑してるし。


 助ける気ゼロかよ。


「ふふ、安心なさい」


 王妃様が楽しそうに笑う。


「身分差を理由にする必要はありませんわ」


「……え?」


 思わず聞き返す。


 すると王妃様は、少しだけ声を落として続けた。


 この国の結婚は、教会で行われる。


 婚姻届を持ち、祈りの場で神に誓う。


 そのとき――


 互いが真に愛し合っていなければ、婚姻届は消え去る。


 そして、誰のものでもない声が響くのだという。


『許さぬ』と。


 実際に昔、金目当ての結婚をしようとした貴族がそれで破談になり、そのまま没落した例もあるらしい。


 逆に、身分差があっても本当に想い合っていれば祝福される。


 その祝福は人それぞれ違うらしい。


「私がいただいた祝福は“真偽を見通す目”よ」


 さらっとすごいこと言ったなこの人。


「嘘かどうかが分かるの。ただし、自分で見ようとしないと見えないけれど」


 なるほど、常時発動じゃないのは助かるな。


「ちなみにあの人は多彩処理ね」


 あの人って絶対王様だよな。


「同時にいくつもの思考や書類処理ができるらしいわ」


 ……社畜スキルじゃねぇか。


 いや王様だけど。


「そしてね」


 王妃様は、ゆっくりとララティア様を見る。


「運命の相手に出会うと、不思議な感覚があるの」


「……感覚?」


「“この人だ”とか、“やっと会えた”とか。今まで感じたことのない幸福感」


 そこで、視線が俺に向く。


「ララティアはあなたを見て、そう思ったそうよ」


 ララティア様が、少し恥ずかしそうに目を伏せた。


「離れたくない、ともね」


 ……心臓に悪い。


「……自分も」


 気づけば、口が動いていた。


「“この人だ”とは……思いました」


 言った瞬間、自分でびっくりした。


 けど、嘘じゃない。


「ほらね」


 王妃様が満足そうに微笑む。


「ララティアだけではなかったでしょう?」


「はい、お母様」


 ララティア様が、まっすぐ俺を見る。


「ユキ様。身分など気にせず、お付き合いしていただけませんか?」


 その瞳は、真剣そのものだった。


「お話ししていると楽しくて……お会いすると嬉しくて……離れたくないと思ってしまうのです」


 ……参ったな。


 こんなの、断れるわけがない。


 でも――


「……すみません」


 一度、目を伏せる。


 頭の中がぐちゃぐちゃだ。


 王族と関わる生活。


 自由な旅。


 そして――選ばなければならない未来。


 俺たちは、この世界と元の世界、どちらで生きるかを決めなければならない。


 まだ、その答えは出ていない。


 そんな状態で――


 この人を巻き込んでいいのか?


「自分たちは……旅の途中なんです」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「いろいろな場所を見て……最後に、どこで生きるか決めるつもりで」


 ララティア様の瞳が揺れる。


「その結論が出るまでは……誰かと深く関わるのは、無責任だと思っています」


 正直に言った。


 逃げではなく、ちゃんと向き合うために。


「だから……待っていただけるなら」


 そこまで言ったときだった。


「でしたら」


 ララティア様が、ぱっと顔を上げた。


 嫌な予感しかしない。


「私もその旅について行きますわ」


「……はい?」


 今なんて言った?


「良いですわよね?お母様、お兄様、お姉様」


 めちゃくちゃ自然に家族に確認取ってるけど。


 いや待て待て待て。


「え、いやいやいや!?」


 思わず立ち上がる。


「王女殿下が旅って……いや無理でしょ!?危ないですし!」


「大丈夫ですわ」


 にこっと笑うララティア様。


「ユキ様が守ってくださるのでしょう?」


 ……ずるい。


 その言い方はずるい。


 完全に逃げ道塞いできてる。


 ちらっと周りを見ると――


 王妃様は楽しそうに笑ってるし、


 王太子様は「面白そうだな」みたいな顔してるし、


 奏太と琴音は完全に他人事モード。


 おい助けろ。


「……本気ですか?」


 最後の確認。


「ええ、もちろんですわ」


 即答だった。


 ……どうしてこうなった。


 王女様と旅とか、難易度高すぎるだろ。


 でも――


 その笑顔を見たら、もう強く否定できなかった。


 俺は深くため息をつく。


「……分かりました。ただし、条件付きです」


 こうして、俺の平穏な旅は――


 とんでもない方向に転がり始めたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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