王族との食事会、それは精神戦だった
ララと名乗った王女に連れられて王都へ来てから、どうにも落ち着かない時間が続いている。
メダルを受け取ったあと、少し談笑していたところで執事服の男性が入ってきた。
「お話中失礼致します。陛下、そろそろお時間でございます」
「ああ、もうそんな時間か。では私はこれで失礼する。そなた達は好きにすると良い」
国王陛下はそう言い残して応接室を後にした。あの人、いるだけで空気が引き締まるというか、正直かなり疲れる。
俺たちもこのまま居座る理由はない。軽く息を整えてから口を開く。
「それでは、我々も失礼致します。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」
すると王妃様が、少しだけ名残惜しそうに微笑んだ。
「あら、もう帰ってしまわれるの?急ぎでなければ夕食でもご一緒しませんか?」
来たか、と思う。
ありがたい話ではあるが、関わりが深くなればなるほど面倒事も増える。特に相手が王族なら尚更だ。
「申し訳ありません。作法も知らぬ平民が長く留まるのは、周囲の方々にもご迷惑になるかと。それに、依頼も抱えておりますので」
やんわりと断ると、王妃様は一瞬だけ考え──すぐに次の手を打ってきた。
「そう……残念ね。それなら明後日の昼、またいらしてちょうだい」
……逃げ道を塞いできたな。
断ろうとしたその瞬間、ララが楽しそうに口を挟む。
「来てくれないなら、こちらから宿に押しかけますわよ?」
「……」
ちらっと王妃様を見ると、にこやかに頷いている。
完全に包囲されている。
「……分かりました。伺います」
観念して頷くと、二人は苦笑しながら同意した。
こうして、王城再訪が確定した。
そのまま俺たちは王妃様に紹介された宿へ向かうことになったのだが――
「なあ、ここ……本当に宿か?」
奏太が小声で言う。
俺も同じ疑問を抱いていた。
目の前にあるのは、どう見ても“宿”ではない。小規模とはいえ完全に城だ。石造りの重厚な外観に広い門、整えられた庭。
「俺の知ってる“ホテル”とだいぶ違うな……」
「高級旅館ってレベルじゃないよね……」
三人で門の前に立ち尽くしていると、建物の中から執事風の男性が歩いてきた。
「失礼ですが、ユキ様、ソウタ様、コトネ様でいらっしゃいますか?」
「え?あ、はい……そうですが」
名前を呼ばれて思わず顔を見合わせる。
「王妃陛下より伺っております。どうぞこちらへ。お部屋をご用意しております」
やっぱりか。王族、仕事が早すぎる。
案内されるまま中へ入ると、内装もまた豪華だった。無駄に広い廊下、やたら高い天井、装飾の細かさがいちいち目につく。
そして通された部屋は――
「……広すぎるだろ」
思わず口に出た。
リビングのような空間に、寝室が複数。家具も一つ一つが高級そうで、落ち着くどころか逆に緊張する。
「これ、一泊いくらなんだろうな……」
「考えない方がいいと思う」
「うん、絶対怖い」
三人で苦笑するが、結論はすぐに出た。
――ここでは寝れない。
その夜、俺たちは結局ログハウスに戻って寝た。
豪華さより慣れ。これは間違いない。
翌朝は何食わぬ顔で宿に戻り、運ばれてきた朝食を食べる。
丸パンにスープ、サラダ。
見た目は質素だが、味はしっかりしている。
「……普通にうまいな」
「これが“普通”なんだろうな、貴族の」
「いや、これでもかなり良い方じゃない?」
そんな話をしながら食事を済ませ、その日はギルドへの納品と王都観光へ。
王都はやはり規模が違う。
人通りも多く、店の種類も豊富。見たことのない道具や装飾品も多く、見ているだけで時間が過ぎる。
ただ――
「結局、何も買ってないな」
「見るだけで満足しちゃったな」
「お金の感覚もまだ分からないしね……」
三人とも同じような感想だった。
夕食は部屋に運んでもらった。
メインはステーキ。脂の載りも焼き加減も完璧で、文句なしに美味い。
「……これは確かにうまい」
「こういうの毎日食べてたら戻れなくなりそう」
「でも落ち着かないよね、この部屋」
結局この日もログハウスで就寝。
そして翌日。
朝食を済ませたあと、約束通り王城へ向かう。
応接室で待つこと一時間。案内されたのは、明らかに“食事会場”と分かる部屋だった。
長いテーブルの上座に国王陛下、その右に王妃様、左にララ。
そして見慣れない二人がいた。
「さあ、かけてちょうだい。非公式の場だから、マナーは気にしなくていいわ」
王妃様の言葉に従い席につく。
紹介されたのは王太子アルフォード様と第一王女カルネリア様。
どちらもいかにも“王族”という雰囲気で、場の空気がさらに重くなる。
軽く自己紹介を済ませると、料理が運ばれてきた。
見た目からして豪華で、香りもいい。
――なのに。
(味がしない)
緊張で完全に感覚が鈍っている。
横を見ると、奏太も無表情で食べているし、琴音も静かに皿を見つめている。
全員同じ状態だな、これ。
「お口に合うかしら?」
王妃様が穏やかに問いかける。
「は、はい。とても美味しいです」
反射的に答えるが、半分くらいは嘘だ。美味いのは分かる。でも味わう余裕がない。
それでも、会話は続く。
王太子は穏やかに話を振ってくるし、第一王女は静かにこちらを観察している。
ララは楽しそうにしているが、俺たちの状況はそれどころじゃない。
(早く終わってくれ……)
心の中で何度もそう願いながら、なんとか食事を続ける。
異世界に来て、魔物と戦うより緊張する場面があるとは思わなかった。
こうして俺たちは、“王族との食事会”という名の精神戦を乗り切ることになるのだった。
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