王城にて
ララと名乗った女性――いや、第二王女殿下と共に王都へ向かうこと三日目。
本来なら昨日のうちに一度日本へ戻っているはずだったのだが、さすがに王女様と一緒にいる状況で姿を消すわけにもいかない。
結果、日の出前。見張りの騎士しか起きていない時間を見計らって、俺たちはこっそりと三人で日本へ戻った。
そしてその足で会社へ連絡。
「すみません、体調を崩しまして……」
――仮病で一週間の休みをもぎ取った。
社会人になったばかりでこんな長期休暇を取るのは正直気が引けたが、今回はどう考えても仕方ない。
王女様との同行を優先するしかないだろう。
「社会人って大変だな……」
「いや、お前もその一人だからな」
そんなやり取りをしながら再び異世界へ戻り、何食わぬ顔で馬車の護衛(という名の話し相手)に復帰した。
――そして五日目の昼過ぎ。
ようやく王都へと到着した。
巨大な城壁をくぐり、整然とした街並みを抜け、馬車はそのまま王城へと進んでいく。
「……まあ、そうなるよな」
「だよな。王女様だもんな」
奏太と小声で話しながら、半ば諦めの境地で流れに身を任せる。
王都に入ってから数十分。
やがて馬車がゆっくりと停止し、扉が開いた。
外へ出た瞬間、視界に広がったのは――どう見ても“城”だった。
「えっと……ララ様。ここ、王城……ですよね?」
思わず確認してしまう。
「はい、そうですわ」
あっさり肯定された。
「私は父と母に報告してきますので、応接室でお待ちください」
そう言うと、近くの侍女に俺たちを任せ、ララ様は城の奥へと消えていった。
……やっぱり、正式に名乗る気はないらしい。
案内された応接室は、無駄に広くて落ち着かない空間だった。
「……場違いすぎるな」
「だな……」
「帰りたい……」
三人で小声で愚痴をこぼしながら待つこと、三十分ほど。
コンコン、とノックの音。
「失礼する」
入ってきたのは、先ほどのララ様と――
四十代ほどの男女。
そしてその雰囲気だけで分かる。
――この国の頂点だと。
俺たちは反射的に膝をつき、頭を下げる。
「よい。ここは公式の場ではない。楽にせよ」
落ち着いた声が響く。
言われるがまま席に着くが、正直まったく楽ではない。
「では、まずは自己紹介といこう」
男――国王が口を開く。
「私はユリウス・フォン・ラスティーナ。この国の国王だ」
続いて女性が微笑む。
「王妃のアリアナ・フィン・ラスティーナです」
そして最後に。
「ララティア・フィン・ラスティーナです」
やはり、正式に名乗った。
俺たちも順に名乗る。
「Cランク冒険者のユキです」
「Fランク冒険者のソウタです」
「同じくFランクのコトネです」
一通りの挨拶を終えた後、国王が満足そうに頷いた。
「我が娘と護衛の窮地を救ってくれたこと、改めて礼を言う」
そして少し困ったように続ける。
「褒美を断ったと聞いているが……本当か?」
「はい。我々は偶然居合わせただけですので」
できるだけ波風立てずに答える。
だが国王は首を横に振った。
「そうはいかぬ。王女の命を救われたとなれば、何もせぬわけにはいかん」
そう言うと、合図を送る。
執事服の男が現れ、トレーをテーブルに置いた。
そこには――メダルのようなものが三つ。
「それは王族の後ろ盾を示す証だ。受け取ってくれ」
……いや、いらない。
内心で即答する。
絶対に使いどころが分からないし、むしろ面倒事の種にしか見えない。
だが、ここで断るのも難しい。
どうするか考えていると――
「陛下」
先に口を開いたのは奏太だった。
「俺たちは実際に戦っていません。受け取る資格はないかと」
「私も同じです」
琴音も続く。
……おい。
一瞬、裏切られた気分になったが、二人が小さく「ごめん」と口の形で謝ってきた。
なるほど、断る流れを作ったわけか。
なら乗るしかない。
「自分も同じです。助けたというより、ただ手を貸しただけですので」
そう言って頭を下げる。
国王は腕を組み、少し考え込むように俺たちを見た。
「……受け取らぬ、か」
そして――なぜか、俺の方をじっと見つめてくる。
……なんだ?
「ユキ、と言ったな」
「はい」
「そなた……大賢者の血縁ではないか?」
一瞬、言葉に詰まる。
この世界でその単語を聞くのは、神様たち以来だ。
どう答えるべきか迷った、その時。
『問題ない。話してよい』
頭の中に、あの声が響く。
創造神だ。
『その者たちは我の加護を受けている。信用してよい』
……マジか。
念のため鑑定してみると、確かに加護がある。
そこまで言うなら――
「はい。大賢者は、自分の祖父です」
「なんと……!」
国王の目が見開かれる。
「では、あの者は今どこに?」
「……半年前に亡くなりました」
静かに答える。
国王は一瞬言葉を失い、そして目を伏せた。
「……そうか」
その表情は、どこか寂しげだった。
「もう一度、会いたかったのだがな」
しばらく沈黙が流れる。
やがて国王は顔を上げ、少し柔らかい声で言った。
「昔な、私は幼い頃にあの者と出会ったのだ」
意外な話だった。
「魔法の師として、多くを教えてもらった。……それだけでなく、悩みも聞いてもらった」
遠くを見るような目。
「だがある日、守りたい者ができたと言って、突然姿を消した」
――祖父らしいな、と思う。
「礼を言いたかったのだが……もう叶わぬか」
その言葉に、少しだけ胸が締め付けられる。
「祖父は……最後、穏やかな顔でした」
自然と口が動いていた。
「先に亡くなった祖母の元へ行けると、そう言っていました」
国王は静かに頷いた。
「……そうか」
そして、小さく息を吐く。
「すまなかったな。だが――」
再び、あのメダルを指し示す。
「これは、あの者への礼も含めてだ。受け取ってくれぬか?」
ここまで言われて断るのは、さすがに無理だ。
「……分かりました。では、ありがたく」
そう言ってメダルを手に取る。
すると三人とも、ほっとしたように表情を緩めた。
「うむ、それでよい」
……まあ、使わなければいいか。
そう割り切ることにした。
王族の後ろ盾。
正直、実感はまったくないが――
とりあえず、面倒事にならないことを祈るしかなさそうだ。
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