剣聖の旅①♦
「では頼んだのじゃ、失くすでないぞ。」
「心配すんな、お前さんこそ留守番しっかりな。」
「お主達がおらぬ間に環境を整えるつもりじゃ。」
シヴは受け取った手紙を懐に入れ、外に出る。
外は暗く、商店もとっくに店仕舞いしている時間。
ギルドで依頼を請けた後、キイが手紙を書く時間を必要としたため、昼食を済ませてから夕食までの間に睡眠を取っておいた。
人通りのまばらな町を抜け、準備運動を始める。
(エルフの国は西北西だな。)
休まず走り続けるつもりなので荷物は手紙と愛剣のみ。
やがて準備運動も終わり、一呼吸おいてからシヴは走り始める。
町と町を繋ぐ街道は伸びているが、そんなものはおかまいなしに一直線に走るシヴ。
町の中を流れる川が進路を邪魔するように伸びていたが、シヴは難なく飛び越える。
(この先飛び越えらんねーような崖がなけりゃいいがよ。)
飛び越えた先は森だったが、躊躇うことなく森へと侵入する。
木を避け横に伸びる蔓植物を斬りながら進行方向を変える事無く突き進む。
(魔物がいやがるな……。)
殺意と威圧を全開にすることで、殆どの魔物は敏感にそれを察知し、怯え、隠れた。
魔物たちはシヴという災厄が森を通り抜けるのを、物陰で静かに待つ事しか出来ないでいた。
(流石にあの町の近くだけあって、大したやつはいねーみたいだな。)
ハバキ領で危険な魔物の討伐命令が出る事は滅多にない。
火龍が住んでいる事も要因の一つなのだが、元々平和な土地だからこそ、ここまで発展してきたとも言える。
それでも何体かの魔物はシヴに襲い掛かって来たが、走りながら切り伏せる。
やがて静かな森を抜け、しばらく森沿いを走ると、森の中へと伸びている街道の入り口にぶつかった。
そのまま通り過ぎる筈だったが、何かの気配を察知する。
(何だ? こっちに来てやがるな……。)
その街道の奥から、自分に向かって迫る存在を感じとったシヴ。
無視して走り去っても良かったのだが、もしこれが討伐対象になり得るような強力な魔物だったとしたら……。そう考えた。
(一応オウルだからな、俺が居ない間に暴れまわられでもしやがったら困るし、確認はしとくか。)
シヴは森の入り口に立ち、目を凝らす。
(ん~……。ありゃあ……、馬か?)
真っ直ぐに森の中からこちらに向かって走ってくる馬。
(乗ってんのは……、ありゃハバキじゃねえか。)
魔物ではないとわかって警戒が緩んだが、魔物が出るこの森を恐ろしい速度でこちらに向かって来るハバキを見て、すぐにシヴは考えを改める。
(追われてんのか……?)
ハバキは剣を抜いており、シヴはそれを見て戦闘中だと判断した。
シヴも剣を握り、ハバキに向かって手を振る。
「おーう! 俺が引き受けるから得物を下ろせー!」
しかしシヴの声は風切り音に邪魔をされ、高速で走るハバキには届かない。
ハバキからは逆光で姿も確認できないため、そのまま構えを解かずに迫る。
(何だありゃ気付いてねえのか? いや……、もしかして俺に向けてんのか?)
ハバキが構える剣の対象が自分だと気付いたものの、かといってハバキを斬る訳にもいかない。
しかしハバキの馬は速度を落とさずにこちらへ向かって来る。
(ちっ、やるしかねーか!)
間も無くハバキと自分が交錯する。
剣を握りしめてその瞬間を待つ。
ハバキが駆る馬を躱し、脚に力を込めて上半身を前に倒したシヴは、そのまま大きく地面を殴るように右手を振り下ろす。
逆手に握られたシヴの剣が、ハバキの剣を根元から両断した。
斬り飛ばされた刀身は近くの木に突き刺さる。
ハバキはそのままの速度で走り去ってしまった。
(アレンの奴も乗ってやがったのか、馬で送ってもらうなんざ楽しやがって。)
小さくなっていくハバキとアレンを眺めながら、シヴは愛剣を背中に収める。
そして振り返り、木に突き刺さったハバキの剣を見て思う。
(弁償なんかしねーからな……。)
エルフの国へ向けて、シヴはまた走り出した。




