火龍に会いに行きます①
さて、ここからどうするか。
俺達の町から北に進んだ所に領主館、火龍が住むという山は町から西。
町を経由して馬を使って山の近くまで行く、というのが良さそうではあるが、キイに確認は取っていないしそもそもキイにはエヌの事を頼んだばかりだからな。
真っ直ぐに龍の穴を目指したほうが良さそうだ。
「お待たせしました、こちらが先程の茶葉です。」
ローランが丁寧に包んでくれた茶葉を受け取り、鞄に入れる。
「お部屋の用意もすぐにいたしますね。」
ん?
「いや、泊まる気はないんだけど?」
「え?」
俺はすぐに向かう気だったんだが、どうも認識が違ったようだな。
「火龍の牙については特に急いでる訳じゃないけど、エヌの事は出来るだけ急ごうと思ってな。」
そう言うとローランは真剣な表情で俺を見る。
「……巻き込んでしまい申し訳ありません。」
「いいんだよ、少しでも情報が欲しかっただけだろ?」
無言で俺を見つめるローラン。
「ただ、あんなやり方じゃなくて普通に言って欲しかったかな。とは思う。」
「はい、申し訳ありません。アレン様がご自身でどう判断するのかも知りたかったものですから。」
「試したのか?」
「そう取っていただいても構いません。アレン様がエヌの事をお聞きになられる事無くお帰りになられたとしたら、それはそれで仕方無いと考えておりました。」
「まあな、ローランのメイドとしての立場もわかるし、知り合ってまだ日が浅いからな。気にはしてないよ。」
「ありがとうございます。」
ローランは礼を言いながら深々と頭を下げる。
「今後はこういう回りくどいのは無しだ、直接言ってくれ。」
「はい、そういたします。」
鞄の中をもう一度確かめて、西の山へのルートを教えてもらい地図に書き込む。
しかしそう言えば今日は朝食しか食べてないな、腹が減った。
「なあさっきの件だけど、気にしてはないけど許すとは言ってないよな?」
「そうですね……。……はっ、もしかして私の操を……?」
俺をどんなやつだと思ってるんだ……。
「いやいや、どうしてそうなるんだよ。お腹空いたからさ、歩きながら食べられるような物をちょっとだけでいいから用意してくれないか?」
「……ああ、それくらいの事でしたらすぐにでも。少々お待ちください。」
何故か残念そうな顔をしているのがよくわからない……。
プライドを傷付けちゃったとかかな?
ローランは俺の携帯食を用意する為に領主館に戻る。
帰ってくるまでにもう一度地図を確認しておこうと鞄に手を突っ込んだところで、背後の扉が開いた音がした。
鞄の中を漁りながら聞いてみる。
「ローラン早いな、丁度夕食の残りがあったとか?」
「いや、悪いがそんな贅沢はしていない。」
ローランでは無い声に驚いて振り返ると、そこには鎧を着たハバキ様が立っていた。
「すいません! てっきりローランかと思いまして!」
鎧には触れずに取り敢えず謝る。
「な、何を慌てているのだ?」
「何って……、やっぱり領主様ですし失礼がないように? かな?」
ハバキ様はそれを聞いて吹き出した。
「ふふっ、やはり貴公達は面白いな。どちらかと言えば貴公達の方が立場は上だろうに。」
いや、そうは言ってもなあ。
そりゃ女王様に大公様な二人は一緒に住んでるけど……。
「俺は平民ですよ?」
「いやいや、三英雄の一人だろう?」
ああ、魔族の国の事ね、まだそんな事言ってるのか。
「暴れたのはシヴとキイですから、話をしたのはトビーですし、俺はその場に居ただけですよ。」
「隠さなくていい、その時の事はビーちゃんに詳しく聞いたのだから。貴公が居なければ今の和平はあるまい。」
トビーめ余計な事を……。
死なないから罠を全部一人で受けただけだろうが。
「いや、まあいいですその事は。それよりハバキ様のその恰好は?」
「ふふ、実は久々に魔物狩りでもしようと思ってな。」
ああ、だから鎧か。
しかしこんな時間からか、やっぱり変わった人だな。
そう思っていると領主館の裏手から、馬を一頭連れてローランがやってくる。
狩りに出る為の馬だろう、おそらく名馬だな、よくわからないけど。
「アレン様、ハバキ様、お待たせしました。」
「いや、助かるよ。悪いな無理言って。」
そう言ってローランから食事の入った包みを受け取る。
ハバキ様はそれを見てクスクスと笑っている。
「どうかしましたか?」
ローランがハバキ様に尋ねると、ハバキ様は馬の手綱を握りながらこちらを見る。
「自分で気付いていないのか? 私よりアレン殿の名が先に出たぞ。」
「もっ、申し訳ありません!」
咄嗟に謝罪するローラン。
ハバキ様は別に怒ってはなさそうだが。
「良いんだローラン、むしろ私は嬉しいよ。」
そう言ってハバキ様は馬に跨り、ローランがやって来た方向へゆっくりと戻って行く。
あれ? そっちにも出入口があるのかな?
「アレン様、お達者で。私はアレン様の無事を願い、お待ちしております。」
ローランがそう言いながら俺の横に来て、手を握る。
「いや、そこまで心配するような事では……」
言い掛けたところで手を思いっきり引っぱられた。
そのままローランを中心に回転させられ、勢いで庭の方へ投げ出される。
「何をっ!?」
何とかバランスを取りながら顔を上げると、こちらに全速力で向かって来るハバキ様の馬が目に入る。
「はははは! 疾風のキリコ! 出るぞ!」
「ふざけんなっ!」
轢かれる! と思った時にはすでに避けられる距離ではなく、どうせ死にはしないからとすでに諦めていた。
次の瞬間、俺はふわりと宙に浮き、気付けば馬の背に居る。
ハバキ様がすれ違いざま俺を掴み上げ、後ろに乗せたというのは理解した。
「お気をつけてーー!」
ローランが手を振っているのが小さく見える。
「これ、する必要ありました?」
「こちらが言っても貴公は遠慮して断るだろう? それに……」
「それに?」
「この方が格好良いだろう。」
あっっっきれた……。




