紅茶を手に入れます①
「もうすぐ領主館に着きますよ。」
ローランに言われ窓から顔を出すと、進行方向に大きな建物が見えた。
大きさは俺達の家とあまり変わらない。
大きく開かれた門扉を通って馬車は庭の中央を抜けて屋敷の入り口の前へ停まる。
庭は広く手入れが行き届いていて、様々な花が咲いている。
「綺麗な庭だな。」
「ええ。ハバキ様も陛下も花がお好きですので。」
「そっか、いいなこういうの。維持するのは大変だろうけど。」
「領の特産品に出来る物がないかの実験も兼ねていますので、多少お金はかかっておりますよ。」
なるほどな、ただ贅沢してる訳じゃないって事か。エルフの国と貿易が始まれば新しい品種なんかも来るんだろうか。
ローランの案内で屋敷の中へ、本来ならココノエさんが迎えてくれるらしいが、当然今は居ない。
代わりに気の強そうなおばさんメイドが迎えてくれた。
「御機嫌ようクレアさん、ハバキ様はどちらに?」
「……執務室だよ。」
クレアと呼ばれたおばさんメイドはローランの目も見ずに面倒そうに返事をした。
うん、これは全然歓迎されてないな。
「国王陛下は?」
「もう帰ったに決まってるだろ。」
「そうですかどうも。では失礼します、さ、アレン様。」
ローランは仮面の笑顔で会釈すると俺を促す。
どう対応していいかわからないので無言でローランについて行くことにした。
正面の階段を上がりながら、ローランに尋ねる。
「何ださっきの。」
「お気になさらず、私ここの使用人達には嫌われておりまして。」
「何かやったのか?」
「いえ、逆です。メイド服は着ておりますがここではメイドではありませんので何も致しません。それが気に食わないのだそうで。」
「しょうもない。」
「師匠は何でも完璧に恐ろしい早さでこなしますので、何もしない私は師匠のおかげで置いてもらっているだけ、と思われているのです。」
「出来るところを見せてやればいいじゃないか。」
「間諜が私の仕事だと言ったでしょう? 他の方々は当然それを知りませんから、居候だと思われている今の状態で良いのです。」
あんまり気分は良くないが、ローランがそう言うなら俺がでしゃばる話じゃないか。
そうしているうちに大きな扉の前でローランは立ち止まる。
「こちらです。」
どうやらここが執務室らしい。
大きくコン、コン、とノックをするローラン。
「入れ。」
扉越しにハバキ様の声が聞こえた。
「失礼します。」
扉を開けながらローランが挨拶をし、無言で俺も続いて中に入る。
椅子に座ったハバキ様が大量に積み上げられた書類とにらめっこしているのが見えた。
「おかえりローラン、悪いが見ての通りでな、報告だけ聞こう。」
「構いません。では……」
ローランの報告とやらは、俺達の家に来る前の調査内容から、町の人達の生活、改善点、噂話に至るまで事細かに行われた。
ハバキ様は時折相槌を打つ程度で、静かにそれを聞いていた。
「今回私が気になった点は以上です。」
「ご苦労だったな。で、何故アレン殿がここに?」
ああ、気付いてはいたのか。
「実は火龍への手土産に珍しい紅茶が欲しくてですね、ココノエさんなら持ってるかもしれないってローランに聞いたものですから。」
「ふむ、確かにココノエは時折見た事もない紅茶を淹れてくれることがあるな。」
おお、これは期待できそうだな。
「アレン様をレイラの所へお連れしても?」
「ああ、構わない。それが終わったらこちらを手伝って貰えるか?」
「畏まりました。では、失礼いたします。」
ローランはハバキ様にお辞儀をしてから俺を見る。
「参りましょう。」
「ああ、うん。ハバキ様すいません、忙しいのにお邪魔しちゃって。」
「貴公は私の友人だと思っているし、大恩もある。遠慮などせずいつでも来て欲しい。」
大恩ってのはなんだろう、魔族との和平を手伝った事なのか、それともトビーとくっつくように仕向けたのが俺だってバレてんのかな。
しかしトビーが居ない時はなんか凄く格好いいなハバキ様。
軽く会釈をしてローランと執務室を後にする。
「ではご案内致します。姉として先に謝っておきます、レイラは本当に失礼な生き物なので、どうかお怒りを抑えられますよう何卒。」
そこまで言わなくても。
というか俺は口が悪いくらいで怒ったりしないから大丈夫だと思うんだけど、魔族の国に乗り込んだって話をしてから少し勘違いされている気がする。
「心配しなくてもいいよ、どれだけ酷い事言われてもローランの給料減らすくらいで済ませるから。」
「わ、私のお給金が無くなるかもしれませんね……。覚悟はしておきます。」
「冗談だよ……。」
真顔で心配されると不安になるからやめて欲しい。
来た時に馬車で通った綺麗な庭を抜けて、庭を囲む柵沿いに西へ少し進むと、レイラさんとココノエさんが居ると言う診療所へと辿り着いた。
入り口のドアを開けると真っ白な服を着た女性が出迎えてくれる。この人がレイラさんだろうか。
「ローランちゃ~ん、お帰り~。」
「ただいまナギ、師匠はどうかしら?」
「なんかね~、凄く回復早いよ~!」
ナギって呼んでたしこの人ではなさそうだな。凄く緩い空気出してるし。
少し碧がかったロングヘアを首の後ろで結んでいて、終始笑顔のおちびさん。
「その人は誰~? ローランちゃんの~彼氏~?」
「条件付きでそうなる事もある、という感じかしら。」
条件ってさっきのあの男か、嘘でもないし突っ込みにくいな……。
「わあ! 先越されちゃった~。」
「冗談よ、国王陛下とハバキ様のご友人で、今の私のご主人様。アレン様と仰るの。」
「なんだ~、ナギで~す、よろしくお願いしま~す、アレン様~。」
「よろしく。」
なんというか、全体的に緩くておっとりしているというか、ナギがいると時間の流れが遅くなる感覚だな……。
「ナギは普段は王都で医者をしております。私と同じ年齢ですが、一応こう見えて彼女も医術にはかなり長けていますよ。」
なんと……、本当に人って見た目や第一印象じゃわからないもんだ、てっきり助手かと思ったがこのおっとりさんがお医者様とは。
「なんで王都の医者がここに居るんだ?」
「ナギはレイラを師と崇めておりまして、暇さえあればこちらに。」
無免許医を師と仰ぐ王都の医者か……。
でもローランが友達のように接してるのを見るのは新鮮だ、年齢が同じだからなのか単に馬が合うのかはわからないが。
「レイラは居るかしら?」
「奥にいるよ~。」
「そう、ありがとう。」
ついにレイラさんと対面か、楽しみだ。




