メイドアサシンのファン①
途中厨房の前を通ったが人の気配は無かった。少なくとも準備は終わったようだ。
そのまま通り過ぎ、ローランの部屋のドアをノックする。
ドアノブが回り、小さな鞄を持ったローランが出て来た。
「遅れてごめん。」
「いえ、では参りましょう。」
ローランとトールさんの店に向かう、そういえば店の場所はまだ知らなかったな。
「トールさんの店は近いのか?」
「噴水広場の所です。」
ああ、そんなに時間はかからなそうだな。
「その鞄は何が入ってるんだ?」
「下着ですよ。」
「ごめん。」
領主館に帰るって事は、今のローランは完全武装って事なのを思い出して冷や汗をかいた。
「冗談です、トールさんの所で使う書類ですよ。下着も入っておりますが。」
それくらいならトールさんの所に置いておけばいいと思うんだが、トールさんはそんな管理も出来ないのかな。
……出来なさそうだな。
宿屋の前を通り過ぎ、噴水広場に着いて辺りを見まわす。
ここがこの町の丁度中央に当たるらしい。
俺達は南の方向から来た。北には役場や学校等の公共施設が集中している為、俺はあまり用事がない。
東西の道は商店が多く、特に西側が活気がある。東にはタークスさんの不動産屋や家具屋がある、昔からこの町で営業しているような老舗が多い印象だ。
「どっち?」
ローランに聞いてみた。
「勿論西ですよ、最初は北の人通りの少ない場所にあったのですが、私がやるようになってから軌道に乗ったので、事務所だけは西に引っ越しました。」
「だけは、って事は北にもまだ店はあるのか?」
「馬を置いております。」
「そっか。」
少し早足のローランについて西に向かう。
西の大通りは人通りも多く、学生だろうな、若い子達も結構歩いている。
途中路地に入り込み、少し歩いたところで一階がカフェになっている二階建ての建物が目に入る。
ローランはそこで止まった。
「休憩か?」
「いえ、ここの二階を借りているのです。」
ローランはカフェのマスターに挨拶をして、外の階段から二階へ上がる。
勿論俺もついて行く……、つもりだったのだが、企業秘密が沢山あるから駄目だと言われ、カフェで少し待つ事になった。
「ここの紅茶は美味しいですよ。」
とローランが言うので、威圧と受け取って素直に言う事を聞く。
「おいあんた、ローランさんのとこで働くのか?」
カウンターで紅茶を楽しんでいると、別の席の男が話しかけて来る。
ナインハルト程ではないが女性にモテそうな顔で、ちょっと軟派な感じだが服のセンスもいい。
「いや、その予定は今の所ないけど?」
もしかしたら将来お世話になるかも知れないが……。
「じゃあ何なんだ? やけに親しそうにしてたけど。」
何だと言われてもな。
おまえこそ何だって話だしな。
「ローランのとこって言うか、そもそもトールさんの会社だろ?」
「あんまり知られてないから無理もねーけどよ、トール人材商会はローランさんが居るからここまで成長したんだぜ?」
俺は事情通なんだぜ? と自慢でもしたいのか、勝ち誇った顔で男は言う。
ていうかトール人材商会っていうのか、少しも捻ってなくてトールさんらしいな。
「だから?」
「実質ローランさんが居なきゃ成り立たねんだからよ、ローラン人材商会みたいなもんだよって事よ。」
こいつは何をべらべらと聞いても無い事を話して来るんだ。
「そうじゃなくて、ローランが頑張ってるから何だって聞いてるんだ。どうでもいいだろそんな事。」
俺がそう言うと男は少し頭に来たようで、身体ごとこちらを向いて頬杖をつく。
「さっきからあんたローランさんを呼び捨てにしてるけどよ、あんたこそローランさんの何だよ。」
何だよと言われてもな。
ハバキ様とかが絡んだせいでごちゃごちゃしてよくわからなくなってるけど、一応最初にちゃんと雇用契約したし、雇い主? だよな。
「やと……」
「恋人です!」
店の入り口で腕を組み、お怒りのローランがそこに居た。
「そ、そんな馬鹿な……、この冴えねえ野郎がローランさんの……?」
何が始まったんだ一体……。
「そうです! 私達はもう一緒にお風呂に入る仲です、分かったらお引き取り下さい!」
いや、嘘ではないけど……。
「嘘に決まってる! 俺は信じない!」
「信じるも信じないもご自由にどうぞ、ですがこれは事実ですので。」
理由があるんだろうし嘘ですよって言い出し辛いな。
「おいあんた!」
ん、俺か?
「何?」
「今の話は本当なのか?」
一応話は合わせておくか、後からローランに説明してもらおう。
「本当だ、一緒に風呂に入ったし、もうこんな距離でローランのローランを目撃した。」
身振り手振りを交えて余計な情報を省いた事実だけを言ってやる。
「ちくしょう! てめー、顔は覚えたからな!」
男はカフェから走り去っていった。
満足気なローランと状況が飲み込めない俺と、一連をカウンター越しから見ていた筈なのに冷静にグラスを磨いているカフェのマスターが取り残された。
「仕方ないので今日はツケておきましょう。」
マスターはグラスを磨く手を止めるでもなく、ボソリとそう言った。




