火龍に会う為の準備をします④
「そんな病気は聞いた事がないのじゃ。」
買い物を済ませて家に戻り、キイの所在を聞くと自室に居ると言う。
キイは部屋で妹、エルフの国の現女王ミームへ宛てた手紙を書いている最中だった。
150年も生きていればあるいは……、と期待したのだが、返って来た言葉はそれを裏切るものだった。
「どんな些細な情報でもいいんだけど。」
「いや、悪いのじゃが……。」
「そっか……。あ、でも一応見に行ってやってはくれないか?」
「うむ、それは勿論なのじゃが、ワシでは力になれぬと思うのじゃ。」
「病気……、いや、呪いかもハッキリしてないんだけどさ、とにかくそのエヌって子はその出来物のせいで孤独なんだよ。友達になってあげて欲しいんだ。」
「そうじゃな、そういう事なら明日にでも行って見るとするのじゃ。」
「頼んだ。一応火龍に会った時にも聞いてみるよ、ただ、ハバキ様はエヌの事を知ってるみたいだから、トビー経由で火龍にも聞いてるかも知れないんだけど。」
「ありえる話じゃな。」
「だとしたら魔法使いくらい派遣してやっても良さそうだと思うんだよなあ。」
そう言うとキイはペンを置いてこっちを見た。
「お主、魔法使いに会った事はあるのか?」
「え? いや、無いけど。」
「じゃろうな。」
どういう事だ、トビーの権力でどうにもならないとでも言うのか?
「ギルドで小銭を稼いでいるような者くらいならまだしも、上位の魔法使いなんぞ碌な物ではないのじゃ。特に人間の魔法使いにはまともな者はおらぬと思っておいて良いぞ。」
「そうなのか?」
「うむ。魔法という力を使える自分が、神に選ばれた特別な存在じゃと信じて疑わず、他の生物は全て虫けらのような扱いじゃ。」
「全員って訳じゃないんだろう?」
「少なくともワシが会った事がある魔法使いは皆そうだったのじゃ。そして他の者から聞く限りでもな。」
何かあれだな、想像では辛い修行を乗り越えた人格者みたいなのを思い浮かべるんだけど、そうでもなさそうだな……。
「ただし人間の魔法使いだけじゃがの。」
ほう、という事は。
「シヴの嫁さんに聞けって事か?」
キイは無言でニヤリと笑って、また手紙を書き始めた。そういう事じゃ、ってとこかね。
しかしなるほど、呪いだとしたら魔族に聞くのが確かに確実そうな気もする。
そうなるとまた魔族の国まで行かないといけないのか……。
「ありがとう、邪魔したな。エヌと友達になる件、頼んだぞ。」
「どうせ明日からこの屋敷はワシ独りじゃ、任せておくが良い。」
キイの部屋を後にして、明日もしかしたら送ってもらうかもって言い忘れた事を思い出した。
まあいいか。
1階に上がって厨房のローランの様子を見に行く。
今やっている夕食の準備が終われば出発する、ということだが。
「ローラン、どうだ?」
「どうもアレン様。お話はお済みですか?」
「うん、キイは明日エヌに会いに行ってくれるみたいだ。」
「お心当たりは……?」
俺は無言で首を振って返す。
「そうですか……。」
ローランも俺と同じく期待していたのだろう、残念そうな表情を浮かべた。
「ただ、もう一つだけ希望があるんだ。」
「希望と申しますと?」
「ココノエさんもローランも、勿論ハバキ様も持ってないツテがあるんだよ。」
「一体どのような?」
「魔族の王様、魔王様だよ。」
ローランは少し訝し気な顔をする。
「魔族の国に攻め入ったのはお聞きしましたが、普通はそのような者には会いたくないと思う物では?」
「ん~、俺達の感覚だとな。でもまあ魔族は結構変わり者が多くてね、特にシヴなんかは熱烈なラブコールを受けてるんだよ。」
「魔族の方からですか?」
「うん、それで付いたあだ名が【シヴの嫁】。魔族の方って言うか魔王の娘さんなんだけどさ。」
「こ、婚姻を……?」
「まさか、一方的にシヴが好かれてるだけだよ。大嫌いな許婚を目の前でシヴがボコボコにしちゃったから、自分を救いに来た白馬の王子様に見えたんじゃないかな。」
「アレン様……、聞けば聞くほど興味しか湧いてきませんので、いずれ詳しくお聞かせ願えますか?」
「ん? ああ、別に良いけど。」
「私の方はもうすぐ終わります、終わり次第すぐに向かいますので私の部屋でお待ちください。」
「わかった、準備してからローランの部屋に行くよ。」
俺は自室に戻って買って来た服と解毒薬を旅用の革袋に押し込む。
捨てるつもりの服を着て、クロウの頃の持ち物から、短い旅には不要な物を削る。
一応短剣は持って行くか、何が出るかはわからないからな。
最後に買って来たカーテンを窓に取り付けて、部屋を出た。
思ったより時間がかかってしまった、ローランの部屋に急ごう。




