入居します24
風呂から出た後、トビーとハバキ様、それに目を覚ましたナインハルトはすでに帰ったと聞かされた。
ようやく長い一日が終わり、初めてこの家の住人だけで過ごす時間。
「騒がしい奴らが居なくなったな、ローランは特にだけど、みんなもお疲れ様。」
誰からというでもなく自然に、庭の見える部屋、そうトビーの挟まった部屋に集まり皆くつろいでいる。
「私はメイドですから当然ですよ、労いの言葉痛み入ります。」
風呂に入る前に仕事はここまでって言ったからか、メイド服は着ているものの、ローランも椅子に座っている。
「やっとゆっくり出来るのじゃから、乾杯といかぬか?」
「おういいな、庭の飯は確かに美味かったんだが、食った気がしねえ。」
シヴは残り物だったからな、やっぱり暖かい物が食べたいだろう。
「では何かお作り致しましょうか。食材はほとんどありませんが何とか致しましょう。」
そう言って立ち上がろうとするローラン。
有難い、とはいえローランをこれ以上働かせるのも忍びないな、そう考えていたらシヴがローランを止めた。
「いや、いい、俺が何か買って来る、宿屋の食堂なら頼めば融通してくれんだろ。ついでに酒も買って来るわ、果実酒は甘ったるくていけねえ。」
シヴは窓を開けてそこから出て行こうとする。
「財布は?」
「持ってるよ。」
ああなるほど、最初から買い出しには行くつもりだったんだな。
「お言葉に甘えさせていただきましょうかねえ。」
ローランは少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべたが、シヴの気遣いを断る方が失礼だと思ったんだろう、椅子に座り直した。
「まあ昔から買い出しはシヴの仕事じゃから気にする事もないじゃろう。」
「そうなのですか?」
「うむ、四人で旅をしていた頃からの話じゃが、シヴともう一人は料理が出来んかったからの、自分が当番の日にただ焼いただけのコゲ肉を食べるくらいなら、買い出しは毎回行くからまともな料理を頼むと自分から申し出たのじゃ。」
「あら、四人いらしたんですか?」
「そうじゃ、アレンは二人で旅をしておったのじゃが、そこにワシが入り三人、シヴが入り四人になり、あやつが抜けて今の三人になったのじゃ。」
「クロウとして隊を組めば色々ありますでしょうからね。」
ローランは深く聞くつもりはないらしい、使用人の立場なので、理由によっては失礼になってしまう恐れがありそうな話題は避けたのか。
別に喧嘩とか裏切りとかが原因ではないので聞かれても困る訳じゃないんだが。
「俺達はそいつを探して旅を続けていたんだよ、魔族の国に行ったのも、そこなら居るんじゃないか? ってトビーに言われたからだ。」
「魔族の国に行かれた事があるんですか?」
「ああ、ローランにはまだ言ってなかったか、和平が結ばれる前、トビーと一緒に魔族の国に乗り込んで暴れたのは俺達なんだ。」
「そうだったのですか! ではあの恥ずかしい二つ名の方々は……?」
「そうだ、俺達の事だよ。その記憶だけは消してくれ、口にしたら多分ローランは死ぬ事になる。」
「自分で名乗ったのだとしたらかなり残念な人ですものね、ご苦労なさったようで。」
初めて同情してくれる人に会ったかもしれない。
「でも全然手掛かりが無くてね、俺達が世界を探し回るよりあいつが俺達を見付けて現れてくれる方が確実なんじゃないかと思ったんだ。」
「それでこの家を。」
「そういう事。」
「その方はアレン様達を探しているのですか?」
「ああ、この世界に居るなら探してるのは間違いない。」
「この世界に居ないおそれが?」
「そうなんだ、元々別の世界から来たとか言ってたから、もしかしたら自分の世界に帰ったのかもしれないんだけど。」
「よく……、わかりませんね。」
「ああ大丈夫、俺も良くわかってないんだその辺。一緒に旅はしてたけどあんまり自分の事は話さない奴だったからね。」
「ワシもあやつの事は詳しくは知らんのじゃ、あのシヴが敵わぬ程の強さと、何が起きても笑っていられる豪胆さくらいしかの。」
「師匠を一方的に打ち負かしたシヴ様が敵わないのですか。」
「そうじゃ、シヴがクロウになって一緒に旅を始めたのもそれが理由じゃからな。今では勝ち負けなどどうでも良さそうじゃが。」
「私もいつかお会いしてみたいですね、その方に。」
「会えるさ。」
「?」
「ここに居れば必ずいつか会える、俺達の所に帰ってくる。」
「そうじゃな、ワシとアレンは良いが、シヴとローランが寿命で死ぬまでには帰ってきて欲しいものじゃ。」
たまにキイの言う事が冗談なのか本気なのか、そのどちらともなのかわからない。
そうこうしている内にシヴが帰って来た、大きな皿一枚と酒瓶を二本。
「シヴにしては控えめだな。」
「流石にもう小腹が空いた程度だろうと思ってよ、寝る前だしこんくらいで丁度いいだろ?」
確かに。
つまみ程度で十分だな、ローランは食べるのか食べないのかよくわからないし。
「グラスを持ってまいりますね。」
ローランが席を立ち、厨房の方へ出て行った。
「何の話してたんだ? あまり楽しそうにゃ見えねーが。」
「最強の事だよ。」
「ああ、なるほど。ローランに話したのか。」
「核心は言ってない。」
「ふ~ん、ま、いいや。この酒買いに途中酒場に寄ったらよ、あいつまだ放置されてたぞ。」
「あいつ……って、コゲパンの人?」
「そうそう、飼い主はとっくに帰っちまったよな、薄情なやつだぜ。」
「で、どうしたの?」
「酒場に迷惑掛かるからよ、ギルドの前に捨てて来た。」
「シヴも大概だと思うんだけど。」
「死にゃしねーよ、ナインハルトにゃ明日説明しとけばいいだろ。」
すっかりナインハルトが子分のような扱いになってるな、一応上司みたいなものだと思うんだが。
「お待たせいたしました、乾杯といたしましょう。」
ローランが人数分のグラスと、氷の盛られた器を持って戻ってきた。
キイと俺は果実酒、シヴとローランはシヴの買って来た酒をそれぞれグラスに注いで、一斉に俺の方を見る。
「な、何だ?」
「何だじゃねーよ、おまえの家だろ?」
「そうじゃ、同時にワシらの家でもある、今日は記念すべき初日じゃぞ?」
「そうですよ、ご主人様。」
「「「乾杯の挨拶を」」」
俺が音頭取るのかよ……。
…………まあいいか!
「シヴ、キイ、今までありがとう。今日から新しい生活が始まる、ローランも含めて皆で頑張って行こう! これからもよろしく。 乾杯!!」
「おう! よろしく頼むぜ!」
「ワシの方こそこれからも頼む。」
「これから粉骨砕身、と言ってもしばらくはここに居る日だけですが、目一杯ご奉仕させていただきますよ。必要とあらば寝室に呼んでいただいても構いません。」
「それは駄目じゃ。」
「冗談です、私処女ですから。」
「ローラン、氷くれ。」
誰が騒がしい奴らがいなくなったって? お前らも十分騒がしいよ……。
でも何て言うか嫌じゃない、心地良さすら感じる騒がしさ。
俺達の家と、あいつの帰ってくる場所が出来たんだなあ。




