蹂躙された風呂ンティア⑤
「ところでトビーとハバキ様は何でここにいるんだ?」
シヴに迎えが来るからと言って別れたと聞いた事を思い出した。
「ああそれなんだが、予定の時間になっても馬車が来なかったのだ。ココノエは入院してしまったし、祝いの品を取りに一度領主館に戻ったりしたので正確に伝わっていないのかもしれない。」
ハバキ様のスケジュール管理も執事の仕事なのかな。
ていうか領主館に戻ったのは狩りの中止を伝える為だったと思うが。
「泊まる部屋はありますけどベッドはありませんよ?」
「いや、そこまで迷惑はかけられない、ローランに馬を手配してもらって帰るつもりだったのだ。」
じゃあなんで風呂にいたんだ……。
「畏まりました、後程2頭連れて参りますね。」
ローランはそう言うと、立ち上がって一礼して風呂から出て行こうとした。
さっきのローランの話では親からかなり殴られていたという事だが、特に大きな傷が残っている訳ではなさそうだ、綺麗な肌をしている。
脱衣所への扉に手をかけてローランが振り向いた。
「アレン様、私は別に構いませんがじっくり見過ぎでは?」
「す、すまない! つい……、その、傷が残ってなくて良かったなって思ってさ……。」
「冗談ですよ、構いませんがと言ったでしょう?」
ローランは悪い笑顔を浮かべながら出て行った。
「では私もそろそろ失礼を……」
ナインハルトが立ち上がろうとする。
「いいけどおまえさん、今行ったらローランと脱衣所で鉢合わせだぞ?」
「うっ、そうでした……。」
シヴに言われてまた座り込んだ。
「ローランちゃんが馬を取りに戻ってくれるなら僕達は準備しておかないとねえ。」
今度はトビーが立ち上がろうとする。
「そ、そうなんだがビーちゃん……。」
「ん? どしたの?」
ああ、そうかハバキ様は唯一まともな感性を持ってたんだった。
「キイ、折角巻いたとこ悪いんだけど、頭のタオルをハバキ様にあげて。」
「なんと、折角巻いたのに貸せと言うのかの?」
「なんで繰り返したんだよ、そう言ってるんだよ。」
「なんじゃ……、折角巻いたというのに……。」
渋々ハバキ様にタオルを渡すキイ、それをハバキ様は申し訳なさそうに受け取った。
「よし、準備オッケーだビーちゃん、待たせた。」
体にタオルを巻いた途端強気になるハバキ様、この中にいるから気付きにくいだけで、やっぱりこの人も変な人だ。
二人が脱衣所へ消えた後、ナインハルトが待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、さっきと同じ台詞を言う。
「では私もそろそろ失礼を……。」
「おまえそれ前見えてないだろ、脱衣所まで行けんのか?」
「心配ご無用です、ここの地形は先程頭に叩き込んでありますから。」
「地形っておまえ、戦闘に行く訳じゃねーんだぞ。」
「私が居たのは角、シヴ様が隣に居た事を考えるとおそらく脱衣所から一番遠い角でしょう、この場所と脱衣所を直線で繋ぐと間に国王陛下とハバキ様がいた筈ですが今は居ません。まっすぐ進めばキイ様を見る事無く目的地へと辿り着く事ができ……」
「うるさいのじゃ。」
キイが立ち上がりナインハルトの目隠しを勢いよく剥がす。
腰に手を当て、あられもない姿で目の前に立つ美しいエルフが目に入り固まるナインハルト。
俺の前にはキイの尻。
「入るなら入る、出るなら出るでさっさとするのじゃ。」
ナインハルトは意外にもキイをじっと見つめている。
と思ったのだが、あまりの衝撃で白目を剥いて気絶していた。
「おい、どうすんだこれ……。」
「どうするって言われてもなあ……。」
「なんじゃ、ワシが悪いとでも言うつもりかお主達。」
「いや、悪いとは言わねーけどよ……。ちょっと堅物ギルドマスターくんには刺激が強すぎたみたいだな。」
「それだけじゃないんじゃないか? 女王の裸を見るなんて、ナインハルトからしたら大犯罪だろ。」
「思考が追っ付かなくなっちまったか。」
「何でも良いからどうにかするのじゃ。」
「へいへい。俺も上がるとするわ、いい風呂だったな、こりゃアレンには頑張ってもらわなきゃな。」
キイに言われてシヴがナインハルトを担ぐ。
頑張ってもらわなきゃってのはおそらく火龍の牙の事だろう。
「そうだな、毒は嫌だけど怪我する訳じゃないからマシだ、頑張るよ。火龍も話が分かる龍みたいだし。」
シヴとナインハルトが出て、キイと俺だけになった。
キイは相変わらず風呂を満喫している。
「キイ、そういやさっきローランから何言われたんだ?」
「さっき?」
「ほら、昨日と同じ場所に座ってどうだの言ってたろ。」
「う……、あ、あれはじゃな……。」
「うん。」
「その……何というかじゃの……。沐浴では特になのじゃが……、女王の右は王の、席……、なのじゃ……。」
「ああなるほど、失礼に当たるぞって事か?」
「そ、そうじゃ、その通りじゃ! 人間にエルフのしきたりなんぞ押し付けてしまった事は反省しておるのじゃ。」
ああ、そんな自分が恥ずかしくなって顔真っ赤にしてたのか、そこまで人間の世界に合わせなくてもいいのにな。
「そっか、でも自分を責めても仕方ないだろ、お互いの文化は尊重しなきゃな。一緒に住むんだしちょっと気を付ければ済むくらいの事なら俺達も合わせられるんだから、遠慮なく言ってくれ。」
「わ、わかったのじゃ、すまんの。」
「いいっていいって、じゃあ俺も移動した方がいいか。」
「……なくて良い。」
「え?」
「い、移動はしなくて良いのじゃ。ワ、ワシの方も折れる努力をせんとな。」
「そっか? わかった。」
女王だというのにこの謙虚な姿勢、どっかの王様に爪の垢でも飲ませてやりたいくらいだな。
俺達はその後しばらくここに至るまでの思い出話なんかに花を咲かせたが、お湯も温くなって来たので上がる事にした。
排水口の蓋を外すとお湯が勢いよく吸いこまれていく。
「ほう、これはどこに流れて行っておるんじゃろうの?」
「さあ、向こうの栓を抜いたら川から水が入ってくるってシヴは言ってたけど。」
「あの理論では川に水は帰らんじゃろう?」
「まあそうだな、ここより低いとこまで繋いでたら別だけど。」
「なるほどのう。では次からは一晩冷ましてから流した方が良いのう。」
「あっ、しまったそうだな、お湯を川に入れちゃったかも……。」
「大きな川じゃったし一回くらい大丈夫じゃろう、シヴにも後で伝えておくのじゃ。」
「キイ」
「なんじゃ?」
「見れるんなら見れた方がそりゃ嬉しいんだけど、やっぱり少しは恥じらった方がいいと思う。」
排水口の蓋を持つ俺の横で腕を組み、顎に手を当て興味深げに吸いこまれるお湯を見ているキイ。
眉を片方上げてこちらを見た。
「必要ない、エルフの文化にも合わせてくれるのじゃろう?」
確かに言ったな俺。




