執事とメイド⑥♦
ミュウと別れた後、ココノエは死ぬ準備をしていた。
勿論本当に死ぬつもりという訳ではない。
深夜、ココノエはターゲットが入院している病院へと向かう。
当然警戒されており、ターゲットの雇った男達が警備を固めていた。
ココノエはその男達の前に堂々と姿を見せる、しかし見た目はただの品の良い年寄り、誰もそれが伝説になっているアサシンだとは思わなかった。
「爺さん、ここは立ち入り禁止だ、ボケてんのか知らないがちゃんと明日の朝来いよ。」
警備にあたる男の一人が、ココノエを追い払おうと近付いてくる。
「すまないがこれが最後の仕事でね、少し派手にやらさせてもらう。」
「何言ってんだ? やっぱりボケてやが……」
男はココノエの肩を掴もうと手を伸ばす。
その瞬間、男の腕が飛んだ。
「あああああああっ!!」
男は腕を押さえ叫ぶ。
ココノエは痛みに悶える男の喉に刃を当て、ゆっくりと引いた。
声が出せなくなり、のたうち回りながら死を待つのみの男と、その横に立ち、両手に細い片刃の剣を持つ老人。
「今の声は他の者にも聞こえただろう……。心配するな、あの世への旅路は賑やかになるぞ、全員斬るからな。」
倒れた男に一瞥もせず、両手の剣の刃先を地面に向けたままココノエは病院の入り口を潜った。
何度も襲撃にあいながら、ゆっくりと病院内を歩くココノエ。
その後ろには襲い掛かってきた男達の亡骸が倒れている。
襲い掛かる者は全て一閃で切り伏せ、ターゲットの元を目指す。
病院の関係者、他の患者は殆どいない、ターゲットの男が数名の信頼した人間だけ残して締め出したからだ。
やがてターゲットの病室へと辿り着いたココノエは、静かにトビラを開けた。
開けた瞬間中に居た男の一人が斬りかかって来たが、それを剣で難なくいなし、中へと入る。
「昨夜はすまなかった、苦しませてしまったね。」
ターゲットの男はベッドの上で、早く殺せ、あいつを殺せと叫んでいる。
しかし、ココノエはすでに毒をたっぷり塗った投げナイフを警護の男達に放った後だった。
「ああ、もう叫ばなくて大丈夫だ、すでに全員始末してある、残ったのは君だけだよ。」
足音を立てずに少しづつターゲットの元へ近付いていくココノエ。
この時点ではターゲットの男が身体強化の薬を飲んでいる事を知らないココノエだが、使えば必ず死ぬ毒から生還した事からこの男が何かしていて、毒殺に頼らない方が無難だと判断していた。
「君が毒が効かない特異体質なのか、何か他のからくりがあるのかは知らないが、流石にその首を飛ばされても生きているという事はないだろう。」
刃に付いた血を拭き取りながら静かに語りかける。
男は恐怖に怯え、全身を震わせながらココノエを見る事しか出来ないでいた。
「さて……。そうだなこれがいい、一番歳上に見えるしこれが一番強そうだ。」
ココノエは毒で倒れた男達の中から選んだ死体を持ち上げると、その手に自分の剣を一振り握らせた。
「これでいい。随分お待たせしたね、次は君の番だ。」
そう言って部屋の隅で怯えるターゲットの首に残った剣を振り下ろす。
ターゲットの首は飛ばさず、辛うじて残り数センチの肉と皮で胴体と繋がったままだった。
ココノエは先程の剣を握らせた死体の胸に、ターゲットの首から抜いた剣を突き刺し、それをターゲットに握らせる。
代わりに死体に握らせた剣をターゲットの首に挟んだ。
(先生、これで本当にお別れです。)
中に仕込んだ仕事道具と一緒に、着ていたカルコザのコートを死体に羽織らせる。
(後は依頼人が勝手に広めてくれるだろう。)
裏の世界の住人なら誰もがその名を知るが、誰も顔を見た事のない伝説のアサシンココノエは、この日を境に死んだ事となる。
(最後の仕事は終わった。アンコールに応える準備をするとしよう。)




