執事とメイド⑤♦
70になってもココノエは衰えず、その伝説は続いていた。
レイラの死をきっかけに、善人だろうが悪人だろうが高額の報酬を取るようになる。
魔族との和平が結ばれ、魔族がターゲットとなる事もあったが、未だ一度として請けた仕事を失敗したことは無い。
但し、レイラより年齢が下と思われる女性が依頼に含まれていた場合は断り、場合によっては依頼しようとする者を消してきた。
あの本は20年経った今でも、拠点としている部屋に保管してあり、何度も何度も読み返している。
ある日の事、仕事の為に訪れた地でココノエはレイラと瓜二つの娘を見付ける。
あの日のレイラと顔立ちも背格好も、おそらく年齢も近いだろうと思った。
レイラの死はとうに受け入れている、「まさか」等と思う事はないのだが、その娘が何故か気になった。
しかし明るく朗らかだったレイラと違う所がある。
娘の目に生気は無く、手足には痣。
使いに出されているのだろうか、酒瓶を抱えふらつきながら歩く姿に、ココノエ自身の虐待されていた過去が蘇り重なる。
その日は遠くからその娘を見送った。
翌日、ココノエはまた同じ場所に立っていた。
娘は現れなかった。
この日、ココノエは初めて仕事でミスを犯す。
ターゲットが奇跡的に毒から生還したのだ。
後から知る事になるのだが、魔族の国で身体強化の薬という物が高額で取引されており、それをターゲットの男が服用していた為だった。
殺した筈のターゲットが、サツマタケの毒から生還した事を町から出る直前に知ったココノエは、自分の腕も落ちたものだと引退を決意する。
とはいえ、仕事は完遂しなければならない。
ココノエは踵を返し、人目につかない場所で武器の手入れでもしながら陽が落ちるのを待とうと考え、路地裏に入る。
そこにはあの娘がいた。
娘はココノエの姿を見て怯えたが、ココノエは静かに近付く。
「やあ、私は君の敵じゃない、安心していい。そこは私の特等席でね、どこか行けとまでは言うつもりは無いのだが、少しだけよけてくれるかな?」
娘は無言で横にずれる。
「君はこんなところで何をしている? 誰かと待ち合わせるような場所には思えないが。」
「早く家に帰ると苦しいのが長引くから……。」
「家で何かされているのかね?」
「うん、あの人達は私が要らないみたい……、家に居ると何度も殴られる。」
「あの人達というのは?」
「お父さんとお母さん……。」
「なるほど。」
「お父さんがいない日はあんまり殴られないんだけど……。」
「なるほど。」
「お爺さんはどうしてここへ?」
「私は……、そうだな、私はお前に生きる方法を教えに来た。」
「奴隷商の人……?」
「なぜだ?」
「お父さんが良く言うの、お前は馬鹿だけど、顔だけはいいから体を売って生きていくしかないなって。」
「なるほど。」
「口癖なんですか?」
「何がかね?」
「なるほど、ってやつです。」
「なるほど……。はは、こいつはいい。私はココノエだ、アサシンをしている、といってももう廃業する予定だがね。」
「アサシン……って?」
「金を貰って人を殺す者達だよ。」
「じゃあ私を殺しにきたんですか?」
「まさか、私には娘がいてね、いや、いたと言った方がいいか。それが君とそっくりなんだ。」
「死んじゃったの?」
「ああ、病気でね。」
「そうなんだ……。」
「名前を聞いてもいいかな?」
「ミュウ」
「そうか。ミュウ、父と母を捨てて生きていく気があるのなら、私が喜んで面倒見よう。」
「殺すの……?」
「ああ、引退記念だ、サービスで無報酬で請けてあげよう。」
「でも人殺しなんて……。」
「私も両親を殺した。」
「え?」
「私もミュウと同じだ、親から虐待され続けた。そして逃げ出し、師匠に出会い、アサシンの技を覚えた。」
「そんな風には見えません……。」
「しかし事実だ、私はこの手で親を殺した。」
「悲しくなかったんですか?」
「ああ、不思議な事に何とも清々しい気分だったよ。その場で師匠と笑いあったくらいだ。」
「ココノエさんの師匠って何をしてるんですか?」
「死んだよ。」
「そっか、そうですよね、ココノエさんより年上なんですもんね。」
「いや、寿命じゃない。」
「えっ……と、誰かに返り討ちにあっちゃったとか?」
「いや、私が殺した。」
「ど、どうしてですか?」
「師匠は私の妹を殺したんだ。だからその場で私が殺した。」




