蹂躙された風呂ンティア③
「トビーが王になってからだから、5年くらいですか?」
「もうすぐ5年になるな、最初は当然警戒していたのだが、今では信頼している部分の方が大きいかもしれない。」
ココノエさんとローランは突然訪ねて来た、と言ったが、よくそんな危険人物と5年も同じ屋敷に住めたものだ。
「僕が読んだ限りではハーちゃんに対して悪意は無さそうだったからね、反対はしないでおいたんだよ。ま~、今日みたいに突然血が騒ぐ事もあるみたいだからいつ心変わりしてもおかしくは無いんだけど……、とか何とか思っているうちにもう5年だよ。」
「何があって廃業しようと思ったんだろうな。」
「さあねえ、その時考えてる事しか読めないから。」
そう言ってトビーは肩をすくませた。
「でも一緒にローランを連れてたんですよね? ローランが何か関係してるとか?」
「それが、ローランの事は領主館に来る途中で拾った、としか言わなくてな……。」
ハバキ様は腕組みをして目を閉じた。
「僕も尋ねた事あるけど、それは嘘ではなさそうだったね~。僕がいるとすぐにどこか行っちゃうんだよね彼、僕嫌われてるみたい。」
「コ、ココノエは騒がしいのが苦手なだけなのだ、決してビーちゃんの事を嫌ってなど……。」
「大丈夫大丈夫、気にしてないから。ハーちゃんには僕が居る時の彼の心の中は言えないね~。」
まあトビーが嫌われるのはいつもの事だからいいとして、ローランはアサシン時代からの弟子じゃなかったのか。
「それにしても来る途中で拾った、って……。」
「お答えしましょう。」
ローランの話をしていると、突然脱衣所への扉が開いて、その奥からバスタオルに身を包んだローランと、俯いて目を閉じているナインハルトが登場した。
「ナインハルトは無事に目覚めたようじゃの。」
「はい。ただ、予想通り皆様がお上がりになってからでいいと駄々をこねましたね。」
「わ、私は駄々をこねてなど……。」
反論しようと咄嗟に顔を上げてしまったナインハルトは、タオルどころか一糸まとわぬ姿のキイを見てしまい、そのまま流れるように土下座姿になる。
「申し訳ありません! そのようなつもりなど無かったのです! この眼を潰されても文句はありません、どうかお許し願いたい!」
「トビー、ナインハルトは何と言っておるのじゃ?」
「う~ん……、そのままだね! こんな誠実な人間はなっかなかいないよ。」
心の底から謝罪というのはまさにこの事か。
許してくれるなら眼を潰されてもいいなんて、裸を見てしまったハプニングくらいで本気で言っててよく今まで五体無事で生きてこれたな。
「ナインハルト、ワシは気にしておらんから許すも許さんもないのじゃ、さっさと服を脱いで湯に浸かるのじゃ。」
「そ、そんな事はできません……、陛下もいらっしゃるのに私のような者っ!? …………が?」
土下座からそのまま土下寝になるナインハルト。
上に視線をずらすと、吹き矢を持ってニコニコしているローランの姿があった。
「だから言ったろーが、さっさと入れちまえば良かったんだよ。」
シヴは湯船から出て、脱衣所の方へ向かう。
身体中に大小様々な傷痕、浮き出る太い血管。
普段シヴはゆったりと崩した着流しを着ているのであまり感じないが、ごつい。
いつもは後ろに撥ねている金髪も、濡れて整ったオールバックになっている。無精髭は剃らないのか。
どうやらローランを手伝うつもりらしい。
「結局シヴ様の案になってしまいましたね。」
手早くナインハルトの服を脱がし、一応腰にタオルを巻いてやる情けはかけるローラン。
シヴが抱えてローランが桶でお湯をかける。
こうしてみるとナインハルトも傷だらけだな、ダコタでオウルをしてたんだからそりゃそうか。
肌が白いのは5年間ギルドマスターとしてデスクワークに追われていたから、といったところか。
「角なら横には倒れねーだろ。」
シヴは浴槽の角にナインハルトを置くと、さっきまでいた場所に戻ってまたくつろいだ。
湯船に入れられたナインハルトは、少しだけ微笑んだように見えた。気のせいか。
ローランはキイとハバキ様を交互に見て、少し考えるしぐさを見せたかと思うと……。
バッ!と突然身体に巻いていたバスタオルを取り去った。ローランは丁度俺の目の前に立っていたので、一気にローランの事を色々知る事になってしまう。
外したバスタオルを手慣れた感じで頭に巻き直すローランだが、それは風呂の中でやればいいんじゃないのか、常に色々俺の視界に入っているのだがそれはいいのか。
「ローラン、お主……。」
「はい?」
珍しくキイが注意しようとしている?
「その巻き方、後でワシにもやり方を教えて欲しいのじゃ。」
そんな訳なかった。
「ええ、勿論。私は肩までの長さでいつも揃えておりますからこの巻き方ですが、キイ様の御髪の長さならもっと良い巻き方がありますよ。」
ローランは肩までの黒いストレートヘアーをバスタオルで器用に包んで、キイと俺の間に座る。
「ローラン、お主昨日の宿屋でもその位置に自然と陣取ったが、何か意味があるのかの?」
そういえばそうだったな、でも意味なんかないだろ、そこが一番座りやすそうだったとかじゃないのか。
「あら。ふふ、申し訳ありません。」
ローランはそう言うとキイに近付いて耳打ちをした。
「そ、そういう訳では……。」
キイはローランに何かを言われ、もごもご言いながら鼻の下まで湯船に潜る。
ローランはそれを見てクスクスと笑いながら、俺の左から右へと移動した。
「さて、お待ちかねの私と師匠の出会いですが……。まず第一に、拾われたというのは厳密に言うと嘘になります、結果として拾われた形にはなっておりますが……。」
「どういう事だ?」
ハバキ様も聞いたことの無かった話のようだ、興味を引かれている事がわかる。
「私は、師匠に両親を殺してもらいました。それが仕事としては師匠の最後の殺しになります。両親が死んで自由と平穏が手に入る筈だったのですが、私が無知だったせいで、それは絶望へと変わります。」




