執事とメイド①♦
ココノエは夢を見ていた。
何十年も昔の自分の夢。
幼き頃から両親に虐待を受けながら育ったココノエは、12の頃にその地獄から逃げ出す。
逃げ出す際に持ち出して来た金で船に乗り、遠く離れた町へ逃げのびはしたものの、すぐに金は底を突く。
どこの者かもわからない12歳の少年に仕事をくれる者等おらず、腹が減ればゴミを漁り、雨に濡れれば凍えて震える、野良犬のような生活を送っていた。
そんなココノエに対して、路地裏で優しく声を掛けてくる男が現れる。
長身のその男には左腕が無く、使い古された長い革のコートを着ていて、切れ上がった細い目に眼鏡をかけている。
「やあ、俺はお前の敵じゃない、安心していい。そこは俺の特等席でね、どっか行けとまでは言わないんだが、ちょいとずれてくれるか?」
カルコザという名のその男は、ゆっくりとココノエの横に座り、怯えるココノエにこう言った。
「実は何日か前からお前の事が気になっててな、観察させてもらったんだ。欲しければ、殺して奪えばいい。何故おまえはそうせず、ゴミを漁る?」
ココノエは大人が怖かった。
虐待が続く中で、大人には勝てない、逆らえば殺される、そう刷り込まれていたのだ。
ココノエは、大人に逆らえば殺されるという恐怖心から、カルコザの質問に素直に答えた。
「そんな事、僕の力じゃできません……。」
「出来るようになったらするのか?」
「できるようになっても……、多分しません。あの人達みたいになりたくないから。働けるなら働いて生きたい。」
「あの人達ってのは?」
「……僕の、両親……です……。」
「なるほど。」
「あなたは僕を捕まえにきたんですか?」
役所の人間かも知れない。
奴隷商人かもしれない。
もしかしたら両親から雇われて自分を始末しに来たかもしれない。
ココノエはどれかだろうと思った。
自分と同じ生活をしているのならば、鼻を突く臭気でわかる。
だが、ココノエの予想はどれも外れだった。
「違うな、俺はお前に生きる方法を教えに来た。」
「盗賊なんですか?」
「何故だ?」
「さっき、殺して奪えばいい、って……。」
「なるほど。」
「孤児院とかだったら行きたくないです、両親に見つかりたくないので……。」
「なるほど。」
「口癖なんですか?」
「何がだ?」
「なるほど、ってやつです。」
「なるほど……。はは、こいつはいい。」
カルコザはケタケタと笑いだす。
ココノエは警戒を解いてはいけないと頭では考えつつも、つられて笑ってしまった。
「殺して奪うのは両親と同じになるみたいだから嫌だって言ったな。お前の親はそんな事してたのか?」
「違います、けど、似たようなものです。自分より弱い人達を虐めて、お家を取り上げたりしてるって言ってました。」
「なるほど、じゃあ、逆にそういう奴らがいなくなっちまえばいいとは思わないか?」
「そりゃ、思いますけど……。」
「だよな、俺はそういう仕事をしてんだ。」
「正義の味方ですか?」
「ちょーーーっと違うかな。正義の味方って奴はよ、お前の両親も助けなきゃならないんだぜ?」
「なぜですか、あんなに酷い事をしてるのに。」
「そうだなあ、お前を助けるために逃がすとかはあるかもしんねえな正義の味方も。でも命は奪えない。それが正義の味方だ。」
「そうなんですか? よくわかりません……。」
「そうだよな、俺もよくわかんねえ。でもこれだけは言えるぜ、俺ならお前の両親、見つけ次第殺すね。ついでにお前も殺すかもしんねえ。なぜならその時の俺はお前の境遇なんか知らないだろうし、お前に顔を見られでもしてたら仕事続けられねえ。お前にいつか復讐を受けるかも知れねえし、そもそもお前が生きてちゃ困るって話かも知れねえ。ここが正義の味方との違いだな。」
やはり危険な男に違いなかったとココノエは思った。
しかし、ココノエは逃げる気にならなかった。
興味の方が大きくなってしまい、この男をもっと知りたいと思うようになっていた。




