蹂躙された風呂ンティア②
俺達は今、それぞれ思い思いの場所で湯船に浸かっている。
「いやー、熱い風呂は最高だな。」
シヴは浴槽縁に両肘を乗せて、天を仰いで上機嫌だ。
キイは身体中に殺意を漲らせてトビーを睨みつけたところで、ハバキ様の必死の謝罪を受け何とか自分を取り戻した。
今は怒りも消え、風呂を満喫している。
トビーは終始笑顔だが、キイの方を向かないようにはしているみたいだ、ハバキ様の手前だからというのもあるんだろうが。
そのハバキ様だが、トビーの後ろで小さくなっている。
ていうかこれが普通の反応だよな。
「ハバキよどうしたのじゃ、折角の風呂なのだからもっとくつろげば良いのじゃ。」
「し、しかし……。」
「なんじゃ見られるのが恥ずかしいのかの? お主はもっと自分に自信を持って良いぞ。」
「そ、そういう意味ではありません……。」
ハバキ様はトビーと同級生だって言ってたな。
「トビーって何歳なんだよそういえば。」
トビーに直接聞いてみる。
「僕は今年で30年生きた事になるねえ。」
じゃあハバキ様も30か、あくまで学校の同級生ってだけで多少の前後はあるかもしれないが、それくらいだろう。
緩いウェーブの黒いロングヘアー、胸は大きくも小さくもないが、元騎士だけあって鍛えられた身体。
何でトビーなんかを好きになっちゃったんだろうな、さぞもてただろうに。
「ア、アレン殿……、その、あまりじろじろと……。」
「ぅえっ!? ああ! すいませんそういうつもりではなくてですね! な、なんでトビーを好きになったんだろうな~って考えてただけなんです!」
なんてこった、完全に変質者じゃないか。
いや、同じ風呂に入ってて今更な気もするが……。
「今では信じられないかも知れないが、学生時代のビーちゃんはかっこよかったんだ。成績はいつも一番で、でもその事も王子であることも、鼻にもかけない自然体でな。たまに見せる少し影のある表情に気付けば……。」
「何言ってんの、成績はハーちゃんが一番だったじゃないの。」
「あれはわざとだろう、ビーちゃんが解き方を教えてくれた問題を、私が正解してビーちゃんが間違うなんてことがある筈がない。」
「僕は心が読めるからね、いつもカンニングしていたのさ、その時はカンニングした相手が間違っていただけだよ。」
「ふっ、そういう事にしておくよ。」
ごちそうさま……。
何年も叶わないと思っていた恋が叶って、今この二人は無敵状態だな。
「なぜそこまで赤裸々に自分の恋を語れるのに、裸を見られるくらいで恥ずかしがるのかが良くわからんのじゃ……。」
「キ、キイ様のように美しくはありませんので……。」
見るとキイは長いブロンドの髪を、頭の上に上手く纏めている最中だった。
月並みな言い方だが、キイは透き通るような白い肌で、弓を引く時に邪魔になると愚痴をこぼすくらいに胸は大きい。
耳はエルフの特徴でもある、長く尖った耳で、緑の小さなピアスがキラリと光っている。
「風呂は疲れを取るところだ、変な気起こすようなバカはこの家にはいねーから安心しな。」
シヴは相変わらず天井を向いている、目を閉じて時折鼻歌まで歌っている始末だ。
ハバキ様はそこまで言われて少し安心したのか、もしかしたら諦めたのかも知れないが、少し緊張がほぐれた気がする。
「シヴ殿には迷惑をかけた、このような場所だが再度重ねてお詫び申し上げたいと思っていた。」
「あ? 俺なんかされたか?」
「ココノエの件だ、完全に私の力不足だと自覚している。」
「あ~、あれか、もう忘れてたわ。飼い犬はちゃんと鎖に繋いどけ。とは思ったが、ありゃ最初から狂犬だってわかってて飼ってんだろ? 全然気にしてねーよ、大体お前さんのせいじゃねーだろ。」
「私は狼のつもりで飼っていたのだがな……。」
「そもそも何であんな奴を使ってんだ? あいつは殺ししか出来ねーだろ。」
「私が領主になってすぐの頃に、ココノエがローランを連れて屋敷に現れてな、引退したいから雇ってくれと言って来たのだ。私ではココノエに勝てないと思ったし、なによりこのまま断ってまた野に放つのもどうかと思ったので、ココノエの真意を探る為に了承したのだ。」




