蹂躙された風呂ンティア①
「大丈夫そうか?」
失神したナインハルトを膝枕し、パタパタと扇いでいるローランに俺は声をかける。
「血は出ていませんからね。呼吸も脈も正常ですしその内気が付くと思いますけど。」
良かった、シヴがナインハルトを肩に担いで降りて来た時は、何をやらかしたのかと焦ったが……。
「そういやトビーとハバキ様は?」
「ああ、もう迎えが来るからって風呂場で別れたぞ?」
「あれだけかき回しといて最後は挨拶も無いのかよ……。」
「俺達の目の前で口づけしやがったからな、もう完全に二人の世界だなありゃ。」
「何だそれ……。」
「いや、そのままだ。領主様はなかなかやる女だよ。トビーを黙らせろって言ったらブチュー、ってな。」
「そういう人には見えなかったんだけどな。」
「他に何にも思いつかなかったんじゃねーか、顔真っ赤にしてたぞ。」
よくわからないが、シヴ達の目の前でキスしてしまったのが恥ずかしくて、逃げるように帰って行ったというところだろうか。
「取り敢えず、片付けも終わって客もみんな帰って風呂は沸いてる、それでいいんだよな、他に何かあるか?」
「あー、それで間違いねーけどよ、片付けが終わったってのはまあ微妙かもな。」
「どういう意味だよ、シヴのテーブルで最後だったろ。」
「その、すまん、薪が足りなくてよ、焼いちまった。」
「する予感はしてたよ……。」
自然と溜息が出る。
「まあでもよ、そのおかげで風呂が沸いたんだ、あの犠牲は必要だったっつーわけよ。」
「わかったわかった、それはいいよ。燃やしてしまったものは仕方ないだろ。」
「そうじゃの、それより冷めないうちに早く入るのじゃ。の?」
キイがそわそわしているのが伝わる。
「じゃあナインハルトは俺達が見てるから、先にキイとローランが済ませてくるといい。」
「いえ、私は使用人ですから。」
ローランは今更よくわからない使用人の線引きをしてくる。
「もうそういうのはいいから、はい、お仕事はここまで。」
「あらありがとうございます。では私もお供させていただきますねキイ様。」
俺はキイとローランが二人で仲良く浴場へ向かうのを見送って、ナインハルトの看病を……。
とはならなかった。
「ん? あれだけ広いのじゃからみんなで入った方が楽しいじゃろ? 後から来るという意味かの?」
ほんとおまえ何言ってんだ? みたいな顔で俺を見るキイ。
「いや、いくら広くてもみんなで入る訳には……」
「あらいいですね、薪が足りないと仰ってましたし、交代で入っていては温くなってしまいますよ。」
間違いなく名案だ! みたいな顔で俺を見るローラン。
この二人に羞恥心は存在しないのか。いや、キイは知ってたけどローランまでこうだとは思わなかった。
「でもナインハルトの看病もしないといけないだろ、放置する訳にはいかない。な、シヴ?」
「ん? ああ、めんどくせーから服脱がしてそのまま入れちまえよ。」
そういう事じゃないだろ。
「いくらなんでもそんな無茶苦茶できるか、頭打ってるんだろ。いいからキイとローランは先に風呂に入ってこい。」
「皆で入るのじゃ。」
「みんなで入りましょう。」
「俺もできりゃ熱いうちがいーんだが。」
わがままが過ぎる。
「わかった、じゃあみんなで入ろう、でもそれならナインハルトが目覚めてからじゃないと駄目だ。そもそも風呂焚きをしてくれたのはナインハルトだ。」
「何という事じゃ……。」
「早く目を覚まさせましょう。」
「いやそのまま服脱がせて湯船にぶち込めばいいじゃねーか。」
「……もういいよ、俺は後から入るから三人は先に入ってて……。」
面倒になったので追い払う方向で話を進めようとしたら、ローランが手を挙げた。
「それでしたら私が看るのが当然でございますね。ごゆっくりどうぞ。」
ローランが初めからこの流れを考えていたんだとしたら大したものだ。
結局俺とキイとシヴ、いつもの三人で先に入る事になった。
「こいつは起きたら絶対渋って入ろうとしねーと思うがな。」
「まあお前達と違って常識人だろうからな……。」
「何言ってんだ、お前さんが一番常識外れじゃねーか。」
「身体の話じゃない。」
「すまぬがローラン、そやつを頼むのじゃ、必ず後から来るのじゃぞ。」
「はい。ギルドマスター様がお目覚めになったら、昏倒させてでもお連れしますね。」
それじゃあシヴの案と変わらないだろ……。
と、ゴタゴタはあったものの、結局一番風呂を堪能できることになったのは少し嬉しい。
ローランが抜けた事でいつもの三人だ、長い旅を共にしてきた中で、水浴びや風呂に三人で入った事は何度もあるので今更そこに抵抗はない。
脱衣所でそれぞれ服を脱ぎ、浴場へのドアを開ける。
白い湯気が浴場に充満していたが、開けたドアから抜けて、少しづつ視界が良好になっていく。
「キイが最初に入るといいよ、感動の一番風呂だ。」
「よ、良いのかの、ワシが一番風呂を頂いて良いのかの?」
「おう遠慮すんなよ巨乳ババア。」
「次言ったら無視一年じゃ。」
「すまねえ、反省してる。」
ゆっくりと湯船に近付くキイの尻を眺めていると、妙な事に気付いた。
湯気の中に人影のようなものが見えるのだ、それも二つ。
白い湯気の中で二つの黒い影、嫌な予感がして、思わずキイの手を掴んで止めてしまう。
「ど、どうしたのじゃ?」
「静かに!」
こちらは丸腰だ、シヴが居るとはいえ、向こうが武器でも持っていたら無傷とはいかないかもしれない。
警戒しておくに越したことはない。
ゆっくりと湯気が抜けて、二つの人影がだんだんハッキリしてくる。
緊張でとても長い時間が経ったように感じたが、これで正体が……。
「やあ! お先にいただいてるよ!」
「す、すまん、邪魔している。」
ニッカリと歯を見せるトビーと、トビーの陰に隠れるハバキ様。
記念の一番風呂を取られ、絶望と失望に膝と両手を着くキイ。
無視して桶でお湯をかぶり始めるシヴ。
立ち尽くす俺。
カオスだった。




