叶わぬ物、叶える者③
「ではハバキよ、ワシの前へ来るがよい。」
キイがハバキ様を呼ぶ。ハバキ様は状況が理解できないままだろうが、騎士として作法は染みついているのだろう、それでも余計な口は挟まずキイの前へスッと歩み出た。
「これからお主に重大な使命、それに伴いエルフ国家に於いての爵位を与える。」
「今何と!?」
落ち着いているように見えたが、流石にこれには驚きを隠せなかったみたいだな。
「一体どういう事ですか? 私は何もエルフの国に貢献など……」
「まずはこれから話す事を聞くのじゃ、女王の御前である。」
「はっ! 失礼致しました!」
ハバキ様は片膝を着いて顔を伏せる。
キイはそのハバキ様の頭に手を当て、ゆっくりと語りかけた。
「ハバキよ、これからワシが聞く事に、嘘偽りなく答えると誓えるか?」
「誓います。」
「よし、顔をあげるのじゃ。今の誓い、決して違えぬようにの。」
ハバキ様は黙って顔だけあげて、キイを見上げた。
「では、問う。ハバ=キリコよ、お主は平民の出で、並々ならぬ努力にて騎士になり、その能力、誠実さを見込まれ現在の領主の座についた、そうじゃな?」
「平民から騎士になったのは間違いございません。その先は私には預かり知らぬ事でございます。」
「トビーよ、如何か。」
「そうだよ~、ハーちゃんはただの騎士にしておくには勿体ないのさ。ここの前の領主君はひどい男でね、大地主というだけで民を苦しめ、王都の貴族達には賂ばかり。ハーちゃんみたいな人間こそ余の国には必要だからね~、元領主君は悪いけどご退場願ったんだよ。」
そうだったのか。
下から吸い上げた金を賄賂にしてやりたい放題やってた前領主を証拠を掴んで失脚させ、トビーの命令で代わりにハバキ様がここを統治する。
どれだけ頑張ったのかはわからないが、町の人達は幸せそうだった、その幸せを作り出したのはハバキ様に違いないだろう。
「うむ、王にそう言わせるくらいじゃからの、お主はそれほど信頼に足る人物で間違いないという事じゃなハバよ。」
「身に余る光栄でございます。」
「では、次の問いじゃ。ハバ=キリコよ、お主は貿易によりこの地をさらなる発展に導こうとしていると聞いたが、真かの?」
「間違いございません、領内貴族がそれぞれ治める小領地の名品、特産品を他領地へ輸出、また逆も然り。領主館が窓口となる事でこれまで個人では難しかった物等も大きな利益を生んでおります。」
「その利益はどう使われておる。」
「もちろん、領内の維持発展の為に。」
「私腹を肥やしておるのではないのか?」
たまりかねてトビーが口を挟む。
「そんな訳ないだろう? ハーちゃんは小領地の貴族達よりよっぽど慎ましい生活をしているんだ。ハーちゃんが領主になってから孤児院がどれだけできたと思うんだい? ハーちゃんが領主になってからどれだけのインフラが整備されたと思うんだい? ハーちゃんが領主になってから……」
「もうよい、わかった。ではハバ=キリコ、これからはエルフの国とも貿易を行う事は可能か?」
「エルフの国とですか? しかしエルフの国はそれぞれが自由意思で……。」
「これから作る。もちろん技術の流入流出はこれまで幾度となくあったが、事業として輸出産業という物はなかったからの。幸い現女王ミームはワシの何倍も外交に長けておる、少しひな形を作ってやればすぐに発展させるじゃろう。」
〔やだ照れるぅ〕
「ん! んんっ!」
何故か突然大きく咳ばらいをし出すキイ。トビーはそれを見て笑いを堪えているように見える。それより今何か聞こえた気がしたが、気のせいか?
「ど、どうじゃハバ、やってくれるか?」
「はっ! 勿論です。エルフの国の品々を欲しがる者は多い、エルフの国の発展にもお役に立てる事を誓います。」
「よし、ではお主にエルフの国での爵位を与える。貿易を始めるのじゃ、今後エルフの国の大臣達とも顔を合わせる必要があるからの、人間の国で爵位を与えられていないのならば仕方ないの。人間の国ではただの領主じゃからの? そうじゃの、トビー?」
「わかった、わかったよ。じゃあその貿易を理由に余からハーちゃんに爵位を与えるって約束するよ。今は男爵だけど、どうしようか。」
「エルフの国ではそうじゃな、まずは女王直々に貿易事業の舵を取ってもらうとしよう。女王に謁見が許されるとなると、せめて侯爵くらいは無いとのう?」
「いくら何でもいきなり侯爵は無理があるよ、領主だし伯爵くらいならなんとかなるかもしれないけどねえ……」
「ふむ、では人間の国では伯爵を与えよ、我がエルフの国に於いてはハバキを公爵とする。良いな?」
「わ、私が公爵ですか?」
ハバキ様が素っ頓狂な声を上げた。
「そうじゃ、何か問題があるかの? エルフの国の、が付くとはいえ、貿易は国を挙げての事業になるかも知れんのじゃ、第一人者には公爵くらい与えてもよかろう?」
キイがトビーをチラチラ見ながら挑発している。
「あーもう! わかったよ! じゃあその貿易、上手くいって国に利益をもたらしたら侯爵にする! それでいいかい!?」
「よし、それでよい。ではハバよ、最後の問いじゃ! 先程の誓いを思い出すのじゃぞ。」
この場で一番混乱しているのはハバキ様だろうな。でも、ここからが本題なんだ、頼むぞキイ。
「ハバ=キリコ! そなたは国王トビーに恋をしている、間違いないか!」




