入居します㉒
貴族はハバキ様に連れられ庭へと向かったが、その後ろ姿からは哀愁が漂っており、死刑台へ向かうかのような足取りだった。
その後、ローランが真っ黒に焦げたパンと焼き直したパンを持って戻ってくるまで、さして時間はかからなかった。
焦げたパンは倒れている男の口にねじ込まれる。
「他人様を狼藉者呼ばわりする狼藉者の従者の食事など、こちらで十分ですね。」
その言葉と共に、従者の男はローランの蹴りで通行の邪魔にならないところへ移動させられた。
俺とシヴはローランからパンを受け取り、皆がいる庭とは逆に向かって歩き出す。
「で、何されたんだ?」
「ん? 何がだ?」
「何がだ、って何かされたか言われたかしたんだろう?」
「あー、あいつな。いや、俺の見た目が悪いだのその剣は見せかけだろうだなんて言うからよ。」
「え? それだけ?」
「それだけだ、他になんかあるか?」
「聞いてるのは俺なんだけど。いや、いつもはそんくらいの挑発に乗るような奴じゃないじゃないか。」
「買い被り過ぎだぜ、ムカついたら殴りもするさ。」
いや、それは困るだろいくら何でも。
俺達は適当な木陰を見付けて座り、パンを齧る。
「まあココノエさんの事もあったしピリピリしてたんだろう。今回は仕方ないけど、今後はそれくらいで問題起こすのは我慢してくれよな。」
「わーってるわーってる、虫の居所が悪かったんだよたまたまな……、うめーなこれ。」
「うん、すげー美味い。ハバキ様がローランの料理を楽しみにしてるの理解できるな。」
「嬉しい事言って下さいますね。」
振り返ると窓からローランが顔を出して、頬杖をついてこっちを見ていた。
「何だ聞いてたのか。いや、これ凄く美味いよ、確かに店が出せる域だ。これから食事の時間が楽しみになりそうだよ。」
「あら、求婚ですか?」
なぬ。
「アレン、おまえさんちっと手が早すぎねーか?」
シヴまで!
「おい、からかうなよ、俺は素直に褒めてるのに。」
「ふふ、お受けしようと思ったのに残念です。お飲み物もご用意致しましょうか?」
「ああ、頼む。シヴも飲むだろ?」
シヴはすでにパンをたいらげて指をしゃぶっていた。
「おう、冷たくしてくれ、氷蟲がいたらできるんだろ?」
「はい、パンも追加しておきますね。」
「おっ、出来るんなら頼むぜ。」
庭の料理も楽しみだ、貴族に興味はないけどさっさと全員揃ってくれればいいのに。




