入居します㉑
なんだこの状況は。取り敢えずシヴが倒れてる男をどうにかした事だけはわかるが。
「あれってまずいんじゃないの?」
「う~ん、どうですかね。私は凄く愉快ですが。」
「いやまあ、シヴは簡単に人を殺すような奴じゃないけどさ、簡単に殺せる力は持ってるよ?」
「まあそうですねえ。一応止めに行きますか、気乗りはしませんけど。」
貴族っぽい男の怒号が響く中、ローランとシヴの所まで行く。
シヴは相手にしてないようで、玄関の扉にもたれて空を見ていた。
「何だ貴様はああああ!? この無礼者の仲間かああああああっ!!」
いや、近くに居るんだから大きな声出すなよ……。あと剣を向けるな。
「シヴ、何があったんだ?」
「お、早かったな。飯は?」
「いや、この有様でおまえ……。」
「冗談だよ、ギャンギャンうっせーからどうにかしてくれやローラン。」
「困りましたねえ、これだけ騒がしいと庭にも聞こえていると思いますが……。」
ローランの予想通り、騒ぎを聞きつけて庭の方からハバキ様がやって来た。疾風のキリコの割に遅いな。
すぐに五月蠅い貴族がハバキ様に食いつく。
「ハバ殿! この身分を弁えない汚い男は何者だ! この場にて相応の罰を!」
それに対しては何も答えずに、ゆっくりと目視で状況を確認しようとするハバキ様だったが、ローランと目が合った際にローランが肩を竦めて見せたので何かを察したようだ。
「どうしたハバ殿! 私の従者に狼藉を働いたこの男を許すわけにはいかぬぞ!!」
「ふむ、デンゼル殿、何があったかは聞かなくても大体わかるが、どちらが先に仕掛けたのだ?」
「な、何の事だ! どちらが先など関係ないであろう! 貴族に対してこのような下賤の輩が……」
「この方は剣聖様のご子息だ。」
「な……?」
デンゼルとかいう貴族が、あれだけ騒いでいたのに固まってしまった。
ひたすら強さを追い求める奴らが集まるのが剣聖の地で、もちろん剣聖も政治なんかに一切興味はないのだが、体裁上剣聖は大公となっている。
剣聖の治める地は治外法権、剣聖の言葉が法であり、強さだけが価値。獣人族と似たような世界であるものの、こちらのほうがストイックで単純だ。
剣聖が死んだ事は公にはされていない……。というか俺達と先代剣聖の側近達しかシヴと剣聖の試合を見ていないので、側近達はその場でシヴを剣聖と認め、そのシヴは拒否、誰にも言うんじゃねえと命令したものだから、【剣聖の言葉が法】の剣聖の地では本当に誰にも知らされないまま、というわけだ。
剣聖になろうとすれば、先に側近を退けて剣聖の前まで行く必要があるので、辿り着ける奴が現れない限りはばれないだろ、というのはシヴの談。
とにかく、一応名目上はシヴは大公の一族なので、無礼を働いたのはデンゼルの方という事になる。
「ハバキ、次からは要らん事言うんじゃねえ。おまえもだ、この事は口外するなよ、そんな偉いもんじゃねえ、俺ぁ下賤の輩でじゅーぶんだよ。」
「は、ははあ……。」
「すまない、これが一番手っ取り早く終わると思ったものでな。」
シヴが嫌がるのはわかってたって感じだな、ハバキ様。この人も中々、喰えないみたいだ。
「へっ、下らねえ。それより飯はどうなったんだ?」
「あっ!」
ローランが慌てて厨房に走って行った。そういや火、点けてたね。




