入居します⑳
夕日が町を赤く照らし始めた頃、ローランの料理が庭のテーブル達に次々と並び始める。勿論料理を運ぶのはハバキ様を含めて俺達も手伝った。
トビーとトールさんは、本当に何をそんなに話す事があるのかと思うくらいにひたすら話し続けているが、ナインハルトは俺達が忙しそうにしているのを見て手伝わせて欲しいと申し出たので、遠慮なく手伝ってもらった。
「お一人目のお客様がお見えになりましたよ。私が対応致しましょうか?」
ローランが来客を知らせてきたが、まだ調理が残っているそうなので対応はハバキ様に任せることにした。俺達の家なんだが、呼んだわけでもないしそもそも知らない人だし。
「わかった、こちらに通せばよいのか?」
「そうですね、キイも行かせた方がいいですか?」
「いや、私一人で大丈夫だ。皆キイ様に挨拶する為に来ているのに、そのキイ様に玄関で対応させるのもおかしな話だからな。」
「そんなもんですかね。」
「ああ。できるならキイ様には奥の部屋で待機してもらって、皆が集まってから厳かに登場を……」
会話を聞いていたようで、キイは料理をテーブルに置きながらハバキ様に言う。
「ハバキ、そんな堅苦しいものではないのじゃ。そもそもお主のヘマから始まった事じゃろ、これ以上大事にしようとするな。」
「失礼しました……。ご迷惑をかけて申し訳ありません。」
「まったくじゃ、本当なら今頃ゆっくり風呂にでも入っておったというのに。」
ニヤリと笑いながらハバキ様をつつくキイ。半分は本気で言ってるな、これは。
一番迷惑が掛かったのは殺されかけたシヴだと思うのだが、本人が全く気にしてないのだから気にしても仕方ない。
暫くして、ハバキ様が一人目の貴族を連れて戻って来た。トビーを見付けて何やら挨拶をしているようだが、トールさんとトビーの組み合わせが余りにも異様なので少し引いているようだ。
俺とシヴはこういうのは苦手なので、なるべく関わらないようにするという事で意見が一致している。王様に領主様に元女王様がいるんだ、そっちで勝手に片付けて欲しい。
という訳で、料理も殆ど運び終わったし、一旦シヴと引っ込む事にした。全員集まった頃に顔合わせだけしておけば問題ないだろう、向こうだって俺達に興味はないだろうし。
「まあでもよ、腹ぁ減ったな。」
「そうだな、とはいえ流石に勝手に庭のやつ食べ始めるのもなあ……。」
俺達は余った食材でもないかと厨房のローランを訪ねる。
「あら、もうご助力は必要ありませんよ?」
「そうじゃないんだ、お腹空いちゃってね。」
「何か余ってねーか? 使ってない肉焼いてくれるだけでもいいんだけどよ。」
「と言われましてもねえ……、材料は切れ端ばかりですし……。それをパンに挟むくらいならできますけど。お部屋にお持ちしましょうか?」
「ありがてえ、部屋じゃなくてどっかその辺にいるつもりだわ。気配消さねえからおまえさんならわかるだろ、茶ぁ先に貰ってくぜ。」
シヴはグラスにお茶を注いで玄関の方へ歩いて行った。外で風に当たりながらゆっくりするつもりなんだろう。
「では、すぐにお作り致しますね。」
「うん、頼む、俺はここで待ってるよ。」
「一つ心配な事が。」
「何?」
「そろそろ次のお客様がお見えになる頃ですよ。」
「何でわかるの?」
「全ての貴族屋敷の位置は当然として、屋敷内の人員構成から、それぞれの性格や持っている馬の速さまで把握しております。」
「そりゃ凄いな、さっき来た人の次に近い家の人が来る頃って事かな?」
「うふふ、そんな単純な話ではありませんよ。」
「そっか。でもそれの何が心配なんだ?」
ローランは火蟲の火で炭に火を点ける。パンに焼き目を付けて挟んでくれるようだ。
「それはですね、おそらくその方が御連れになる従者が……。」
「またアサシンだとか言うんじゃ……。」
「まさか、アサシンなんて絶滅危惧種なんですよ?」
「そんな事知らないよ……。で、何なの、その従者ってのが。」
「すっっっっっっっっっごく性格がわる……」
「なんだ貴様あああああ!!」
ローランがそこまで言った時、厨房に聞こえるくらいの声量で男の怒号が響いた。
何事かと顔を覗かせると、剣を構えた貴族と思われる男と、お茶をすするシヴ、それと足元に倒れている男が見えた。
俺の肩に手を置いて、後ろからローランもひょっこり顔を出す。
「あ~、遅かったですね……。ご愁傷様。」




