入居します⑲
ナインハルトがくれた光蟲は五匹。シヴは餌をやるのがそもそも面倒だから要らないと言うので、俺の部屋、キイの部屋、厨房、トイレ、それと今トビーとトールさんが盛り上がっている居間に放った。
ローランも毎日ここにいる訳じゃないので、今のところは必要ないと言う。
風蟲は三匹だが、不人気なのでみんな要らないだろうと思いきや、キイが欲しがったので三匹ともあげた。地下は風通しが悪いので、空気の入替に使うんだそうだ。
ローランに声を掛けてみたが、特に手伝いは要らないらしい。どうしても暇なら庭のテーブルにクロスでもかけておいてくれ、と言われたので庭に行ってみる。庭にはピクニックに持って行くような簡易なテーブルと椅子がいくつか置かれていた。
トールさんとトビーもその椅子に場所を移しているが、ナインハルトはそれを直立不動で見守っている。
「座ったらいいのに。」
「いえ、流石に陛下の前でそのような失礼な事は……。」
「いや、ただの町人のトールさんなんか足組んでますけど。」
「あの方は陛下のご友人ではないのですか?」
「今日初めて会ったばかりですし、もしかしたらまだあれが王様だって知らないおそれすらあります。」
「無知とは恐ろしいですね、私がシヴ様を試そうとした時みたいなものですか。」
ん、いや、多分それとは全然違う方向に行くと思うけどな。ひとつ試してみるか。
「トビー、トールさんに自己紹介したのか?」
「え? してないけどそんな必要ないんじゃないの? もう余とトール君は親友と言っても過言ではないよ。」
「お互いの素性を知らない親友があるか、大方いきなり畏まられるのが嫌で話してないんだろ。」
「おおおぉぉう、鋭いね。ただね、今を生きるというのはそういう事なんだよ?」
「わけわかんない事言わなくていいから。トールさん、このトビーは、見た目も言動もいかれてますし、認めたくありませんが、一応王様なんですよ。」
トールさんは一寸驚いた顔をして固まった。あれ、意外とトールさんも普通の反応するんだな、予想外だ。
「あ~あ、やってくれたね死なない人。ファッションリーダー同士の楽しい語らいはもうおしまい、これだから身分って奴は時に足枷なんだよ。」
「悪いな、まさかトールさんもこんな普通の反応をするとは思わなくて。」
しかし、突然トールさんはトビーの手を握り、潤んだ瞳でトビーを見つめる。おっさんがやっても少しもときめく要素はないが。
「やっぱり! ただものじゃないとは思ってたす! 自分なんかより気品に溢れてるし、人類のリーダーがファッションのリーダーなんて凄いっすよ!」
……やはり、身分くらいで動じる人じゃないな。前の王に同じ事したらその場で処刑されても文句言えないと思うけど。
むしろ今度はトビーの方が驚いて固まってしまった。
「どうしたすかトビーさん!?」
「……え? いやいやいや、余は王だよ?」
「あはい、聞いたすけど?」
「ええっ!?」
「ええ?」
何故か俺の顔とトールさんの顔を交互に見るトビー。こいついつも飄々としてる癖に想定外の出来事にはこんなに弱かったんだな。
「良かったな、ハバキ様以来のお友達が出来たんじゃないのか?」
「君達がいるでしょ?」
「俺達は違う、友達じゃない。おめでとう。」
「照れ屋さん照れを売っておくれよ。」
「在庫はありません、またどうぞ。あとそこのギルドマスターも友達にしてやれよ。ダコタでもその後何処かでも会ってるんだろ。」
俺にそう言われるとトビーはナインハルトを手招きして、空いている椅子を差し出した。
「座っていいって言ったじゃない、おかげで余が死なない人に怒られたよ。」
「も、申し訳ありません!」
「君は良くやってくれているよ、ハーちゃんから聞いてる。余の目に狂いって言うのは本当に無いんだね、余、凄い。」
「身に余る光栄です!」
「ああ、君ってボケを殺すタイプ?」
「……は? ボケ……ですか?」
「いや、いいよ、とにかく君も何か飲んで。また余が怒られちゃうから。」
「自分おかわりなんで、ついでに貰って来るっすよ、何飲みます?」
これで三人仲良くしばらく話しててくれるだろ、貴族が来たら相手させよう。




