入居します⑱
食事を済ませての帰り道、シヴに進捗を聞くと今日はもう手伝う必要はないらしい。
シヴが運んでいたのが一番大きかっただけで、後は大人一人か二人で運べるサイズの物ばかりなので、例のトールさんのところの男達に任せたそうだ。
「シヴは変な目で見られなかったのか?」
「何がだよ。」
「何って、あの人達にだよ。キイと一緒に住むからって嫉妬されてたみたいなんだけど。」
「ああ、そういう事か。あいつら口のききかたも知らねえなとは思ってたがな。」
「がな?」
「しゃーねーから一人で箪笥抱えたら目も合わせなくなった。」
「……だろうな。」
ギルドへの別れ道へと再び差し掛かると、またナインハルトが独りで悩んでいるのが目に入る。あそこで悩むのが癖なのか?
「何やってるんです……?」
話しかけるとナインハルトはビクッと体を震わせてこちらを見た。
「まさか二度もこんな姿をお見せすることになるとは、失礼しました。」
「いや、いいんですけど。今度は何を悩んでるんですか?」
見ると足元に先程の酒瓶と、大きな木箱が置かれている。木箱には蟲が入っているんだろう。
「実は……、どのくらい蟲を買えばいいのかわからなかったので、この数で正解なのか今一度考え直しておりました。」
そんな事か……。
「いいんですよ気持ちなんですから。取り敢えず氷蟲が一、二匹欲しかっただけですし。」
「なんだ? ギルドマスターにおつかい頼んだのかお前さんら、いいご身分だな。」
シヴがニヤニヤしながら嫌味を言うので、経緯を説明してやった。
「なるほどねえ……。おい、ナインハルト。」
「は、はい……。」
「酒は俺が貰っとくぜ、こいつはとっておきにさせてもらうわ。」
シヴは木箱の上に置いてあった酒瓶を取る。
「こ、光栄です!」
「その箱に何匹入ってるのか知らねーがよ、土産の一つも持ってこねえ王様に飼ってる犬も止められねえ御領主様がすでに来てんだ、気にすることじゃねえよ。数の大小なんざどうでもいいぜ、ありがたく貰っといてやるからとっとと運んでくれ。」
「はい! ありがとうございます!」
そう言って、ナインハルトは木箱を持って先に屋敷の方へ走って行ってしまった。「とっとと」の部分を変な解釈してしまったのだろうか。
いやいや、ありがとうございますはこちらの台詞なんだけど……。ココノエさんの件も手伝ってナインハルトは完全にシヴ信者になってるな。
「ふふ、シヴは上手じゃの。」
「あれが計算ならね。」
「ま、そうじゃの。さて、ワシらも早く帰るとしよう。」
ローランが調理に取り掛かっているのだろう。屋敷に近付くにつれ、段々と良い匂いが鼻をくすぐり始める。
玄関ではハバキ様とナインハルトが何やら談笑しているのが見える。
木箱はないので、おそらくもう運び込んだのだろうが、わざわざ玄関で話す必要があるのか?
「やあおかえり、ローランはもう料理を始めたぞ。」
「どうもハバキ様、蟲はどうしました?」
「何だ? ナインハルトの祝いの品を知っていたのか。氷蟲と火蟲はすでにローランに渡してある、光と風はまだ箱の中だ。」
「そうですか、ありがとうございます。ナインハルトさんにも改めてお礼言います、助かりました。」
「お礼だなんてとんでもない、他に何か手伝えることはありませんか?」
ナインハルトってどこまでもいい奴なんだな、天然だけど。
「う~ん、いや、悪いですよそこまでさせちゃ。」
「いいのです、些細な事でも遠慮せず言ってください。」
「あ、じゃあ……。」
ナインハルトたっての希望で何か手伝いたいと言うので、トビーとトールさんを見守っている家具屋の店主さんと交代してもらう事にした。
異空間から解放されたので家具屋さんはこれから戻って家具の手配をするそうだが、トールさんは相変わらずトビーと訳の分からない話をして盛り上がり続けているので置いて行って貰う。
トビーを構わずに済むので、実は今一番助かっているのはトールさんという存在だ。今後トビーが来たら必ず呼ぼうと心に決めたくらいだ。




