入居します㉒.5♦
ハバキに連れられトビーの居る庭へと向かうデンゼルは、この出来事をトビーに告げられ、そして自分の家が取り潰しになる未来を想像していた。
政治に関わるどころか城にすら滅多に顔を出してこないとはいえ、大公の息子を侮辱してしまったのだ。
デンゼル自体は悪人ではないのだが、劣等感をバネに男爵から子爵になった父親の影響でレイシストの気があり、逆に言えば身分が上の者へ歯向かうような考えは少しも持たない男である。
「一体何があったのだ、この件は私のところで止めてやってもいいのだが。」
ハバキの言葉にデンゼルの肩がビクつく。
「その代わり正直に話せ。」
デンゼルは目を見開いて頷いた。
「デンゼル殿の従者がシヴ殿に倒されたのはわかる、見たままだからな。貴公ら、何をしたのだ?」
「最初はこの屋敷の下男だと思ったのです。エルフの女王の元へ案内せよと命じました。」
「ふむ、言っては悪いがその勘違いは仕方なかろう。」
「大公のご子息は、それを拒否しました。」
「そうか。」
「ガルボニーが下男の分際でその態度はなんだと詰め寄り、見てくれだけの剣で何がしたいんだ、下男だとしても客が来るというのにもう少しまともな恰好はできんのか、等と挑発を始めたのです。」
「ガルボニーというのは貴公の従者だな?」
「そうです。」
「つまりその挑発でシヴ殿の怒りを買い、ああなったという事だな?」
「そうではありません。その挑発の後も、剣を抜かせようと様々な言葉で攻撃しましたが、どれだけ罵倒しようとご子息は眉一つ動かしませんでした。」
「ほう。」
「しかし、ガルボニーがある一言を言った瞬間、すでにガルボニーは地面に倒れていたのです。」
「……その一言とは?」
「エルフの女王を馬鹿にしたのです。こんな者を雇わなければならないくらい、エルフの女王とやらは落ちぶれているのか、所詮エルフ等奴隷としての価値が高いだけの慰み者だと。」
「……それを聞いて貴公はどうしたのだ。」
「どうと言われましても、後ろで見ていましたが?」
次の瞬間、デンゼルの顔にハバキの肘が刺さった。鼻血を噴き出しながら地面を転がるデンゼル。
「やはり貴公はクズだな。前王の時代はそれで良かったかも知れんが、シヴ殿への無礼等よりもその性根の方が王に知れれば……。貴公、ただでは済まんぞ。」
「そ、そんな……。」
「約束は約束だ、この件は私の胸で留める。ただし貴公には意識改革が必要のようだ、覚悟しておくが良い。」
鼻血で胸を真っ赤に染めたデンゼルがトビーに挨拶をしトビーはその姿に驚いたが、ハバキの合図でハバキの心を読んだトビーは、何が起きていたのかを理解した。
「何があったかは知らないけど、その赤さ、中々情熱的だね?」
咎める事はせず、胸を指差して笑うトビー。
後にデンゼルは反差別組織を纏め上げ、世界から差別を無くす大きな一歩を踏んだ男として歴史に名を残す事になるのだが、それはまた別の話。




