入居します⑭
ローランの部屋の片づけはすぐに終わった。そもそも使用人は小さな部屋に住むのが常識らしいので、大した量の家具ではなかったのだが。
「エルフの国では使用人は同じ屋敷に住むことは無いからの、そもそも使用人用の個室等存在しておらんのじゃ。それもあって増築したんじゃろうな。」
「あ、じゃあ俺の選んだ部屋って……」
「使用人用じゃろうな、先程のトビーと話した部屋は使用人の食堂も兼ねておったのじゃろう。ただ、上の部屋もローランの言うような狭い部屋ではなかったと思うがのう……。」
見取り図を取り出して部屋の大きさを確認するキイ。
「ふむ、これはあれじゃな、他に部屋は無いし、小さな部屋に一人ずつ住んでたのでは無く、大部屋にみんなで住んでいたと見るのが正しいじゃろう。」
掃除中だったので中を確認してなかったのだが、見取り図を見ると確かに俺の部屋はそこそこでかい。
「何人くらい住んでたんだろうな。」
「さあのう……、エルフの社会では使用人は家族揃って雇う事が多いから、案外ここでもそうしていたのかも知れんのじゃ。家族なら同じ部屋で過ごすのも当たり前じゃからの、さっきも言ったが、エルフは使用人も自分の家から通うのでな、加減が良くわからなかったんじゃろう。」
「そんな料理初心者みたいな……。」
「あっ、料理と言えば。」
ローランが顔の前で手を叩く。
「お食事ですけれど、よろしければ私がお作りします。材料どころか、調理器具もお皿もないのですけど、言って下されば用意して参りますよ。」
「その必要はない、祝いに私が持参した。」
ローランの提案に頷く前に背後から声がしたので、振り返るとハバキ様がいた。
「あらハバキ様、お早いですね。」
「ふふ、これでも昔は疾風のキリコと呼ばれたのだ、雑作もない。」
疾風のキリコは汗が光る顔を袖で拭いながら、肩で息をしながらそう言った。造作もない……、って事は無さそうだな。
「あの、ハバキ様、持参したとは?」
俺が尋ねるとハバキ様は玄関の方に手を向けて、得意気な顔で言う。
「ビーちゃんの友人であり世界の調停者の貴公達の屋敷に、先刻は手土産も無く来た事、余りにも無礼過ぎたと猛省してな。今度はきちんと贈答品を用意して来たのだ。」
「調停者っていうのは大袈裟過ぎますし、そもそもトビーの友人ではありませんよ。」
「……そうか、やはりビーちゃんの言うように貴公達は恥ずかしがり屋なのだな。」
トビーから何を聞かされているんだハバキ様は。
玄関前には馬車の代わりに荷車を付けられた馬が居たので、みんなでお祝いに持って来たという物を見に行く。どれも上等だと思われるような揃いの食器類に、果実酒一樽、何だか品の良い箱に入った肉や野菜が所狭しと並べられていた。
「いや、気持ちは嬉しいですけどこんなに貰えませんよ!」
「いいのだ、これはココノエの件の詫びでもある、受け取ってほしい。足りなければまた持って来よう。」
「詫びって言われてもシヴは無傷でしたしハバキ様の損害の方が大きいでしょう。」
「それは大丈夫だ、アレン殿の屋敷以外のローランの契約は私が先程切ってきた。ココノエが治るまでは領主館と半々で働いてもらう、アレン殿にとっても悪い話ではないと思うのだが。」
元々週二日程度しか来ない予定だったのが、半々になれば三~四日になるのでうちとしては損はないってのはわかるけど、いいのかそれで。違約金の支払いはこちら側ってトールさん言ってなかったかな。
「ハバキ様、私は嫌ですよ師匠の代わりをするのは。」
ローランがはっきりと拒否したが、ココノエさんはそんなに忙しくしてたのか。元アサシンだけど執事長だし、ローランのメイドとしての師匠でもあるんだよな確か。
「いや、ココノエの仕事は私がそのままやる、そもそもココノエは他の使用人のまとめ役だ、ローランにはできないだろう。」
「あら手厳しい、案外と私もやるかもしれませんよ?」
「そうではない。おまえはそもそもうちのメイドではないだろう、間諜として雇っているのだから。」
「まあ私のいう事をあの方達がお聞きになるとは思えませんねえ。」
あの方達というのは先輩のメイドや執事の事だろうか。
「そうだ、私もそう思う。だからローランには、ココノエがしていた仕事ではなく、私がしていた仕事を手伝ってもらうつもりだよ。」
「ああ、貿易の方ですか、あれなら簡単にできますね。」
「そんな事を言うのはおまえとビーちゃんくらいだよ。」
貿易を担当してるのかハバキ様は。いや、それとも領主として他の領とって事か? よくわからないな、俺に関係がある訳でもないからそこは詳しく聞く必要もなさそうだけど。
「でしたら、アレン様もお誘いすればよろしいですのに。」
「はへ?」
全く無関係だと聞き流していた話題が、いきなりこちらに向いて思わず変な声を出してしまった。




